医療的ケアが必要な人たち 支える家族の日常は

人工呼吸器やたんの吸引など、「医療的ケア」が必要な人たち。宮城県によりますと、医療的ケアを必要とする人たちは2016年時点で県内におよそ2000人いるということで、支援の拡充が進められています。一方、こうした人たちを支える家族の間からは、「預ける場所が近くに十分ない」とか、「預ける時間も足りないと感じる」などといった声も出ています。このような状況に、家族はどう向き合って生活しているのか。20代の娘をケアする母親を取材しました。

(NHK仙台放送局 北見晃太郎)


【年齢関係なく預けられる新施設】

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今月1日、仙台市泉区に医療的ケアが必要な人たちを受け入れる新たな施設、「あいの実ストロベリー」が誕生しました。

厚生労働省によりますと人工呼吸器やたんの吸引など「医療的ケア」が必要な子どもたちはおととし6月時点で全国で2万人を超えると推計され支援態勢の充実が進められています。その一方で、18歳を超えたり学校を卒業したりしたあと、支援を受けられる生活介護事業所や通所施設をどう確保していくのか保護者などから不安の声が出ているということです。

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こうしたことを受け、この施設では年齢に関係なく子どもから大人まですべての世代を対象に受け入れを行っています。

預かる時間は午前9時から午後6時までの日帰りのほか午前10時から午後3時までの短時間でも受け入れを行っています。施設では今後、県や市の認定を受け宿泊での受け入れも行う方針で、すでに県内外から50組以上の家族が利用する予定です。

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23歳の息子を預ける母親
「ほかの施設の空きがなかったり、必要なときに『予約がいっぱいです』と言われたりすることが多いので、預かってもらえる場所が新たにできるというのは本当に助かります」


【日頃のケアに負われ“孤立感”も】

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大和町に住む主婦の髙野千秋さん(56)は、施設の利用を始めた家族の1人です。
娘の紗希さん(21)が脳性麻痺の症状やてんかんを患い、たんの吸引が必要なほか、
呼吸が乱れていないか心拍数などを表示する機器を身体とつないで生活しています。

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髙野さんはこれまで、地元や仙台市内の3つの施設に週4日、紗希さんを預けていました。預けられる時間は日中の5時間から6時間。新しい施設では、今までよりも長く預けることも可能になります。ただ、それ以外の時間は、髙野さんが自宅でほとんどのケアを担っています。

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自宅では、週に1度の訪問介護を利用し、入浴の手伝いをしてもらっていますが、そのほかは、髙野さんが食事や排せつの世話を毎回行うほか、1日5回ほどのたんの吸引や薬の吸入も行っています。夜は毎晩同じ寝室で過ごし、4時間ごとに様子を見るようにしています。紗希さんの体調が悪いときは徹夜でケアすることもあるといいます。

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髙野さん
「娘は自分で声を出して何かを伝えるっていうこともできないですし、あとは体を動かすこともほとんどできないのでちょっとした表情の違いですとか、そういったもので体調を判断するので、あんまり長く目を離していると様子を見たときに『どうしたの?』っていうことがありますね」

周囲の人たちと接する機会がほとんど無く、紗希さんの世話をしながら自宅と施設を行き来する生活が髙野さんの日常となっています。

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以前アルバイトをしていましたが、6年前、紗希さんが心肺停止の状態となり、続けることが難しくなりました。外の人たちとのつながりが無くなってしまった髙野さんは、より孤立感を感じるようになったといいます。

髙野さん
「子どもの体調がいつ悪くなるかもわからないので、仕事の約束をしていても急にドタキャンしなきゃいけなったりとか本当にどなたともあまり会ってないっていうか、施設への送迎のときとか時々ちょっとお会いする程度です」

髙野さんのように、日頃のケアに追われて生活している家族は多くいます。

厚生労働省が2019年に、20歳未満の医療的ケアが必要な人の家族843世帯から回答を得たアンケートでは「社会から孤立していると感じるか」という問い対し、「当てはまる」、「まあ、当てはまる」と回答した人が半数以上にのぼっています。

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こうしたことから施設ではいま、ケアにあたる家族にも社会と関わりを持ってもらいたいと、新たな取り組みが進められています。施設の敷地内にカフェを建設し、預けながら家族に働いてもらおうというものです。預けた家族が目の前にいるため、安心して働けるほか、訪れた人たちは、窓越しに施設内の様子を見ることができ、医療的ケアが必要な人たちがどのような生活をしているのかを知ることができるという計画です。

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建設費用はクラウドファンディングで集まった寄付金で賄われ400万円以上の金額が集まりました。3月下旬、寄付をしてくれた人たちに返礼品のオリジナル缶バッジをつくろうと、カフェでの勤務を希望する11人の母親が集まり、髙野さんも参加しました。

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施設を運営する社会福祉法人「あいの実」久保潤一郎 専務理事
「カフェをつくることで『お母さんたちも働けるんだ』っていうことを社会に示せればなと思います。例えば『2人1組で働くとお互いを補い合いながら働けますよ』とか、そうした仕組みを作っていけたらなと考えています」

カフェは年内中にオープンする見通しで、髙野さんは働くことに意欲を燃やしています。カフェをきっかけに、幅広い人たちと交流したいと考えています。

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髙野さん
「今まで限られた世界でしか生きてこれなかったって言ったらちょっと極端な話かもしれないですけど、そういうお母さんたちってすごく見えないところでたくさんいるので、カフェができることによって訪れた周りの方たちに『こういう状況の子どもたちがいる』とか、そういったことをわかって頂けるということにすごく期待しています」

 

【家族の生活変える1歩に】

髙野さんは、新しい施設で紗希さんを長く預けられる時は、趣味の編み物や高校生の次女との時間に当てたいと話していました。今回の髙野さんへの取材で「自分の時間はどうつくっているのか」と質問すると、「気にしていなかったけど、自分の時間ってあんまりなかったかも」とにこやかな表情で答えていたのが印象的でした。

こうした状況のなか誕生するカフェは、髙野さんのように自分に費やす時間が無いのが当たり前となっていた家族の生活を変え、周りの人たちからの理解を深めるための1歩になると感じました。この先、カフェがオープンしたら、髙野さんたちが生き生きと働いている姿を取材しに行きたいと思います。


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仙台放送局記者 北見晃太郎
H31年入局
県警キャップをしながら教育担当として子どもに関わる取材にも励む