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深刻なバスドライバー不足 背景は

  • 2024年04月26日

宮城県内でバスの減便が相次いでいます。
4月に入って「仙台市バス」は270便、「宮城交通」も89便運行を減らしました。
減便の背景にあるのは、いずれも深刻なドライバー不足です。
なぜ、ドライバーが足りないのでしょうか。現場取材から見えてきた実態とは。

(仙台放送局記者 吉原実)

バスドライバーの1日に密着

仙台市内にある「宮城交通」の営業所です。

午前6時、入社3年目のバスドライバー岩崎拓未さん(24)が出勤してきました。
ドライバーの現状を知るため、1日密着させてもらいました。

(バスドライバー岩崎拓未さん)
「他車の動向に注意します。宮城学院前発、県庁市役所前経由の仙台駅前行きです」

(会社の運行管理者)
「気をつけていってらっしゃい」

午前7時すぎに出発します。
父親がトラックの運転手だという岩崎さん。
大好きな車に関わる仕事がしたいと、バスのドライバーになりました。

バスドライバー 岩崎拓未さん
「いろんな業界、人手不足だといわれてる中で、自分のやりたいことと、
 人手不足に貢献できる。人と関われる仕事なので(バスドライバーになった)」

岩崎さんの基本的な1日です。起床は早く午前5時。
午前7時から午後7時まで休憩を挟んで、運転時間はおよそ10時間にのぼります。

ドライバーになって1年余り。慣れてはきたものの、狭い道や急な坂、歩行者の近くを走るときはまだ緊張するといいます。岩崎さんは利用者の命を預かる責任を重く感じています。

バスドライバー 岩崎拓未さん
「やっぱり責任の大きい仕事なので、いろんなプレッシャーがある仕事だと思います」

午後1時。午前の運行を終えて営業所に戻り、遅めの昼食です。

バスドライバー 岩崎拓未さん
「基本は自炊しています。その弁当を作るために早く起きると早すぎる時間なっちゃう。3時とか4時とかになってしまいます。できるだけ寝る前にお弁当だけは作って寝ます」

午後も車や人通りが多い仙台市中心部の区間を運行し、営業所に戻ってきたのは午後7時すぎ。この日の走行距離はあわせて100キロにのぼりました。

バスドライバー 岩崎拓未さん
「長い路線だったのでなおさら疲れました。健康第一にできる範囲でこれからも頑張っていきたい」

ドライバーが10年で90人減 シフトが組めない?!

仕事の負担の大きさもあり、この会社ではドライバーの減少に歯止めをかけられずにいます。この10年で減った数は90人。減便しても慢性的に30人ほど不足しているといいます。

そこに輪をかけたのが4月から始まった新たな労働時間の規制です。

ドライバーの1日の休息時間はこれまでの連続8時間から原則、連続11時間に延長されました。ドライバーの負担は軽くなる一方、バス業界の中では勤務できるドライバーの数がさらに減るという声も出ています。

この営業所では、1日あたり平均5人前後ドライバーが不足。予備のドライバーや内勤の社員、ほかの営業所からの応援を頼んではいますが、やむをえず、毎回誰かに休日出勤をお願いしているといいます。

宮城交通の担当者
「5、6人は毎回足りない。公休出勤してもらっているような感じですかね」

新しく募集しようにも、「仕事が厳しく責任も重いのに割に合わない」となかなか集まらないといいます。国土交通省の「令和5年版交通政策白書」によりますと、2022年の全産業平均の年間所得が497万円なのに対し、バスのドライバーの所得は全産業の平均より2割少ない399万円でした。

宮城交通・脇田淳 営業部長
「採用活動は毎月採用試験をして運転手を募集していますが、なり手も少ないといった状況にあります。それは同業他社も同じ状況でありまして県内ではバス運転手の奪い合いといいますか、他業種も含めて、人材の獲得合戦が繰り広げられているところです。賃上げについてはことしの春闘でも一部上げたんですがまだまだ他産業と比べて上回るような賃金水準にはなっていません。毎年昇給は今後必須になってくるとは考えています」

専門家は賃上げに加えて、勤務時間を柔軟に見直すなど、ドライバーの労働環境のさらなる改善が必要だと指摘しています。

関西大学 宇都宮浄人 教授
「雇用形態を柔軟にしていくことによって、いわば早朝深夜とかすごく長い時間拘束するわけではないけれども柔軟に雇えるような仕組みを作ること、バス会社さんに努力してほしいことではあります」 

取材後記

拘束時間が長く、責任の重い仕事の割に、給料が安いという労働環境。
新たな労働規制でドライバーが働ける時間がより短くなり、拍車がかかる人手不足。
足りない人手を補おうにも思うように希望者が集まらず、今いるドライバーが休日出勤して、なんとか現状の運行体制を支えている。
それが“地域の足”路線バスの現実だと、今回の取材を通じて強く感じました。

ドライバー不足に対応しようと、宮城県は県バス協会と連携して6年前からバス会社に対し、大型2種免許の取得費用を支援しています。
国も再来年以降、路線バスなどの大型2種にもオートマチック車限定の免許を導入する方針ですが、いずれも抜本的な解決策とは言えません。

路線バスの未来をどうしていくのか。
社会全体として改めて考え直す時期ではないでしょうか。

  • 吉原実

    仙台放送局 記者

    吉原実

    新聞記者をへて2023年から仙台局 
    現在は主に金融や産業政策など経済取材を担当

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