ナノの世界に迫る " 巨大な顕微鏡 " ~次世代放射光施設って何?~

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ドーナツの形をしたこちらの施設、ご存じでしょうか。
「次世代放射光施設」と呼ばれています。
「放射光」という特殊な光を使って、ナノ=100万分の1ミリという極めて小さい世界の分析ができます。
「巨大な顕微鏡」とも呼ばれる、この施設はいったいどんなものなのでしょうか。

(記者 伊藤奨)


【東北大学に“謎のドーナツ型施設”】

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JR仙台駅から西におよそ4キロ。東北大学の青葉山キャンパスにその施設がありました。
建物がほぼ完成した今月、現地を訪ねました。放射光施設の運営法人の鈴木一広部長に内部を案内してもらいました。

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ホールはまるでスタジアムのような巨大な空間。横幅は26メートルあります。ドーナツのような建物は、1周349メートルあるそうです。

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「放射光を出す最初の高速で回る電子はここで作られます」(施設の運営法人 鈴木一広 部長)

この施設で活用するのが「放射光」という特殊な光です。明るさは太陽の10億倍と言われています。

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直線部分から放たれた電子は、光の速さ近くまで一気に加速。そのスピード、1秒間でリングを85万周するそうです。磁石でその軌道を曲げると、ここで放射光が発生。放射光の強い光を対象物に当てれば、ナノメートル=100万分の1ミリの世界までくっきりと見えるそうです。

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放射光を当てたさくらんぼはこのとおり。対象の構造を正確に把握できるため、味のもとになる栄養分や水分の分析に役立ち、将来の品種改良にも活用できるのではないかと期待されています。

 211216_07.png「結果がすぐわかるのが長所。画像や動画にして結果を分析でき使い勝手もいいです」

(施設の運営法人 鈴木一広 部長)

【民間企業からも熱い視線】

極めて小さいナノの世界が見られる次世代放射光施設。民間企業も熱い視線を注いでいます。

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県内に本社がある大手日用品メーカーです。こちらでは新たな炊飯器の開発に向けて「炊き上がりのごはん」を研究しています。目標は「かまど」で炊いたごはんです。

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かまどは火が釜全体を包むため、熱が均等に伝わります。炊飯器より炊きムラが少なく、おいしく仕上がるといいます。どうすればかまどで炊いたごはんを炊飯器で正確に再現できるのか。メーカーでは、新たな施設で両者のデータを分子レベルで比べることで、かまど炊きにより近い炊き上がりの炊飯器の開発をめざしています。

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「電子顕微鏡もあるが、内部の構造までは分からない。非常に分析能力の高い放射光を使うことで、いままでわからなかったことが見えて、今後の商品開発にも生かせるんじゃないかと期待しています」
(日用品メーカー桝澤岳史マネージャー)

【官民共同の施設】

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新たな施設の整備費用はおよそ380億円。費用は国と企業、それに大学などが分担する、官民共同の施設です。

 211216_07.png「この施設はとても複雑な構造の食品の分析に強く、革新的な物質の開発につながるのではと期待しています。この施設を中心に研究開発の拠点をつくり、独自の技術を持つ東北の企業の競争力強化にもつなげられればと思います」

次世代放射光施設は、スマートフォンのリチウム電池で世界トップシェアの日本の電子部品メーカーや、摩耗しにくい自動車のタイヤの開発に取り組む大手ゴムメーカーも注目していて、建設資金を提供しています。一方、資金力に乏しいものの、将来性があるベンチャー企業や地元に根ざした中小企業などの利用をどう促していくかなど、課題も残されています。最先端の研究施設を東北経済の活性化にしっかりつなげていけるのか。本格的な運用が始まるのは3年後です。

 


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伊藤 奨
(平成28年入局)
初任地・福井局で原発取材の経験を積む
去年、地元・仙台に赴任
県政担当を経て、現在は経済や学術を担当