選挙を知ろう

【世界選挙紀行】中南米
日本から派遣「選挙監視員」とは?①

田中高田中高さん(59)

中部大学国際関係学部教授。日本政府の選挙監視員として中南米の国々の選挙に立ち会う。

「選挙監視員」って知ってる?

内戦などの地域紛争が終結した場合や、混乱状態の中で新しく国が独立するときには、“自由かつ公正な選挙”が実施されることが大事だ。このため、国連などが中心となり、「選挙監視員」を派遣することがある。「PKO(平和維持活動)」の一環でもある。

例えば独裁政権が長く続いた国では、自由かつ平等に選挙活動ができるのか、国際社会の監視が必要な場合もある。政治家との癒着や、暴力、買収がまかり通っている地域も存在する。そこで、選挙が公正に行われているか確認するのが、「選挙監視員」の役割だ。

各国の選管発行の選挙監視員IDカード

(各国の選管発行の選挙監視員IDカード)

私が行った6つの国

私は日本政府から派遣される選挙監視員として、これまで中南米の6カ国(グアテマラ、エルサルバドル、ホンジュラス、ニカラグア、ベネズエラ、ペルー)の選挙に計12回携わった。

1.グアテマラ、2.エルサルバドル、3.ホンジュラス、4.ニカラグア、5ベネズエラ、6.ペルー

(1.グアテマラ、2.エルサルバドル、3.ホンジュラス、4.ニカラグア、5ベネズエラ、6.ペルー)

グアテマラ、エルサルバドル、ホンジュラス、ニカラグアは1980年代から「中米紛争」と呼ばれる内戦状態が続いた。1999年に新しい国となったベネズエラでは、政府と野党の間で激しい対立が続き、選挙結果が国のかじ取りを大きく左右。ホンジュラスでは2008年に軍事クーデターが起き、翌年の大統領選挙が公正に実施できるのか、注目された。
そんな場合に、「選挙監視員」は選挙に立ち会う。では、選挙監視員とはどんなことをするのだろう。

選挙監視員の仕事

監視員の仕事はハードだ。飛行機を乗り継いで、選挙の数日前に現地に到着すると、すぐに世界中から集まった監視員たちとのミーティングが始まる。言語はほとんどの場合はスペイン語だ。監視員は、現地の言葉が話せて、滞在経験のある人物が選ばれることが多い。私の場合は中米諸国に4年間勤務した経験があり、外務省から依頼されたのだ。

投票日は早朝起床。投票所が時間通りに開設されているか、投票用紙や投票箱などがきちんと届いているか確認する。公正を期すため、投票所には各政党の立会人もいることになっていて、これもチェック。各地の投票所を巡回し、票の買収、特定の候補への投票の強要、対立候補の支持者への威嚇など、選挙違反がないかを確認。ただし!目の前で違反行為があっても、その場で取り締まるのではなくて、粛々と記録し本部に報告することになっている。間に入って制止したりすると「内政干渉」になりかねないからだ。

中南米では選挙は「市民の祭り(フィエスタ・シビカ)」とも呼ばれ、興奮状態になる地域も多く、グアテマラでは、私の目の前で有権者同士が喧嘩をはじめたこともあった。こういった場合でも、監視員による「直接の取り締まり」はNG。最後には、現地の選挙立会人が両人を引き離してくれたが、喧嘩を止めに入ることもできず、本当にヤキモキしてしまった。