選挙を知ろう

【世界選挙紀行】南スーダン
識字率27%の選挙

橋本敬市橋本敬市さん

JICA(国際協力機構)の国際協力専門員。7月にも南スーダンに入った。

政府軍と反政府勢力との間で戦闘が行われ、情勢が緊迫している南スーダン。現地の日本人47人らが避難しました。独立後初の総選挙がいつ実施できるか、不透明な状況になっています。2010年以降、何度も南スーダンを訪れてきた橋本さんに話を聞きました。

アフリカでも最低の識字率

南スーダン共和国は、何十年にも及ぶ内戦の末、2011年7月にスーダンから独立してできた国だ。2011年1月、スーダンからの分離独立の是非を問う住民投票が、当時の南部スーダンで実施された。15歳以上の識字率は、アフリカでも最も低い27%。女性の識字率にいたっては16%(※1)。有権者自身が文字を書いて投票することが困難であることから、投票用紙には2枚の絵が示された。どちらが独立賛成で、どちらが反対か分かるだろうか。

2011年の住民投票用紙

2011年の住民投票用紙

「スーダンからの独立に賛成」という人は、手のひらを開いた左側の絵にチェック。「今後もスーダン北部との統一国家を維持したい」という人は、2本の腕ががっちり握手している右側の絵に印をつける。

本当に分かっているの?

「有権者の皆さんは、本当にこれで分かるの?」と疑問に思い、国営「南スーダンTV・ラジオ(SSTVR)」(※2)のスタッフに聞いてみた。すると「大丈夫だよ。住民投票前は連日、テレビで情報提供していたから。」との答え。

しかし、メディアを通じてキチンと広報活動が実施されていたことに安堵したのもつかの間、そのテレビ局員いわく、「ずっと分離独立を支持する左側の絵にチェックするよう“指導”し続けたんだ。独立を勝ち取ったのは国営TV・ラジオのおかげだよ」なんだとか…。

完全な投票誘導だ。民主国家では、メディアは有権者に対し、選挙や住民投票の判断材料となる基礎情報を広く平等に提供することが求められるものの、投票行動に直接影響を与えるような形で、特定の選択肢に誘導することは御法度なのだが...。

南スーダンの女性

南スーダンの女性

住民投票の結果は、98.83%の投票者がスーダンからの独立を支持。独立を果たすが、その後も南スーダンは部族間の争いで、今も不安定な状況が続いている。選挙で民主主義が定着し、争いを「戦場ではなく議場で解決する」民主国家になれるのはいつの日だろうか。

※1. 参照:国際統計格付センターなど。

※2. 2016年2月、公共放送局(SSBC)に改組。

国情報

南スーダン共和国
  • 国名:南スーダン共和国
  • 首都:ジュバ
  • 人口:約1,191万人(2014年)
  • 投票権:18歳以上
  • 大統領:サルヴァ・キール・マヤルディト
  • 有名なもの:白ナイル川、石油、豊富な地下資源、ボマ国立公園、野生動物

(掲載されている情報は2016年7月現在の内容です)