選挙を知ろう

投票したくてもできなかった…乗船実習の壁

東北大学の教授である河村和徳河村和徳さん

東北大学大学院情報科学研究科准教授。共通投票所導入を検討した、総務省投票環境の向上方策等に関する研究会のメンバー。

ただいま乗船実習中…おかげで投票できず

2016年の参院選の投開票日は7月10日。翌週の月曜日18日は「海の日」でした。この頃、水産高校の中には乗船実習を行うところも少なくありません。乗船実習の期間は学校によって異なるようですが、1ヶ月以上帰国しないという実習もあるようです。

茨城県の県立海洋高校では不在者投票を行い、地元の選挙管理委員会に郵送するという方法をとりました。しかし、外国などの遠方への乗船実習も行われているため、「投票できない18歳」になってしまった水産高校生が、この選挙で何人も出たようです。

なんで難しいの?

不在者投票の1つに、「洋上投票」があります。指定された船舶に乗船して選挙の当日に日本国外の区域を航海している船員が投票できるよう作られた仕組みです。航海をしている途中ですから、「郵便」を使うという訳にはいきません。そこで、ファックスを使って投票するのです。

「世界選挙紀行」でも紹介された「南極投票」と同じ仕組みだし、水産高校の実習船にファックスを積み込んで洋上投票をすれば…と思うかもしれません。しかし、洋上投票は「船員」のための仕組みです。

ここで問題となるのは、「船員」の定義。「船員」とは“船員手帳”を持っている人。言い換えると“仕事として船に乗り込んでいる人”です。乗船実習に参加している高校生は“仕事”として乗船している訳ではありません。高校生は「船員」ではないし、もちろん船員手帳は持っていません。だから、洋上投票はできないのです。投票日までに実習を終えた高校の生徒は、投票することができましたが、投票日までに帰港できなかった高校生は、「18歳になったのに投票できなかった」のです。

ならば、どこか外国の港に立ち寄ったときに 「在外選挙」をすれば…というのもダメなんです。在外選挙で投票できるのは、在外選挙人名簿に登録された人で、彼らは、基本、海外に居住している人たちです(※)。水産高校の生徒は海外に居住している訳ではありませんから、これまたダメなのです。

早い法改正を

せっかくの機会なのに投票できなかったという生徒が出たことは、やはり問題です。投票できない人を限りなく減らすことが選挙では求められます。おそらく18歳選挙権の法整備をする際、こうした事態が生じることを見落としていたのだと思います。国会ですぐに法改正されることを期待したいです。

(※)日本に帰国しても、居住要件を満たすまでは在外選挙人名簿に登録され続けます。