選挙を知ろう

【選挙事件ファイル③】
不正開票事件の背景

廣川智史記者廣川智史記者 NHK新潟(取材時は、NHK高松)

なぜ、このような前代未聞の事件が起きたのか、その背景に迫るために、当日開票所にいた関係者や、高松市の元選挙管理委員会の職員に取材しました。取材を通して見えてきたのは、開票作業に精通する一握りの職員に委ねる危うさでした。

“はじまり”は投票当日

2013年、香川県高松市の参議院選挙で起きた開票作業をめぐる不正事件。投票した人がいるにも関わらず、A候補の得票が「ゼロ票」。その後、開票に携わった高松市役所の職員6人が逮捕されました。

自分たちのミスを隠すため不正を行った3人。
候補者の票を無効票の束に混入。
以前の参院選の白票混入。
無効票をシュレッダーで裁断。
白票に「わからない」などの書き込み。

票が合わないという1つのミスをきっかけに、幾度となく不正を繰り返す前代未聞の事件へとつながりました。

事件背景の闇

最初のミスに気がついたのは、開票作業終盤の深夜1時前。集計責任者の2人は、票の数を点検した際、パソコン上の票と実際の票の数が合わないことに気がつき、選挙管理委員会の事務局長に「300票以上、票が足りない」と告げたといいます。

再現イメージ

「白紙でしまいにするしかない」
3人は共謀して、不正を行うことを決めたとされています。この時、周りにいた数人の職員は不正に気付いていました。しかし、誰も止めようとはしなかったといいます。なぜでしょう?

開票作業は、“選挙管理委員会の事務局”と“選挙事務の経験が豊富なベテラン職員”、いわば「開票のプロ」が、各部署から一時的に集められた職員350人を指揮して行っていました。一般の職員が幹部のミスを指摘するのは難しいといいます。

元高松市選管職員「一般の職員は、単なる開票事務で駆り出されているだけで、『あなたは、開票するだけ』『これをとりまとめるだけ』と自分の受け持ち範囲をロボット的に行っていることが多いのです。」

プレッシャーと慣れ

さらに、幹部たちを不正へと向かわせた背景には、“開票時間の短縮”という重い課題もあったとみられています。以前の選挙で、高松市は開票が全国の中でも遅く、市議会で批判があがりました。市は3千万円かけて、票の“自動読み取り機”などを導入。汚名返上を目指していました。

自動読み取り機

検察によると、不正があった時、すでに作業は遅れ気味でした。票の不足の原因が容易に判明するとも思えなかったといいます。350人で始めた開票作業は職員の多くが帰宅し、残っていたのは100人ほど。集計し直すには、かなりの時間と労力を要し、さらなる遅れが生じてしまう状況でした。

事務局長の近くにいた男性「“開票の迅速化”ということを言われて、もっと早くやらなくてはならない。『なんで終わらないんだ、何をやっているんだ』という声に押されてしまったのかな。」

事務局長の近くにいた男性

かつて選挙管理委員会にいた男性は、同じ職員が長年、開票作業に関わると、気の緩みが生じることもあると話しました。

元高松市選管職員「数の間違えは、特によくあります。やはり慣れによって“当確にあまり関係のないところだったら”という気持ちの中で、“なんとか良いだろう”という考えが心の底にあったのかなと思います。」

「開票結果は正しいのが、当たり前」それが崩れた今回の事件。
一握りの精通した人だけに依存することの危うさが浮き彫りになりました。

写真: Samuel Zeller