選挙を知ろう

【世界選挙紀行】宇宙
「宇宙」から、大西宇宙飛行士は投票できる?

人類初の宇宙飛行から55年

旧ソ連のユーリ・ガガーリンが、人類初の宇宙飛行に成功してから55年。

今では、地上から約400km上空を、「ISS(国際宇宙ステーション)」が飛行し続けている。ISSは、日本を含む15カ国が運用する「国境のない実験施設」。6人の宇宙飛行士が滞在でき、地球や天体の観測、宇宙環境を利用した実験を行っている。

ISSとスペースシャトル・エンデバー(2011年)

ISSとスペースシャトル・エンデバー(2011年)

NASA(アメリカ航空宇宙局)によると、ISSを訪れた人数が最も多いのはアメリカ。ロシアに続いて、日本は第3位。7月7日、JAXA(宇宙航空研究開発機構)の大西卓哉さんが搭乗する、ロシアの宇宙船「ソユーズ」が打ち上げられる予定だ。大西さんが到着すれば(※1)、8人の日本人宇宙飛行士がISSを訪れたことになる。

滞在は、数カ月から1年以上に及ぶ。その間に選挙があった場合、宇宙からでも投票はできるのだろうか?

日本の宇宙飛行士は?NASAの飛行士は?

その答えは、2015年にISSに滞在した油井亀美也さんのツイートに。

油井亀美也JAXA宇宙飛行士Twitterより

<油井亀美也JAXA宇宙飛行士Twitterより>

JAXA広報 「油井宇宙飛行士のTwitterの通り、日本の宇宙飛行士は、宇宙から投票することはできません。出発前に地上で『不在者投票』をできますが・・・。宇宙から投票しようとした場合、インターネットを使わなくてはいけませんが、インターネット投票は今のところ日本では認められていません。」

NASA広報「アメリカの宇宙飛行士は、事前に申請した上で、宇宙から電子メールを使って投票することができます。

もちろん、アメリカの宇宙飛行士たちも、最初から“宇宙投票”ができたわけではない。1996年、NASAの宇宙飛行士ジョン・E・ブラハさんが、ロシアの宇宙ステーション「ミール」(※2)に滞在している4ヶ月の間に行われる大統領選挙への投票を希望したが、投票できなかった。そこで、NASAの宇宙飛行士のほとんどが居住するテキサス州は、翌1997年に選挙管理に関する法律を整備。なんと、たった1年の間で、宇宙からの投票を可能にしてしまったのだ!テキサス州で行われる選挙はもちろん、国政選挙にも投票することができる。

残念ながら、最初に宇宙で投票したアメリカ人宇宙飛行士はブラハさんではなく、デービッド・ウォルフさん。1997年11月、テキサス州ヒューストン市長の選挙に電子“投票用紙”をメールで送信した。

アメリカだけが特別?

第2位のロシアも、宇宙から投票できる。ISSから地上と交信し、自分の選んだ候補を伝える仕組みだ。自分の入れた候補者が他人にも分かってしまうが、NASAより以前から行われている宇宙からの投票方法のようだ。

2012年 ロシア大統領選挙

<2012年 ロシア大統領選挙>

7月7日現在、日本と同じ第3位で、7人の宇宙飛行士をISSに送ってきたカナダは?

カナダ選挙管理委員会「宇宙への出発前であれば、期日前投票や、郵便投票を利用して投票してもらえますが、カナダではインターネット投票を行っていません。

でも南極よりも、宇宙って近い

日本から約14,000km離れた南極で調査活動を行う南極観測隊は、衛星を介したFAXによる通信で、投票用紙を日本へ送ることができる。不在者投票制度のひとつ、「南極投票」だ。また、業務に従事する日本国外の区域を航海する指定船舶に乗船する船員も、「洋上投票」でFAXでの投票が認められている。宇宙からも、FAXで投票はできないものか。

JAXA広報「ISSには、いわゆる地上と同じ様なFAXはありません。通信回線を経由して、ISSから日本へFAX信号を送信することは『技術的には』可能です。あくまでも技術的にということで、下記の様な付帯条件を前提としてできるものとしています。」

・正規の投票用紙を事前にISSに持って行く。
・軌道上のコンピュータに必要なソフトをインストール。
・地上のFAXサーバーの利用等。

むむむ?今の公職選挙法の下では、なかなか難しいようだ・・・。

ちなみに大西さんは、地球にいる間に2016年の参議院選挙に投票できたの?

JAXA広報「6月22日の公示の時点で、大西さんはモスクワに滞在していたため、日本における『不在者投票』は行えませんでした。住所を定めて3カ月以上の滞在が必要になるなど条件を満たさないため、『在外投票』もできませんでした。」

少人数のために、法律調整なんて面倒だけど・・・

「数少ない宇宙に行く人のために、どうしてテキサス州議会が法律を調整してくれたのか?」

2004年、宇宙から初めての大統領選挙に投票したNASA宇宙飛行士のリロイ・チャオさんは、その理由をこう語る。

チャオさん「『投票』は、国民が国のリーダーを選ぶことのできる尊い権利であり、『最も基本的で、それでいて最強の手段』だからです。」

宇宙飛行士を小惑星や火星にも送る計画も進められており、宇宙での滞在は今後、長期化していくと考えられている。「投票」は、地球との大切なつながりとして、より重要なものとなっていくだろう。

※1: 7月7日、打ち上げ予定。7月9日、ISSに到着予定。
※2:ISSができる前。

国情報

  • 施設名:国際宇宙ステーション(ISS)
  • 場所:宇宙
    地上から約400km上空。約90分で地球を1周、1日で約16周している。地球からでも、見ることができる。
  • 組み立て:1998年に最初の部品を打ち上げ。2011年に完成。
  • 大きさ:約108.5m×約72.8m(サッカー場と同じくらい)
  • ISSを訪れた日本人:・土井隆雄さん
    ・古川聡さん
    ・星出彰彦さん(2回)
    ・野口聡一さん(2回)
    ・若田光一さん(3回)
    ・山崎直子さん
    ・油井亀美也さん
    ・大西卓哉さん(7月9日到着予定)

(掲載されている情報は2016年7月7日現在の内容です)