選挙を知ろう

便利な共通投票所! でも、壁が…

河村和徳河村和徳さん

東北大学大学院情報科学研究科准教授。共通投票所導入を検討した、総務省投票環境の向上方策等に関する研究会のメンバー。

【壁1】 ミスの可能性

共通投票所が導入されれば、投票日当日でも便利なところで投票できるようになります。有権者にとって非常にメリットが大きいといえますが、2016年、今回の参議院選挙に向けて導入しようという動きは低調です。どうしてでしょうか。

理由の1つとして、制度ができてから参院選までの日数が短いということがあります。新たな仕組みを導入すると、ミスが起こる確率は上がります。しかし、有権者の民意を反映する選挙では、ミスは絶対に許されません。「あせって導入をして、ミスをしたくない」という心理が働いた結果、「今回は少し様子見」となっている可能性があります。

【壁2】 「二重投票の防止」のコスト

また、それ以上に、共通投票所導入に立ちふさがっている大きな壁があります。それは、「『二重投票の防止』にかかるコスト」です。

選挙の基本原則の1つは、「平等選挙」です。「投票する人の票は、平等に扱われなければならない」という原則です。この「平等選挙」の考えに従えば、投票し終わった人がもう一度投票することがないよう、選挙管理委員会はチェックしなければなりません。

いろんなところで投票をしようとするずるい人

「世の中にはズルいことを考える人がいる」という前提で考えてみてください。

共通投票所制度は、投票日当日に『定められた投票所以外で投票できる』仕組みです。…ということは…たとえば、共通投票所で投票した1時間後に、本来の投票所に出向いて「投票所入場券を忘れた。投票させろ」と言う人が現れるかもしれません。

そんな人に「あなたは投票できません」と言うために、選挙管理委員会がやらなければならないことは、投票した記録を投票所間で共有し、本人確認を厳密に行うことです。

少なくとも、共通投票所と各投票所の間をインターネット回線等でつなぎ、投票記録の一元管理をしないとなりません。

対策

しかし、そのためには、「投票所にインターネット回線を引く」「投票記録を共有するための情報システムを構築する」などのコストがかかります。財政難の地方自治体は多く、このコストの捻出が共通投票所導入の足かせの1つになっていると考えられます。

2016年の参議院選挙での導入を検討している市町村は、1ケタにとどまっています。これらの自治体の成果を見つつ、共通投票所は徐々に広がっていくように思います。