選挙を知ろう
61年ぶりの戦い!?投票率88%の村長選
- 丸山雄毅記者 NHK大分
姫島は、周防灘に浮かぶ美しい島です。エビの養殖など、水産業が主な産業です。島の住民は、みんな顔見知り。島の外の人には、なかなか本音は言ってくれません。カメラの前ならなおさらです。それでも、取材で何度か足を運ぶうちに、少しずつ心を開いて、話してくれるようになりました。そこで聞かれたのは、高齢化や人口減少などの課題に対応するには、みんなで議論したほうがいいのか、それとも、強いリーダーのもとで団結したほうがいいのか、揺れ動く気持ちでした。地方の抱える問題の難しさを、かいま見た気がしました。
61年ぶりに選挙『戦』が!
大分県姫島村、人口2100人あまりの漁業の島。
昭和30年の選挙で投票が行われた後は、16回連続、「無投票」で村長が決まってきました。
ところが、現職の藤本昭夫氏の任期満了で行われた、ことし(2016年)11月の村長選挙に新人が立候補。「61年ぶり」!の選挙戦となりました。
現職の藤本昭夫氏に対して立候補した新人は、元NHK職員の藤本敏和氏。
2年前、故郷の姫島村に帰ってきました。
昭夫氏「9期目をぜひ私に担当させて頂きますよう。」
敏和氏「みんなの意見が反映されるような政治、それは、選挙で変わっていく政治。」
選挙で「遺恨」が残ったら…
村民は、久しぶりの選挙戦に…。
「私は穏やかにした方がいいと思うけど。」
「今の村長にとって、選挙は初めてのこと。大きな嵐が吹くんじゃないか。」
61年前の昭和30年の選挙では、村を2分する激しい戦いが行われました。当時を知る87歳の男性は、「双方の陣営が住民の動向を監視しあった」と言います。
男性「隣の人にうかつな話なんかすりゃ、疑われて“内通しよる”と言われた。あの時のような息苦しい生活になると困る。」
村長親子の「実績」 VS 新人の「自由」
現職の藤本昭夫氏は、父親の熊雄氏と親子2代で60年近く、村政を担ってきました。2人の政策の代表的なものは、昭和40年代から続く「行政ワークシェアリング」。村の職員の給与を低く抑え、その分、多くの住民を村の職員に採用。こうすることで人口損失を食い止めようというものです。
しかし、この60年で村の人口は半減し、中心となる産業の漁業も衰退。閉塞感を指摘する声も出ていました。
こうした中、村長選挙に名乗りを上げたのが、新人の藤本敏和氏だったのです。
敏和氏「もう今の村長、長すぎます。もっと、いきいきと自由に意見を出してもらいたいんです。」
足を止める人はまばらでしたが、敏和氏は閉塞感を打ち破りたいと、手作りのたすきをかけて村政の刷新を訴えました。
敏和氏「ひょっとしたら家の中で、じっと耳を傾けてくれている人がいるかもしれません。そういった人を、とにかく一人でも集めて、とにかく勝たないと。」
一方、現職の昭夫氏の出陣式には、大勢の住民が集まりました。ただ、昭夫氏は選挙戦となったことに釈然としていませんでした。
昭夫氏「こんな小さいところで村を二分するような選挙はよろしくないと今でも思っていますが、姫島村を良くしていくためには、頑張らないといけない。」
村の住民どうしは、ほとんど知り合いです。昭夫氏は拡声器を使った運動を最小限にとどめました。
昭夫氏「多選、無投票というのは信頼の裏返し。村民が自信を持って誇れる村づくりをやっていきたい。」
はたして、結果は…
2倍以上の得票で、現職の昭夫氏が、新人の敏和氏を抑えて9回目の当選を果たしました。
昭夫氏「選挙で争ったことがなかったので、大変、戸惑いがありました。民主主義で選挙を行うのは当然ですが、小さいところはしない方がいい。経験、人脈を生かして、『継続は力なり』ということで村政を進めていきたい。」
敏和氏「61年間、選挙がないことは異常なことだった。この島には無投票が良いという風潮があるが、基本は選挙をやって村政が変わることが望ましい。選挙によって村政が変わるという風土が育ってくれれば、一石を投じた意味があった。」
61年ぶりの選挙戦に揺れた姫島村。
今後の村政を9期目の村長に託します。
写真 Brandi Redd