選挙を知ろう 再選挙ってなに?

2018年4月、千葉県市川市で、ある珍しい選挙が行われ、注目されました。市川市では2017年11月に市長選挙が行われましたが、その際には当選者が決まらず、改めて市長選挙が行われたのです。この間に現職の市長は退任。市長不在が長期間続く、異例の事態の中行われたこの珍しい選挙、「再選挙」といいます。当選者が決まらないとはどういうことなのでしょう。そして、再選挙とはどんな仕組みなのでしょうか。

“再選挙”って?

実は公職選挙法では、当選するために最低限必要なライン=「法定得票数」を定めていて、それを下回った場合は、たとえ一番多くの票を獲得していても当選とはならないのです。

なぜ、こうした仕組みがあるのか。

日本や世界各国の選挙制度に詳しい、一橋大学大学院の只野雅人教授によると、極端に少ない得票数の候補は、全体の代表にふさわしくないと考えられているということなのです。どんな選挙であれ、当選した人は有権者全体の代表でなければいけません。少数の支持しか得られていない人が当選しても、本当に全体の利益をバランス良く考えられるのかという懸念が残ってしまいます。法定得票数を設けることには、こうした懸念を払拭(ふっしょく)する狙いがあります。

只野雅人 只野教授

当選者は、より多くの民意を集める必要があり、そのために必要な仕組みだ

只野雅人 一橋大学大学院教授:日本や世界各国の選挙制度に詳しい

法定得票数は選挙によって異なりますが、首長選挙の場合、「有効投票数の4分の1」となっています。ちなみに衆議院選挙の小選挙区は「有効投票数の6分の1」です。

そして、どの候補もこの得票数に届かなかった場合に行われるのが“再選挙”です。首長選挙の再選挙は、2週間の異議申し出期間を経て、50日以内に行われます。再選挙となった場合、届け出からやり直しとなるので、当初の選挙に立候補しなかった人でも選挙に出ることができます。

市川市長選挙では……

市川市長選挙で何が起きたのでしょう。

2017年の選挙は現職の市長が立候補せず、5人の新人によって争われました。法定得票数は2万9770票でしたが、最も多い得票数の候補も、僅かに届かない2万8109票にとどまりました。地盤や知名度がある候補が何人も立候補したため、票が分散されてしまったのです。そして2018年4月、再選挙が行われ、ようやく新しい市長が決まりました。当選したのは、当初の選挙でトップだった候補でした。

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市川市長選挙(2017年11月)の開票結果

過去の再選挙

総務省が把握している範囲で、得票数が足りずに首長選挙の再選挙が行われたのは、市川市長選挙以前には5例しかありません。有権者の規模が最も大きい自治体だと、2003年(平成15年)4月に行われた札幌市長選挙、また最近では、2017年1月に行われた鹿児島県の西之表市長選挙が再選挙になりました。

市川市長選挙をはじめ、首長選挙の再選挙では、当初の選挙でトップだった候補が当選することがほとんどですが、1979年(昭和54年)の千葉県富津市の市長選挙では、当初の選挙で3番目だった候補が再選挙でトップとなり、「逆転勝利」を果たしました。

フランスは「決選投票」

得票数の最低ラインを設けるという考え方は、日本だけのものではありません。フランスのリーダーを決める大統領選挙を見てみましょう。2017年4月に行われた選挙には11人が立候補しましたが、この時には大統領が決まりませんでした。フランスの大統領選挙で当選するには過半数の得票が必要ですが、誰もクリアできなかったのです。

では、この先、どうやって決めるのか。

上位2人による「決選投票」を行うのです。翌月行われた決選投票では、マクロン候補が極右政党のルペン候補を破って大統領となりました。

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日本でも決選投票が

実は日本でも、昭和21年から一時期、決選投票の制度が導入されていました。当時は、首長選挙の法定得票数が「有効投票数の8分の3」となっていました。どの候補もこの得票数に届かない時、決選投票となったのです。

しかし、「8分の3」というハードルは高すぎたようで、昭和22年と26年に行われた統一地方選挙では、知事や市長などあわせて500近い選挙で決選投票となりました。このため昭和27年、「8分の3」は現行の「4分の1」に引き下げられ、それにあわせて決選投票の制度は廃止されました。

課題は「低投票率」か

「再選挙」も「決選投票」も、「より多くの民意を集める」という考え方に違いはありません。ただ、最近の選挙に見られる低投票率の傾向は、当選者が多くの人から本当に支持されたと言えるのかという疑問を、私たちに投げかけてきます。

投票率がどんなに低くても選挙が無効になることはありません。20%台の投票率を記録することもある昨今、「再選挙」の考え方と矛盾はないのでしょうか?

只野雅人 只野教授

重要な事柄を、有権者の十分な支持を得ていない代表が決めていく、という構図になりかねない。その意味からも、投票率の低下は望ましくない状況だ

「投票したい人がいない」といった理由で、投票を棄権する人もいるかもしれません。ただ、自分の考えに完全に合致する候補などいないでしょう。候補の政策や人柄などを見極めて、自分により近い方を選ぶという発想も必要だと思います。

再選挙という仕組みを通じて、改めて、投票の重要性を考えてみてはどうでしょうか。