リボーンアート・フェスティバル ~「利他」と「流動性」に込めた思い

東日本大震災で大きな被害を受けた宮城県石巻市。今、大規模な芸術祭「リボーンアート・フェスティバル」が開かれています。最初の開催から5年となり、今回は、新たに住宅などを建てられなくなった地区にある石巻南浜津波復興祈念公園の周辺にも、初めて作品が展示されています。

それぞれに込められた思いとは何か。そして、初回から実行委員長を務める音楽プロデューサー、小林武史さんがこの催しに寄せる願いとは何か、取材しました。

(仙台放送局 記者 岩田宗太郎・石巻支局 記者 藤家亜里紗)


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【回を重ねて感じる変化】

「リボーンアート・フェスティバル」は、宮城県石巻市などを舞台に、アートと音楽、それに食を楽しむことができる大規模な芸術祭です。5年前の2017年から開かれています。震災で被害を受けた地域の復興を後押しし、新たな交流を生み出そうと続けられ、実行委員長は、Mr.Childrenなどの音楽プロデュースで知られる小林武史さんが務めています。

3回目となる今回は、新型コロナウイルスの感染対策として、期間を去年とことしの2回に分け、ことしの催しが8月20日から行われています。

現地を訪れた小林さんは、回を重ねるごとに、この地域で起きているある変化を感じると話しています。

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実行委員長を務める音楽プロデューサー・小林武史さん
「リボーンアート・フェスティバルは、最初は僕らがやりませんかと言ってバトンを持ってきた側なんですが、地元の人たちが本当にそのバトンを受け取ってくれている。ある程度この地域に根づいてきて、これからも続けていきたいという意思が、もう本当に強く感じられます。その強さで今回も開催に至っているという感じです。とてもうれしく思いますし、地元の皆さんに感謝しています」

 

【テーマは「利他」と「流動性」】

リボーンアート・フェスティバルは、毎回テーマを設定しています。
今回は、「利他」と「流動性」。

自分のことだけではなく、人を思い、他者の利益のため、誰かの喜びのために行動する「利他」の精神。小林さんは、甚大な被害を受けたこの地域で広がったさまざまな支援やボランティア活動はまさに「利他」の精神と通じるもので、その中にこそ、未来を切り開く力があると感じています。

小林武史さん
「震災のあとにここで“暴発”したような、すごく膨れ上がったような思いに名前を付けるとしたら何だろうと考えました。振り返ると、それは『利他』の感覚なんじゃないかと思ったんですよね。自分ももちろん生きているんだけれども、やっぱり、他者とのつながりの中で本当に自分が生かされている。そこに命の、生きていくということの大切な部分があるような気がしています」

一方で、現実に目を向けると、新型コロナの感染拡大や、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻。世界は移ろい、想像もできなかったことが次々と起きています。こうした不確かな「流動性」の時代を生き抜き、乗り越えるための鍵が、被災地の経験の中にあると考えています。

小林武史さん
「戦争や気候変動といった、誰の手にも簡単に負えるようなものではない、そういう流動性の中で私たちは生きています。ウクライナの人たちがあれだけ大変な思いをしているとなれば、この地域の皆さんが10年以上前にあれだけ大変な思いになったということとつながってくる。何かできることがあればという思いはリボーンアートの中からも出てきます。『アートは全く無敵だ』などと思い上がってはいけないと僕は考えていますが、今の時代に果たせる役割はきっとあると思います」

 

【大きな被害を受けた地区で初の展示】

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今回は、石巻市中心部や牡鹿半島などであわせて26の作品が展示されています。
このうち、津波で多くの人が犠牲になり、その後、新たに住宅などを建てられなくなった地区に整備された「石巻南浜津波復興祈念公園」の周辺にも、初めて作品が展示されました。

<石巻タワー(川俣正さん)>

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その1つ、川俣正さんが手がけた「石巻タワー」です。
木でできた高さ7メートル余りの作品は、“灯台”をイメージしています。らせん状のスロープをのぼると公園や海を見渡すことができます。頂上に取り付けられた明かりは、夜になると石巻の街の方向を照らします。船を導く灯台のように、石巻の未来を考える場所にしてほしいという思いが込められています。

川俣正さん
「海に向かうのではなく、街に向かう灯台。石巻で何をできるかいろいろ考えたが、全部押し流されたところから組み立てていくことをしたいなと。時間は経つし歴史はどんどん過ぎていくから、今は震災を知らない子どもたちがいるわけですよね。そういう子どもたちに、未来を考えてもらいたいという思いも含めて提案しました」

 

<This ground is still alive(保良雄さん)>

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保良雄さんの作品は、災害危険区域となり、新たに人が住めなくなった場所を掘り返し、40種類ほどの作物が実る畑にしました。

砂利が敷き詰められていましたが、掘り下げると土が現れ、地元の肥料などを使って土を育てると、やがて虫も集まるようになりました。「土はまだ生きている」と伝えることで、再び人が集まる場所になればと願いを込めました。

 

【混迷の時代だからこそ】

多くの被害が出たまさにその場所を舞台にすることについて小林武史さんに尋ねると、多くの人たちと議論し、悩み、葛藤を抱えながら展示を決めたことを語ってくださいました。

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小林武史さん
「内部で意見を交わしても、被害が大きかったところでの展示については一枚岩ではありませんでした。閉じた場所になってほしいわけではないけれども、“鎮魂”から逸脱した場所になってはならない。地域の人たちの意見を聞きながら、命の大切さに対して、みんなが素直な思いがあるような場所になってほしいと思っています。物議もあるなかで、様子をうかがいながら少しずつ理解が生まれ、アート作品を展示することになりました。傷ついてしまう人もいるから暴力的なものではないとは言いきれませんが、あくまでも、展示することでその先に響き合う何かが生まれるのではないかと思っています」

10月2日まで開かれる今回の催し。
小林さんは、訪れる人たちに、あすを生きる活力をつかんでもらいたいと願っています。

小林武史さん
「今回とても粒ぞろいで、本当にいい作品がたくさんあります。戦争や経済のこと、コロナからの出口とか、ものすごく不安定なこの時代だからこそ、リボーンアートに来て癒されるとか、少し勇気が出てくるとか、そういうことは本当にあると思うので、ぜひ来ていただきたいと思います」

 

【取材後記】(石巻支局・記者・藤家亜里紗)

「甚大な被害が出た地区にアート作品を展示する」。この話を最初に聞いたとき、正直、疑問に感じました。多くの人が犠牲になったその場所を、何かを「見る」ところにしていいのかと。しかし、1人ひとりのアーティストと関わる中で、それぞれがこの場所に真摯(しんし)に向き合い、悩み、アートを通じて何ができるかを考えた上で取り組んでいることを知りました。震災発生から11年半。展示された作品は、訪れた人たちに、移ろいゆく時の中で改めてこの場所と向き合い、誰かに思いを寄せるきっかけをもたらしているようにも感じます。

 


iwata220916.jpg仙台放送局記者 岩田宗太郎
2011年入局
科学・文化部で6年間文化取材を担当
2022年8月から仙台放送局

仙台では、ホヤをさばいては味わう日々を過ごしています
 

fujiie220916.jpg石巻支局記者 藤家亜里紗
2019年入局
仙台局で事件取材などを経て去年11月から石巻支局

石巻では浜を眺めて癒やされる日々を過ごしています
最近始めた船釣りでタチウオとサバを釣りました