ワインがつなぐ地域の魅力

日本で栽培されたぶどうを使って、醸造も国内で行う「日本ワイン」。
国内外で注目が集まり、国内のワイナリーはこの5年で1.5倍近くに急増しています。
海沿いの町、宮城県南三陸町にも2年前、初めてワイナリーができました。

「ワインこそ地域の魅力を最大限に引き出せる」

そう語る、小さなワイナリーの挑戦とは。

《仙台放送局 北見晃太郎記者》


【南三陸町初のワイナリー】

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4月中旬の週末。
南三陸町のワイナリー「南三陸ワイナリー」のテラスから、にぎやかな声が聞こえてきました。この日訪れたのは仙台からの観光ツアー客およそ20人。施設を見学したあと、白ワインと地元産の新鮮な生ガキを味わいました。皆、とても満足した様子です。

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「カキもワインも本当においしい」(男性参加者)
「すごくおいしくておかわりした」(別の参加者)

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ワイナリーの社長、佐々木道彦さん(49)
東日本大震災のボランティアを経て、20年近く勤務した静岡県の楽器メーカーを辞めて、南三陸町に移住しました。

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「被災地に訪れた時『にぎわいを取り戻すには何か新しいことを始めなきゃいけない』と感じたんですね。そこで20年以上ものづくりをやらせていただいた経験を生かして新しい事業や商品を作れないかという思いになったんです」

移住のきっかけは「南三陸町にワイナリーをつくろう」という地域おこし協力隊のプロジェクトでした。もともとワインに関心があったという佐々木さん。参加者募集の話に真っ先に手を挙げたといいます。

(佐々木さん)
「ワインって本当に面白い飲み物というか、食材をつなげられる。農家さんが作った野菜から、漁師さんが獲った魚とも楽しめる。そういったものをつなげて一度に味わえることができるのではないかと思った」

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2年以上かけて、栽培や醸造の基本を習得。
町内にある畑ではようやくまとまった量のぶどうが収穫できるようになりました。

これまではほかの産地のぶどうも使ってワインを造ってきましたが、今回初めて1000本分を自前のぶどうで醸造。将来はすべて町内産のぶどうでワインを造りたい考えです。

(佐々木さん)
「ことしはたくさん飲みたいという方に行き渡るような数量ができたということをとてもうれしく思うし、これからも生産量を増やして地元の美味しいものとここで育てられたワインを一緒に楽しんでほしい」


【味だけじゃない!ワインの魅力“コラボ”】

生産の環境が整ってきた今、ワイナリーはファンを増やす取り組みに力を入れています。
カギを握るのは「異業種との連携」です。

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この日訪れたのは町内の藍染の会社。去年からワイナリーの店頭で販売するワインの瓶包みを手がけてもらっています。一つひとつが手づくりで、品質の高さからワインと一緒に購入する客が多く、これまでの売り上げは30万円以上になりました。

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(連携する会社 中村未來 代表)
「『ボトル入れを買ってきました』と言ってわざわざうちに訪ねてくださる方がすごく多くて、今後もワインを通じていろんなきっかけが生まれることを期待している」

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ワインと一緒に地域のほかの魅力にも触れ、南三陸町のリピーターになってもらうことがファンの獲得に欠かせないと考えています。ワイナリーではこの秋、三陸をめぐるワインツアーを計画しています。その宿泊場所として町内の施設を使えないか、地元の企業などに働きかけています。

(佐々木さん)
「ワイナリーで食事した後はそのままここで泊まるとか、そんなプランができたらいい。
南三陸町には本当に良いものがたくさんあるが、それを知らない方が多いので、そういうところを連携して町の方々と一緒に盛り上げていくことが大切だと思う」

震災から11年。
ワインは新たな町の産業になる可能性があると手応えを感じています。

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「震災の復興事業にいつまでも頼れないのはわかっている。そのために本来の南三陸でしか体験できないような新しい楽しみ方を味わってもらいたい。そうすることで、もしかしたら10年、20年かかるかもしれないが、『また南三陸に行ってみたい』という人が増えていくのではないかと思う」

このワイナリーではワインに合わせるトマトなど野菜の生産も始めました。

「ワインをきっかけに地域ににぎわいを取りもどしたい」

そう語る佐々木さんの視線はしっかりと前を見据えていました。


220427_wa_010.jpg《記者紹介》

北見晃太郎
平成31年入局
気仙沼支局勤務時は
ロゼワインを愛飲