地震で相次ぐ"地盤災害"

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宮城県内で最大震度6強の揺れを観測した2022年3月の地震で
仙台市内の丘陵地に造成された住宅団地では建物の擁壁や地盤などに
被害が集中していたことが市の調査で明らかになりました。
その数はおよそ300か所。
東日本大震災でも問題になった宅地の「地盤災害」について
取材を続けてきた仙台放送局の内山太介記者が取材しました。


《また同じような被害が?》

私は東日本震災の年から3年間、仙台局で取材を担当し、当時、内陸部でも
沿岸部の津波被害とは違った形で深刻な被害があることに驚き、
何度も現場に足を運んで「地盤災害」を伝えてきました。
2022年3月の地震でも同様の被害があるかもしれないと
現場を訪ねると「東日本大震災と変わらない被害があった」、
「私にとっての震災は3月16日です」と話す人もいました。
いったいどうなっているのか。

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《11年前と同じ団地で再び》

私が11年前にもたびたび取材で訪れた仙台市青葉区の丘陵地、折立団地に向かいました。
ここは1960年代に造成が始まった古い団地です。まず目に入ったのは地震から半年以上たつのにいまも工事中の公園でした。この公園は、震災当時、被害が大きくありませんでしたが、隣り合う2軒の住宅には擁壁に大きなひびが入り、フェンスが傾いていました。
そして、周辺一帯で地盤がずれていたのです。
公園は、地域の一時避難所にもなっている場所ですが、復旧に時間がかかっていました。

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公園の近くに住む80代の男性の自宅を訪ねると、駐車場の地面がずれてコンクリートが剥がれた状態で家の裏の地面にも大きな隙間が生じていました。

記者:11年前の地震ではこんなことなかった?
男性:「全然なかった。今回の地震でこうなった」

3月の地震で被害が目立ったエリアは多くが東日本大震災では比較的被害が少なかったため地盤の改良工事が行われなかった場所でした。

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《震災後に地盤改良した場所は…》

同じ団地で、私が11年前にも取材した70代の女性に会いました。
女性の自宅は震災当時、床に置いたビー玉が勢いよく転がるほど家が傾き住めなくなったため、その後、地盤の改良工事が行われ、地下水を排水する設備も取り付けられました。
そのおかげか3月の地震では、擁壁の一部に小さな亀裂が入るぐらいの被害で済んだと言います。

「周りでは東日本大震災のときより被害が大きい家が多く、またかという感じです。工事をやっていなかったらどうなっていたかと思うと怖いです」


《丘陵地の造成宅地に被害集中 仙台市の調査で300か所》

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折立団地の西隣にある1970年代に造成された西花苑団地にも大きな被害が出ていました。この歩道は3月の地震でアスファルトが隆起した歩道ですが、取材した10月の段階では工事が完了していませんでした。
仙台市が調査した結果、こうした地盤や擁壁の被害が郊外の丘陵地にある住宅団地で被害が集中し、およそ300か所に上るということです。

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《盛り土の宅地が影響か》

なぜこうした被害が相次いだのか。仙台市の担当者は、断定はできないとしたうえで、
盛り土の宅地が影響していた可能性を指摘しました。

森谷直樹課長
「被害が多いのは1960年代から70年代にかけて仙台市郊外の丘陵地に造成された古い団地、なかでも盛り土になっている部分に集中していると認識している」

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盛り土は山を削り、その土で谷や沢を埋めた場所などを指します。
平らになった場所は「切り土」と言います。

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仙台市ではこうした盛り土と切り土がどこにあるかを色で示した地図を9年前に公表しています。盛り土で造成された宅地は黄色から赤色で示され、切り土は青で示されていますが、
この地図の情報と独自に設置した地震計の観測データなどから、東北大大学院工学研究科の風間基樹教授は地盤の被害を大きくした要因に地震の揺れの特徴があったのではないかと指摘しています。

《盛り土と切り土の場所で揺れの強さが1.5倍》

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風間教授が参考に示してくれたのは東日本大震災のあと、宅地に設置した地震計で最大余震を観測した際のデータでした。赤が盛り土の部分、青が切り土の部分ですが、
No2とNo3を比較すると盛り土の上のNo2は震度5強、切り土の上のNo3は震度5弱と2地点はわずかな距離しか離れていませんが、揺れの大きさが異なっていました。

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また、揺れの強さの目安となる「加速度」の数値は、切り土では約200ガルでしたが
盛り土では約300ガルと、盛り土の方が1点5倍の強さで揺れていました。
さらに風間教授は、震災のあとたびたび繰り返されている地震の影響で被害が大きくなった可能性についても指摘しました。

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風間基樹教授
「建物は当然、劣化するし同じように地盤も変化する。建物のダメージの蓄積もあれば
地盤のダメージの蓄積もある。だから前回の地震で大丈夫だったから
次の地震も同じくらいなら大丈夫とは思わない方がいい」



《国・自治体も地盤・擁壁の対策進める》

今回の取材で見えてきたのは、地盤のよしあしで被害が大きく異なる点です。
丘陵地につくられた盛り土の地盤は場所によって揺れが大きくなる特徴があるのです。
1995年の阪神・淡路大震災や2004年の新潟県中越地震でも丘陵地につくられた造成団地で地滑りなどの地盤災害が発生し、国は2006年に宅地造成法を見直しました。

▼盛り土をきちんと締め固める工法を採用することや
▼地盤を弱くする地下水の排水施設をつくるなどの基準を守ることを義務化しました。

一方、仙台市は今回の地震の直前にこの法律改正以前に作られた擁壁を新しくする工事費の一部を助成する支援制度を設けています。


《これから家を建てる人 対策は?》

それでは、これから家を建てたいという人はどうすればよいのでしょうか。

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仙台市民の方は紹介した造成宅地の地図「仙台市宅地造成履歴等情報マップ」を
市のホームページから確認できます。市は必ずしも精度は高くないとしていますが、
参考になります。
そのほかの市町村の方は、ネットの検索サイトで「宮城県」「盛り土」「造成地」などと入力すると各市町村の盛り土のある住宅団地が分かる地図を見ることができます。
仙台市のように盛り土か切り土かの色分けなどはありませんが、参考になります。
また、「地盤品質判定士」という資格をもった専門家が簡単な相談であれば無料で応じてくれるほか、購入を希望する土地の現地確認なども有料で行ってくれます。
東北大学の風間教授によると、地盤のよしあしは一般の人が地表から見て判断するのは難しく、不動産関係者もそこまで把握していないと指摘した上で次のように話していました。

「買う人は一生の買い物なのでよく調べて買うべきだし、売る側もその土地の履歴や成り立ち、できる限りの情報を顧客に提供すべきです」

地盤については単に盛り土だから安全性が低いということではありません。どんな土で作られたのか、地下水の水位はどれくらいかなどさまざまな要因が関係するので、それぞれの土地を個別に見る必要があります。家を建てる際はまずは地盤です。土地の履歴を調べたり、ハウスメーカーなどにきちんと納得できる説明を求めて検討してほしいと思います。



uchiyama221107.jpg内山太介
1996年入局

静岡局、名古屋局で事件・事故を中心に10年近く関わったあと、福井や新潟、東京・科学文化部で原発報道に携わる。2011年から14年まで仙台局勤務。10年間のデスク生活を経て現場復帰。温泉と映画が好き。常に日本酒で乾杯。阪神タイガースの大ファン。