宮城 石巻 変わりゆく海で新たな挑戦「タチウオ漁」
サンマやサケの不漁が続くなか、いま宮城県で水揚げが増えているのが「タチウオ」です。
タチウオはこれまで西日本が中心でしたが、気候変動による海水温の上昇などの影響で、宮城県でもとれるようになったと考えられています。
海の環境が変わるなか、タチウオ漁に活路を見いだそうとする石巻市の漁師に迫りました。
【水揚げが10年前の500倍!】
細長く、刀のように見えるこの魚。
石巻市の沖合でとれたタチウオです。
ほどよく脂がのった上品なうまみが特徴です。
10年ほど前まで、宮城県では年間わずか1トンの水揚げでしたが、ここ数年で一気に増え、2021年は500トン、およそ500倍になりました。
仲買人「宮城でとれるイメージは全くないですね。水温が上がって増えだしているんだって聞きました」
【地元漁師が注目】
海の変化に対応して新たな海に挑戦する漁師がいます。
石巻でおよそ20年にわたり漁を続ける阿部誠二さんです。
これまではヒラメ漁が中心でしたが以前ほどとれなくなったため、2019年からタチウオに注目するようになりました。
阿部さん「水温が変化しているのは感じていたし、タチウオが宮城で釣れるようになって、“これはもしかして狙えるんじゃないか”と思って」
【価値を高めるための “引き縄漁”】
これまで石巻では定置網でサバやイワシなどが水揚げされてきましたが、数年前からタチウオがかかることが多くなりました。
石巻ではなじみが薄いうえに、うろこがなく傷つきやすいため値段が上がりにくいことが課題でした。
石巻のタチウオの価値を高めようと、阿部さんはタチウオ漁が盛んな九州に行き、知り合いの漁師からある漁法を学びました。
それが、1匹ずつ釣り上げる「引き縄漁」です。
釣り針を1本ずつ垂らし、船をゆっくりと走らせます。
網に比べ一度にとれる量は少なくなりますが、タチウオを傷つけずに釣り上げることができます。
阿部さん「大変よね。大変というか面白いけど」
【タチウオが釣れた!】
釣れるポイントを探すこと3時間。
きらりと輝くタチウオがかかりました。
釣り上げてすぐに生け締めにします。
鮮度を保ちおいしさを維持するのに欠かせない作業です。
この日、ねらいよりは少なかったものの30匹を釣り上げた阿部さん、できるだけ傷がつかないように丁寧に梱包することで、見栄えにも気をつかいます。
阿部さん「いかに1本の価値を上げるかだよね。自分が食べたいと思うものじゃないとだめだと思う」
【美しいタチウオの評判は?】
魚市場では、品質にこだわった阿部さんのタチウオに仲買人から注目が集まります。
この日ついた価格は1キロあたり5300円。
鮮度と美しさが評価され、石巻の市場の平均価格の5倍以上になりました。
仲買人「結局いまお客さんが求めているものって高いか安いかじゃなくて、良いか悪いかですよね」
阿部さん「ありがたいよ、うれしいよね。素直にうれしい」
阿部さんがとったタチウオの評判の良さは徐々に広がり始めています。
東京にある日本料理店。市場の関係者に紹介され阿部さんのタチウオを初めて仕入れました。
コース料理にできないかと、刺身や焼き物などを試作しました。
店主「全く傷もついていなくて、すごくきれいないいタチウオだと思います。
ぜひタチウオを目玉商品として使っていきたいと思います」
阿部さん「自信になりますよね。やってきたことが間違ってない。いいタチウオがとれるっていうのをみんなに知ってもらって、石巻のタチウオの価値が全体的に上がってイケればいいことだと思います」
とれる魚が変わっても変化に応じて挑戦する。
石巻の漁師が歩み始めた、新たな一歩です。
【取材を終えて】
今年の夏、ふるさとの宮城県に12年ぶりに住むことになり、まず驚いたのが実家の食卓にタチウオが並んでいたこと。
宮城ってタチウオとれたっけ?そんな疑問が今回の取材のきっかけでした。
変わりゆく海で新たな漁に挑戦する阿部さんの姿には、石巻の漁師の情熱を感じました。
サケやサンマなどなじみのある魚が取れなくなるのは悲しいことですが、
逆境のなかでも私たちの食卓を支えてくれる漁業者の方をこれからも取材していきたいと思います。
仙台放送局 カメラマン
福田洋介
石巻市出身
ふるさとの三陸の海に関する話題を中心に取材・撮影中