"特定少年"って?改正少年法施行

4月から成人年齢が20歳から18歳に引き下げられたのにあわせて少年事件の取り扱いも大きく変わりました。少年が事件を起こした場合の処分などを定めた少年法が改正され、18歳と19歳は『特定少年』と位置づけられました。
「特定少年って?」詳しく解説します。

《仙台放送局 北見晃太郎記者》

【18・19歳は『特定少年』に】

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そもそも少年法は、未成年の健全な育成を目的に、刑罰を与えることよりも立ち直りを重視していて、大人とは異なる特別な手続きを定めています。少年の場合、警察や検察の捜査を受けたあとは家庭裁判所に送られ、公開の裁判ではなく非公開の審判で裁判官が本人から話を聞いて、立ち直りのためにふさわしい処分を判断します。

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改正少年法では、新たに成人となった18歳と19歳を『特定少年』と位置づけ、家庭裁判所から検察に送り返す「逆送」という手続きの対象事件が拡大され、一定の重さの罪を犯した場合は原則として大人と同じ裁判を受けることになります。

これまでは殺人や傷害致死など、故意に人を死亡させた罪が対象でしたが、『特定少年』については新たに、強盗や強制性交、放火など、法定刑の下限が1年以上の罪も対象になりました。

裁判では原則として20歳以上と同様に扱われ、刑期に幅を持たせて言い渡す不定期刑は適用されません。

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また、報道に関する規定も変わりました。

これまでは、立ち直りの妨げにならないよう少年の名前や本人と推定できる情報を報道することは禁止されてきましたが、改正少年法では、『特定少年』が起訴された場合は、実名などを報じることが可能になりました。

では、今回の法改正を少年事件の当事者はどう捉えているのでしょうか。

【”全員死刑にして”少年に弟を奪われ】

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宮城県に住む50代の女性です。未成年だった弟が、18歳の少年を含む複数の男から暴行を受け死亡しました。
家族の命が奪われるという出来事を当初は現実として受け入れることができなかったといいます。

(女性の話)
「遺体が自宅に帰って来た時には元気だった頃の弟とは変わり果てた姿で、『なぜ弟が事件に巻き込まれないといけないのか』という思いで頭がいっぱいでした」

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気持ちの整理がつかないまま、加害者たちの裁判などが淡々と進んでいきました。

(女性の話)
「加害者の中には少年もいましたが、当初は『全員死刑にしてください』と、『弟と同じ自分の命で償ってください』という思いでした。 でも、みんな求刑よりも判決が下回っていますし、私たち被害者はそれを受け入れることしかできませんでした」

【「どうか更生して」元少年の手紙きっかけに】

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その後も加害者への憎しみを抱き続けていましたが、事件から7年後、女性の気持ちに変化が起きたといいます。
きっかけは、加害者の元少年の1人から受け取った1通の手紙でした。

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“まもなく仮出所となりますが、悪友と再会したらまた罪を犯すかもしれないので地元には帰らないことにしました。あの時、『助けてあげたい』という気持ちはありましたが、止めたら自分が殺されると思い、助けることができませんでした。本当に申し訳ございませんでした。”

(女性の話)
「反省しているんだなって感じられたんですね。加害者たちを恨んでも弟は帰ってこないし、だったら『お願いだから同じあやまちを2度と犯さないでほしい』、 許したわけではないけれど『どうかお願いだから更生してください』というふうに気持ちが変わっていきました。このまま残りの人生も加害者たちを憎み続けて生きていくのが嫌になったんです」

【2度と加害者にさせないために】

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加害者の元少年たちを恨むのではなく、更生を願うようになった女性。

今回の改正少年法について、更生につなげるためには犯した罪の重さを自覚させる必要があるとして、「逆送」の対象となる事件が拡大されることは理解できるとしています。

(女性の話)
「『あなたたちはこういう悪いことをしたから少年院なり刑務所なりの反省の場に収監する』というのはいいと思うんですね。罪を償わせるのであれば、更生ということを考えての償いというふうに今回の改正を私は捉えました」

一方で、改正法のもとでは弟の命を奪ったような少年が実名で報道される可能性があります。女性は、こうした措置が少年たちの立ち直りの妨げになる恐れもあると感じています。

(女性の話)
「第三者に名前が知られたら、いざ社会復帰するとなった時にマイナスになるんじゃないかという思いがあります。アパートを借りるにしても名前が出たら『この人が犯罪を起こした人だ』ってどこからかわかるかもしれない。なので、根本的なことを考えるのであれば、更生に導くということを重視したほうがいいという強い思いがあります」

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加害者の元少年からの手紙をきっかけに、罪を犯したとしても”変われること”を知った女性。法改正が、少年たちを2度と加害者にさせないことにつながってほしいと願っています。

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「18、19歳で未熟なのに、罪を償うという反省の意味では法改正はいいのかもしれないけれど、継続的なフォローはとても重要だと思います。刑務所や少年院を出たあとの人生のことを十分に考えてあげて寄り添うことで、加害者たちは絶対、同じあやまちを繰り返さないんじゃないかなって私は思いたいんですね。なので、そうした更生の場を与えてあげてほしいです」

【別かれる意見 5年後には見直しも】

改正少年法については立法に向けた議論や法律の成立後にもさまざまな意見があります。

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「選挙権が与えられている以上、刑罰を受ける責任も自覚させるべき」、「犯罪の抑止につながる」という意見がある一方で、「更生の機会が奪われ、かえって再犯のリスクが高まる」、「ネット上に記事が残り続けると就職や社会復帰の妨げになる」などといった指摘もあります。

改正法の付則には施行から5年後に、成人年齢の引き下げによる社会や国民の意識の変化なども踏まえて、必要に応じて制度の在り方を見直すことが盛り込まれています。

残念ながら、誰もが少年事件の加害者にも被害者にもならないとは言い切れません。

18歳を成人とすることが今後、どう定着していくのかも含め、私たち一人ひとりが自分ごととして考えていく必要があると思います。

 


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 《記者紹介》

仙台放送局記者 北見晃太郎
平成31年入局
去年から県警キャップとして事件・事故の取材に励む