選挙を知ろう

激増 期日前投票!
いったい何が?

投票日当日仕事や旅行などで投票に行けない人のために平成15年に導入された期日前投票。利用者は徐々に増え、去年の衆院選ではついに2000万人台に。先日行われた沖縄・名護市長選では、投票者の実に6割が期日前投票を利用するなど、地方選でも利用者が増えている。
選挙の結果を占う上でも大きな存在となった期日前投票。激増の背景と実態に迫ってみよう。

女子高生

期日前投票者って、そんなに増えているの?

リポーター

ひと言で言うと「増加、また増加」なんだ。衆院選や参院選を例に見てみよう。期日前の「投票期間」がそもそも違うけど、どちらの選挙も緩やかな増加傾向となっているよね。

国政選挙の全国の期日前投票者数
女子高生

特に衆院選は、前回からの増え方がすごいね。

リポーター

そう。約822万人も増えているんだ。都道府県別でみても、前回の衆院選から利用者数が減った都道府県は一つも無かったんだ。全国では有権者の5人に1人程度の「利用率」だったけど、都道府県別だとトップは秋田県の3人に1人(32%)、続いて沖縄県の4人に1人(27.5%)などとなったんだ。

女子高生

秋田県ってすごく利用者が多いんだね。

リポーター

そう。そのすごさは「物差し」を少し変えるとより際立つんだよ。

女子高生

えっ、どういうこと?

リポーター

有権者ではなくて、実際に投票した人のうち、どれだけの人が期日前投票を利用したのかを見てみると……

都道府県名 期日前投票の割合
秋田県 52.8%
沖縄県 48.8%
和歌山県 48.3%
大分県 47.4%
茨城県 46.0%
徳島県 44.1%
愛媛県 44.1%
岐阜県 43.6%
岡山県 43.6%
三重県 42.6%
リポーター

秋田県は52.8%で堂々の1位!投票日当日よりも、期日前投票者の方が多くなったんだ。こうした現象は国政選挙では初めてなんだよ。

女子高生

でも、なんでこんなに期日前投票者って増えたんだろう?

リポーター

それは、有権者が期日前投票を利用できるチャンスが大幅に増えているからなんだ。例えば、大規模な商業施設やデパートといった場所に、期日前投票所が設けられているの見たことない?

イオンなどSCの期日前投票所 大規模ショッピングセンターに設けられた期日前投票所(高知市)
女子高生

ある、ある。実際投票で使ったことがあるよ!

リポーター

過疎が進んだ地域では車を使った「移動期日前投票所」も、徐々にではあるけど導入が進んでいるんだよ。

移動期日前投票所(島根県浜田市) 移動期日前投票所(島根県浜田市)
リポーター

加えて、期日前投票所の数が、そもそも増えていることも大きいね。大きな転換点は2016年。選挙権年齢の引き下げなんだ。これをきっかけに若者たちに1票を投じてもらおうと「高校・大学」等の投票所が一気に増えたんだ。

国政選挙の期日前投票所数
高校に設けられた期日前投票所(千葉県富里市) 高校に設けられた期日前投票所(千葉県富里市)
女子高生

なるほど。こうしたこともあって期日前の投票者って増えたんだね!

リポーター

じゃあ、今度はもっと細かいデータ。自治体レベルでの期日前投票の状況を見てみよう。調べるのがすごく大変でマニアックな情報なんだけど、見てみると意外とおもしろいんだ。単純に「利用者数」で見てみると、人口の多い「都会の街」ばかりになるので、まずは前回衆院選から何倍に増えたのか注目してみてみよう。

自治体名 2017
衆院選
2014
衆院選
鹿児島県南種子島町 1,513 455 3.33倍
静岡県焼津市 28,228 8,694 3.25倍
千葉県八千代市 38,896 12,009 3.24倍
奈良県大和郡山市 19,454 6,813 2.86倍
岐阜県坂祝町 2,039 735 2.77倍
リポーター

まず、トップ5を見てみよう。上位3つの自治体では、期日前投票者が前回から、なんと3倍以上に増えたんだ。

女子高生

なんでこんなに増えたの!?

リポーター

それぞれの自治体の選挙管理委員会の方たちに話を聞いてみたよ。まず、鹿児島県の南種子町は「台風21号が近づいてきたので防災無線で早めの投票を呼びかけた」のことが一番の要因だと言っていたよ。

女子高生

確かに。2017年の衆院選は、台風が日本列島を横断したよね……

リポーター

そうだね。実は、こうした呼びかけは法律が改正されたからできたんだ。2017年6月に公職選挙法が改正されて、「天災又は悪天候により投票所に到達することが困難であること」を理由に期日前投票が行えるようになったんだ。南種子町選挙管理委員会のように、各自治体の選管が「台風が来る前に!」と呼びかけたことが、2017年の衆院選で投票者が激増した一番大きな要因なんだ。

女子高生

じゃあ、焼津市(静岡県)や八千代市(千葉県)なんかも、台風の影響で増えたんだね?

リポーター

その影響はもちろんあるけど、この2つの市は少し状況が違うみたいなんだ。まず焼津市の方なんだけど、このとき、期日前投票者が増えた一番の理由は、市内の大型商業施設に期日前投票所を設けたことなんだって。

女子高生

買い物ついでに、利用しやすい場所に設けたんだね。

リポーター

そう。でも「ついで」に加えて、バリアフリーが進んでいるというのも利用されている理由みたい。投票日当日の投票所は、近くの学校の体育館や公民館などに設けられることが多いけど、お年寄りや体の不自由な人には、少し環境面で利用しづらい面もあるみたいなんだ。こうした点も含めて、有権者はよりバリアフリーの進んだ期日前投票所の方が投票しやすいと判断したみたいなんだ。

女子高生

なるほど。そういう面でも期日前投票が利用されているところがあるんだ。

リポーター

八千代市は、2014年、市の施設2か所に設けていた期日前投票所を、市の施設1か所、商業施設3か所の合計4か所に変更したんだ。投票所を増やし、なおかつ、有権者が利用しやすい場所に設けたことが増加につながったと、選挙管理委員会の方は分析していたよ。

女子高生

やはり、投票所が便利な場所に増えると利用者は増えるんだね。

リポーター

続いて自治体別に、実際に投票した人のうち、どれだけの人が期日前投票を利用したのかを見てみよう。都道府県別では秋田県の52.8%がトップだったけど……

自治体名 投票者に占める
期日前利用者
沖縄県伊是名村 93.0%
沖縄県渡名喜村 89.5%
大分県姬島村 89.0%
沖縄県渡嘉敷村 83.6%
沖縄県伊江村 82.4%
鹿児島県宇検村 82.2%
山梨県丹波山村 81.6%
沖縄県南大東村 80.5%
沖縄県座間味村 80.1%
沖縄県伊平屋村 80.1%
女子高生

93%!なんでこんなに……

リポーター

あまりにもびっくりしたので、伊是名村選挙管理委員会の方にお話を伺ったんだ。「ある理由」で期日前投票を利用するように呼びかけたことが理由なんだって。

女子高生

どんな理由……?

リポーター

実は衆院選の投票日はもともと、村で開催されるトライアスロン大会の日程だったんだ。大会の運営には多くの人が関わることもあり、選管は期日前投票の利用を呼びかけていたんだ。ちなみに2014年の衆院選の利用者は、投票者の47.4%。多くの人が利用しやすいように、2017年は期日前投票所を役場以外にも日替わりで設ける工夫も行ったんだ。

ニュース画像 伊是名村の役場以外に設けられた期日前投票所
リポーター

そうした甲斐あって、投票者784人のうち、期日前投票を利用した人はなんと729人!(当日投票は43人)。期日前投票を呼びかけるきっかけとなったトライアスロン大会は残念ながら台風の影響で中止になったけど、誰もがびっくりするような利用率になったんだ。

女子高生

そうか。でもこうしてみてみると村が多いね。市になるとどうなんだろう?

リポーター

それについても調べたよ。大変だったけど。

自治体名 2017
衆院選
2014
衆院選
秋田県男鹿市 72.7% 68.8%
岐阜県郡上市 68.4% 46.8%
大分県豊後大野市 68.2% 51.3%
三重県志摩市 67.3% 31.9%
兵庫県南あわじ市 66.5% 37.4%
秋田県にかほ市 65.0% 60.8%
三重黑尾鷲市 64.9% 33.4%
鹿児島県いちき串木野市 63.8% 41.2%
茨城県鉾田市 63.1% 34.3%
静岡県御前崎市 61.7% 39.5%
リポーター

市でみると、トップは秋田県男鹿市の72.7%。以前から大型商業施設に期日前投票所を設けているため、2014年の選挙でも利用率が高いんだ(2014年は68.8%)。2番目の岐阜県郡上市は、台風が近づいたため、投票日前日、無線で投票を呼びかけたことが要因なんだ。ただ、期日前投票の利用者の中には、「投票日当日、近所の投票所だと知り合いに会うのがイヤ」ということを理由にあげる人もいるんだとか。人間関係が濃密な地域ならではの理由かもしれないね。

女子高生

こうした自治体レベルのデータまでなかなか見る機会がないからおもしろいね。

リポーター

そうだね。やはりここまで増えたのは、制度の導入から時間がたったということもさることながら、各自治体の選管が多くの人が利用できるように工夫を重ねてきたことも要因だと思う。2017年は台風の影響で大幅に利用者が増えたけど、次の選挙ではどうなるのか?また、投票される側の候補者の選挙戦略にどのような影響を与えているのかも、今後掘り下げてみていきたいね。

*おことわり

合同開票区となった神奈川県川崎市の中原・高津・宮前・多摩の各区。愛知県の瀬戸市・春日井市は集計から除外しています。都道府県データは、総務省の速報資料。自治体別のデータは、都道府県選管等のデータです(一部の県は期日前投票者が国内のみとなっていたり、不在者投票が混じっていたりするケースがありますが、ここで示した順位に変更はありません)。