選挙を知ろう

選挙制度のマジック

選挙制度に「マジック」が?!

アメリカのトランプ大統領が就任したね。

女子高生

クリントンさんと選挙に出てた、髪の毛がフワフワのおじさんだよね?

2016年11月の大統領選挙では、共和党のトランプ氏に民主党のクリントン氏が敗れたんだ。この2人の得票差はどれくらいだったか知ってるかな?

女子高生

うーん、悔しがってる人もいたから、トランプさんの方が少しだけ多かったんじゃないかな。2000票とか?

実は「得票数」だけで見ると、クリントン氏のほうが、200万票以上多く獲得したんだ。

女子高生

えっ?なんで?得票数が多いほうが大統領じゃないの?

それが「選挙制度のマジック」。今回のテーマだ。

シケセン⑤

アメリカのマジック 種明かし

アメリカでは、必ずしも、国全体での得票数が多いほうが大統領になるわけじゃないんだ。その理由は、アメリカの選挙制度にある。

アメリカの大統領は、各候補者が全米50州と首都のワシントンDCで獲得する「選挙人」の数で決まるんだ。

票は州ごとに集計され、得票数が1票でも他の候補者を上回れば、その州の勝者となる。州の勝者になると、あらかじめ割り当てられた選挙人をすべて獲得することになるんだ

選挙人の合計は538人。選挙人の数は人口に応じて割り当てられ、最も多いカリフォルニア州では55人、アラスカ州などでは3人と大きな開きがある。

州ごとに獲得した選挙人の数を積み上げ、過半数の270人に達した候補者が勝利となる。だから、単純な得票数では負けているものの、選挙人の数では上回るという逆転現象が起きるわけだ。

女子高生

なるほど。トランプさんが勝ったのは選挙人の数で、得票数だけで争う選挙制度だったら、クリントンさんが大統領になっていたんだね。

そういうことになるね。

※2つの州を除く。

シケセン⑤

2016年大統領選挙の結果。トランプ氏勝利が赤、クリントン氏勝利が青。

日本のマジック「小選挙区」

「選挙制度のマジック」とも言えることは、日本でも起きている。

2014年の衆議院選挙の小選挙区の獲得議席は、295議席のうち、76%にあたる223議席を自民党が獲得したんだ。

じゃあ、その得票数は、全体の得票数のうち何%だったと思う?
次の4つの選択肢から選んでみてね。

① 78%
② 68%
③ 58%
④ 48%

正解: ④48%

自民党の獲得議席は全体の76%を占めているけど、実際の投票総数のうちの48%しか獲得していないんだ。つまり、自民党は「小選挙区」に投票した人の2分の1の得票で、4分の3の議席を得たことになる。

シケセン⑤

女子高生

いったいどういうこと?どうしてこんなことが起こるの?

衆議院の「小選挙区」は、一つの選挙区につき1人の候補者を選ぶ方式だ。だから、他の候補者より1票でも上回れば、その候補者が勝つ。候補者が乱立している場合、票を奪い合うことになり、30%程度の得票率で当選することもあるんだ。

シケセン⑤

小選挙区で票が割れた場合

女子高生

有力な候補者がいない場合は、本当に時の運になりそう。他の候補者を応援していたら、なんだか納得いかないかも。

一つ一つの選挙区で、自民党が他の候補者に勝った結果が、223という獲得議席なんだけど、全体の得票数の割合からすると、違和感があるものになる。落選した候補者に投票した票を「死に票」と言うんだけど、小選挙区制は、「死に票」が生まれやすい制度だ。

女子高生

なんで、こんな制度にしているの?

それは、政権交代が可能な「二大政党」を生みやすいとされているからなんだ。

「小選挙区制」は、1994年に導入されたけれど、その後、2009年には自民党から当時の民主党に政権交代したよね。さらに、2012年には、再び自民党に政権交代している。

政権交代を可能にしているわけだから、小選挙区制は機能している面はある。

一方で、政治的なイデオロギーで明確な対立軸がない、いまの日本でそもそも二大政党を目指すべきなのかという指摘もある。さらに、自民党の一強他弱の状況下では、さっき見たように、得票率以上に獲得議席に差が出やすくなるんだ。

世界の選挙方法

女子高生

「小選挙区制」は海外でも導入されているの?

イギリスやアメリカ、フランスなどでも導入されているよ。

フランスの下院では「死に票」を減らすために、少し変わった手法を導入している。いわゆる「決選投票」という手法で、2回選挙を行うんだ。

まず、1回目の投票で、最も多くの票を獲得した候補者が、①投票総数から無効票を除いた有効票の過半数を獲得したうえで、さらに②有権者の4分の1以上の票を獲得した場合に当選となる仕組みだ。

この2つの条件を満たす候補者がいない場合は、第2回目の投票が行われる。第2回目の投票は、有権者の8分の1以上の票を獲得した候補者たちの間で行われるんだ。もし、条件を満たす候補者がいない場合は、上位2人の間で選挙となる。第2回目の投票は、1票でも多くの票を獲得した候補者が当選となる。有権者からすれば、1回目の投票で支持する政党の候補者が負けた場合でも、2回目で、より考え方が近い候補者を選ぶことができるというメリットがある。

シケセン⑤

「決選投票」に似た仕組みで、投票を1回で済ませている国もある。オーストラリアだ。

オーストラリアの下院では、4人の候補者がいた場合、投票用紙では、4人の順位をつけるという方法をとっている。投票用紙には候補者の名前があらかじめ書かれていて、優先順位を書く欄が設けられているんだ。

1回目の開票では、順位を「1」とした候補者の得票数が集計され、過半数を獲得する候補者がいれば、その候補者が当選となる。

もしいなければ、順位「1」の得票が4番目だった候補者の票は、「2」と書いた候補者の票に回される。それでも、過半数を獲得する候補者がいなければ、得票が3番目の候補者の票も、「2」と書いた候補者の票となる。過半数を獲得する候補者が出るまで、この作業を繰り返すんだ。

シケセン⑤

さらに、スロベニアの一部の選挙では、有権者がつけた候補者の順位を、得点化するという手法をとっている。たとえば、4人の候補者がいた場合、順位が「1」の候補者は4点、「2」の候補者は3点、「3」の候補者は2点、「4」の候補者は1点として、足していくというものだ。

シケセン⑤

女子高生

本当に国によって、ばらばらなんだね。単純な多数決っていう国ばかりじゃないんだね。

選挙制度は、時代によっても変わるし、国によっても違う。選挙制度が異なるということは、得られる選挙の結果も変わるんだ。

選挙制度に詳しい慶應大学の坂井豊貴教授の『多数決を疑う』(岩波新書)と『「決め方」の経済学』(ダイヤモンド社)という本が参考になるので考え方を紹介しよう。

坂井教授のモデルケースを参考に、9人の有権者が、4人の候補者から1人を選ぶという選挙区を考えてみよう。9人は次の表のように投票したとする。

シケセン⑤

これをもとに、日本、フランス、オーストラリア、スロベニアそれぞれの方式で、計算した得票結果は次のようになる。なお、1位は4点、2位は3点、3位は2点、4位は1点とした。

シケセン⑤

女子高生

わぁ、すごい違う!

日本の方式では、投票用紙には1位の候補者の名前しか書いていないわけだから、1位の候補者の数で決まる。この場合、Aが4票で他の候補者を上回り、当選となる。

次にフランスとオーストラリアの方式では、1位の票はいずれも過半数を超えていないため、Aと2番目に票が多い、Bの決選投票となる。その結果、有権者⑧と⑨が2位をBとしているので、Bが過半数の5票を獲得し、当選となる。

スロベニアの方式では、Cを1位と書いているのは1人しかいないけど、Cが最多得点となり当選となる。

選挙の結果が民意だとすると、民意は選挙制度によって変わることがよくわかると思う。

では、選挙制度は誰が作るのか。国会議員だよね。政権を握っている与党が、わざわざ議席を減らす選挙制度に変えようとはしないので、選挙制度改革の議論はなかなか進まないんだ。だから、いまの選挙制度が導入された1994年は、日本政治の転換点の一つだと言えると思う。その経緯は、また別の回に説明しよう。

女子高生

うーん、どの選挙制度がいいのか迷うところだけれど、与党の保身のために選挙制度の改革が進まないのはいやだなぁ。

ここまで、衆議院の小選挙区制が抱える問題点についてみてきたけど、最後に、衆議院と参議院の選挙制度の違いをみていこう。下の表を見てほしい。

シケセン⑤

注目してもらいたいのは、「投票する票」の項目で、衆議院選挙も参議院選挙も、選挙区と比例代表の2票ということだ。

女子高生

なんで、わざわざ2票を投票するの?

上で説明したように、衆議院の小選挙区は政権選択を可能にする制度ということで導入されたんだ。デメリットは、「死に票」が多くなり、得票率以上に議席数の差が生まれやすいということだったね。

一方、比例代表は得票に応じて、議席が比例配分される仕組みだから、「死に票」が発生しにくく、比較的規模の小さい政党でも議席が獲得できるんだ。ただ、比例代表だけにすると、過半数の議席を獲得するのが難しく、多党化が進むんだ。多くの政党で連立政権を組むと、政策を決める過程でそれぞれの政党の意見を取り入れないといけなくなり、政権が安定しないという弊害もあるんだ。

だから、日本は「政権選択」と「多様な意見の反映」というふたつの機能を組み合わせたわけだ。

しかし、衆議院選挙も参議院選挙も選挙区と比例代表を組み合わせているということは、細かい違いはあるけど、似たような選挙制度ということなんだ。これについて、批判的な意見もある。

参議院は、本来、衆議院の行き過ぎにブレーキをかけることや、足りないところを補完することなどが求められている。しかし、「衆議院のカーボンコピー」などと言われるように、参議院の独自性はあまり見られない。このため、参議院の位置づけをもっと明確にして、選挙制度も変えた方がいいという声は根強い。

女子高生

じゃあ、どうすればいいんだろう?

各国の選挙制度がバラバラなことからわかるように、「完璧な選挙制度」というものはない。日本にふさわしいものということで、いまの制度となっているわけだ。

各党の勢力が変わるので、選挙制度を変えようという議論はなかなか進まないけど、国会ではまず、衆参両院が「どういった議会を目指すのか」をはっきり示したほうがいいと思う。そのうえで、党利党略を超えて、より民意を反映しやすい、そして、よりわかりやすい選挙制度はどういったものなのか、絶えず議論していく必要があると思う。

じゃあ、最後にもう一問。大学入試センター試験の問題なんだけど、わかるかな?

日本の選挙制度に関する記述として正しいものを,次の①~④のうちから一つ選べ。

① 衆議院議員選挙では、小選挙区制と全国を一つの単位とする比例代表制とが組み合わされている。
② 参議院議員選挙では、選挙区と比例代表区の両方に立候補する重複立候補者が認められている。
③ 衆議院議員選挙と参議院議員選挙のいずれにおいても、比例代表選挙ではドント式によって議席が配分されている。
④ 衆議院議員選挙と参議院議員選挙のいずれにおいても、満25歳以上の日本国民に被選挙権が認められている。

正解は③