県内でクマが急増 背景は?
宮城県内ではことし8月以降、クマが市街地で目撃されるケースやクマに襲われてけがをする被害が相次いでいます。こうしたなか、県内のクマの生息数が昨年度までの7年間で2倍以上に増えたことが県の調査でわかってきました。クマの被害や生息数が拡大する背景を取材しました。
(仙台局 宮崎竜之輔)
《クマによる人身被害が過去最多に》
ことし9月6日、仙台市青葉区のJR陸前落合駅前で街路樹にクマが登っているのが見つかりました。仙台市の要請を受けた専門の業者が麻酔銃で撃って眠らせて捕獲しました。発見から6時間近くたっていました。
(撮影 東北野生動物保護管理センター)
捕獲されたのは、体長1メートル20センチほどのメスのツキノワグマでした。クマは麻酔で眠らされ、ぐったりとした様子でおりに入れられていました。現場はマンションのすぐ目の前の街路樹でしたが、けがをした人はいませんでした。
宮城県内では今年度、クマに襲われてけがをした人は7人。県が統計を取り始めた平成13年以降で最も多くなっています。山中で遭遇するケースもありますが、住宅や田んぼの近くなど、人里で襲われる被害も目立っています。環境省によりますとこうした人里周辺で被害に遭うケースは全国的に増加傾向だということです。
《クマ増加の背景に「耕作放棄地」》
なぜ、人里での被害が増えているのか。
クマの生態に詳しい専門家は、「耕作放棄地」の増加が背景にあると指摘します。
山間部では以前、いまよりも田畑が広がっていました。クマは山の中を移動し、
木の実などを食べています。田畑が境界の役割を果たしていたため、人里までは
あまり近づいてきませんでした。
しかし、過疎化や高齢化が進み、作付けされなくなった「耕作放棄地」が増加。田畑だった「耕作放棄地」に草木が生い茂っていきました。これに伴ってクマが生息できる場所がどんどん広がり、人里に迫ってきたといいます。安定してエサがある人里の近くに定着するクマも出てきました。
東北野生動物保護管理センター 宇野壮春代表 「昔から山沿いにはクマがいるが、耕作放棄地でやぶが茂ってきたことによってクマが身を隠しながら移動できる環境が整ってきた。人を気にせずに人里に出てこられるようになるうちに、クマもだんだんと慣れてきた」 |
《クマの生息数も急増》
さらに、県内に生息するクマが増えていることもわかってきました。
県は昨年度、「カメラトラップ」という手法でクマの生息数を調べました。林の中にカメラを設置し、その前にエサを仕掛け、エサにおびき寄せられたクマを撮影していく手法です。エサを高い位置に置くことでクマが立ち上がり、写った胸元の月の輪模様で個体を識別していきます。
県は昨年度、6月から9月にかけて南部の50か所にカメラを設置し、調査を行いました。
そして、撮影されたデータをもとに、県内のクマの個体数を推定した結果、県内全体では3629頭のクマが生息している推定されました。同じ方法で調査した、その7年前は1669頭。調査技術の向上なども影響していますが、2倍以上に増えていました。
《耕作放棄地の適切な管理を》
東北野生動物保護管理センターの宇野代表は、耕作放棄地の増加でクマが生息しやすい環境が広がったことや、過疎化や高齢化で狩猟の担い手が減ったことなどが原因だと考えられるということです。クマの被害を減らすためには、行政が主体となって耕作放棄地を適切に管理するなど、クマと人が生活する場所をすみ分ける対策が必要だと指摘しています。
東北野生動物保護管理センター 宇野壮春代表 「今後は例えば山間地の田畑を集約していくことや、行政と住民が話し合ってきちんとやぶの管理をする地区を決めることなどが求められる。行政の都市計画もクマの被害対策を踏まえたものにしていく必要があると思う」 |
【宮崎記者】
仙台局記者 宮崎竜之輔
2022年に入局し仙台局に
事件・事故、地域の話題などを取材