選挙を知ろう

【世界選挙紀行】ポーランド②
世界は広い!丸い投票用紙が登場!?

 吉岡 潤さん吉岡 潤さん

津田塾大学学芸学部国際関係学科教授。ポーランド現代史を専門に研究。

投票箱も用紙も、デカい!

以前紹介した、ポーランドの“おしゃれ投票箱”。実はこれ、結構デカい!

人間と比較してみると、その大きさが分かるだろう。大人の腰くらいの高さがある。

ポーランドの“おしゃれ投票箱

大統領選挙だと、1枚で済むけれど…

というのも、選挙によっては、投票用紙がデカくて、かな~り分厚くなるからだ。

日本の投票用紙は縦が12.8cm、横が8.0cmと手のひらサイズだが、ポーランドはA4サイズ!さらに、時には12枚以上になるなんてことも!

日本とポーランドの投票用紙のちがい

とはいえ、ポーランドの国会議員選挙でも、選ぶのは候補者一人。
日本だって変わらないのに、こんな大きさと厚みってどういうこと?

日本とポーランドの違い…その訳は…

実は、これは投票用紙への記載方法の違いが原因。
日本では、投票する人が自分で候補者名や政党名を書き込む「自書式」だが、ポーランドではチェック欄に印をつける「記号式」なのだ。「記号式」の方が簡単そう…と思うが、実際、候補が多ければ、その分、紙が大きくなるし枚数も増えることになる。

例えば、ポーランド下院(日本でいうところの衆議院)の議員選挙。
各政党の得票数に比例して当選者数を決定し、議席配分する“比例代表方式”。候補者は政党・政党連合(選挙協力のために複数の政党が結成したもの)ごとに立候補する。それぞれの政党・政党連合で、候補者に“順位”がつき、名簿となる。

候補者名簿(イメージ)

候補者名簿(イメージ)

こうした候補者名簿が、政党・政党連合の数だけ作られるというわけだ。
この名簿が束ねられた“冊子”が投票する人に渡される。

2015年の下院議員選挙。首都ワルシャワの議員定数20の選挙区で、候補者を出した政党・政党連合は10を数えた。この10枚の候補者名簿に、プラスで表紙と目次が入り、冊子は12枚にもなった。

その全部に印をつけるのは、時間がかかりそう…?
いえいえ、有権者が印をつけるのは、選択した政党の特定の候補者への“1つ”だけ。
となると、それ以外のページは、ちょっと無駄のようにも思える。

政党にしても、“規則”で「名簿には定数分の人数以上の候補者を記載」することが決まっており(上限は定数の2倍の人数)、どう頑張っても当選しない人の名前がずらずらと並んでいる。特にひいきしている候補者がいない限り、名簿の順位が上位の候補者を選ぶのが普通のようだ。

ついに登場!?新型の投票用紙!?

2015年の下院議員選挙で、ある政党が「候補者名簿の順位づけを廃止しよう」と提案した。

名簿第1位になるのは、各政党のいわゆる“ボス級”の政治家だ。順位には党内の競争を勝ち抜いたことや、党への貢献度が表されているのであって、候補者自身の人柄や地域への貢献度が反映されているわけではない!…と発案者はいう。

だから、「党の論理で決まっていく順位を廃止しよう」というのだ。
そして、この党が提案した投票用紙がこれだ!

円形の投票用紙(イメージ)

円形の投票用紙(イメージ)

なんと、用紙自体が丸い!
中心から放射状に“チェック欄付きの候補者名”が配列されている。誰が上か、下かといった順列をつけない“円卓”の発想だ!

でも、ちょっと見づらいし、冊子にしにくかったり、投票箱に入れにくかったり…もしかしたら開票や保管もしにくいかもしれない。…そのせいか、この提案は、選挙管理委員会に取り上げられることはなかった。(ちょっと残念。)

それでも、投票率の低下や、当選議員の資質が問題となるケースの増加など、選挙の意味自体を問う声もあがるようになる中、選ぶ側と選ばれる側双方の意識や、選ぶ側と選ばれる側との緊張関係について、改めて考えさせられる提案だったのではないだろうか。

国情報

ポーランド共和国
  • 国名:ポーランド共和国
  • 首都:ワルシャワ
  • 人口:約3,848万人(2014年)
  • 投票権:18歳以上
  • 大統領:アンジェイ・ドゥダ
  • 首相:ベアタ・シドゥウォ
  • 有名なもの:フレデリック・ショパン、コペルニクス、キュリー夫人、アウシュビッツ・ビルケナウ強制収容所、琥珀、ウォッカ

(掲載されている情報は2016年12月現在の内容です)