選挙を知ろう
【世界選挙紀行】アメリカ②
えっ?投票するのに「登録」が必要!?
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河村和徳さん
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東北大学大学院情報科学研究科准教授。共通投票所導入を検討した、総務省投票環境の向上方策等に関する研究会のメンバー。
日本より面倒くさい
2016年11月8日は、アメリカ大統領選挙の投票日。世界各国に大きな影響を与えるアメリカの大統領が決まるだけに、世界中から注目されている。
そんなアメリカの選挙。日本と違って「選挙権年齢になったら、自動的に投票ができる」わけではない!投票するためには、選挙人名簿に自分の名前を載せてもらうよう、自分の住んでいるところの選挙管理委員会に申請をしなくてはならない。引越しをしたら、改めて登録する必要もある(※1)。日本と比べると、だいぶ面倒だ。
しかも、州によって手続きはバラバラ
手続きや締切日は、州によってバラバラだ。アメリカの国土は、日本の25倍以上とデカいので、登録に行くのも一苦労。そのため、郵便やオンラインで受付を行っている州もある。しかし、メイン州やミシガン州など、オンライン受付を行っていないところも。投票日当日まで受け付けているところもあるが、10月初旬に締切ったところもあり、千差万別だ。
もし手続きが簡単だったとしても、わざわざ登録の手続きをしなくちゃいけないなんて、「面倒だから、いいや」と思ってしまう人もいるだろう。それに、アメリカ大統領選挙の場合、選挙運動期間が極めて長く、その間にいろいろな情報が錯綜する。中には、失言やスキャンダルといったものも多い。そのため、メディアを見ていて、選挙に関心を失ったり、投票したい候補者がいなかったりすると「登録するのをやめよう」と思ってしまう有権者がいてもおかしくない。
2016年の大統領選挙では、トランプ候補とクリントン候補の不人気ぶりが報道されてきた。投票率の前に、「選挙人登録」の状況がどうなるのか、少し気になるところだ。
「あなたの身元を証明せよ!」厳しい確認―
選挙の基本は、「資格がある人をきちんと把握し、資格がない人は投票させないこと」。
日本は全国一律の仕組みで選挙を行っている。選挙人名簿への登録も全国一律。要件を満たす人を選挙管理委員会が登録している。
一方アメリカでは、選挙人名簿に登録されるためには、ID(※2)などで身元を証明する必要がある。日本でも郵便局で書留などを受け取る際、身元を証明するために運転免許証や公共料金の領収書の提示などが求められるが、それと同じ。でも、アメリカでは、何をもって「身元証明」と認められるかは各地域で違うこともある。幅広く認めているところもあれば、そうでないところもある。
近年、アメリカでは、選挙人名簿への登録に“不正行為”や“違法な登録”が多いということから、本人確認を厳格化する傾向にある。そのため、投票所でIDを見せることを要求するところもある。
選挙人登録や投票所での本人確認の厳格化は、日々の暮らしに追われてIDを持っていない貧困層の投票を難しくする。事実、アメリカには、IDがなかったり、選挙人登録に行く余裕がなかったりして貧困層の投票機会は失われている、と指摘する研究者もいる。
「登録」まで戦略!…という声も?
貧困層は民主党を応援する傾向が強いと一般的にはいわれている。そのため、本人確認の厳格化は、民主党を勝たせないための戦略ではないか、という見方をする人も存在する。
選挙は公正・公平であるはずだが、選挙人登録が政治的な駆け引きに使われていたらどうしよう…と疑ってしまう。
※1 アメリカ全州のうちノースダコタ州のみ、選挙人登録の必要はない。
※2 身分証明書。IDを取得するのに、お金がかかるのが一般的。
国情報
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- 国名:アメリカ合衆国
- 首都:ワシントンD.C.
- 人口:約3億2327万人(2016年4月)
- 投票権:18歳以上
- 大統領:バラク・オバマ
- 有名なもの:ハリウッド、グランドキャニオン、シリコンバレー、ブロードウェイ、自由の女神、ハンバーガー、コーンフレーク
(掲載されている情報は2016年11月現在の内容です)
写真: Ronda Darby, Dino Reichmuth, Tom Macleod