宮城津波新想定:120か所が新たに浸水想定区域に

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5月に宮城県が発表した新たな津波の浸水想定では、県内にある津波からの避難所や避難場所のうち、少なくとも120か所が新たに浸水想定区域に入ることがNHKの調査でわかりました。避難計画の見直しや新たな避難場所の確保など、対策が急がれます。

(“津波新想定”取材班)

宮城県は5月、将来起こりうる最大クラスの津波の想定を発表し、防潮堤が壊れるなど悪い条件が重なった場合、浸水面積が東日本大震災の1.2倍に上るとしました。この想定について、NHKは6月8日までに、沿岸の15の市と町に取材するなどして、津波からの避難所や避難場所が浸水するのか調査しました。

その結果、震災の実績などを基に作った従来のハザードマップでは浸水が想定されていなかったものの、今回の想定で新たに浸水想定区域に入るところが、少なくとも120か所に上ることがわかりました。

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津波の新想定で、新たに浸水区域に入った120か所を市町村別にまとめました。
最も多かったのは東松島市で60か所でした。次いで多かったのが石巻市で18か所、多賀城市が12か所、仙台市が8か所、女川町が6か所、岩沼市が5か所、気仙沼市と山元町が3か所、塩釜市が2か所、名取市と南三陸町、それに七ヶ浜町が1か所、松島町と利府町、亘理町は確認されていないとしています。

【8か所は高さ足りず「避難所として使えない」】

浸水想定区域に入っても、2階以上に上がるなどして避難できる場合もありますが、女川町の6か所と南三陸町、七ヶ浜町各1か所の、合わせて8か所は高さが足りず、すでに市や町が「避難先として利用できない」と判断しています。

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沿岸の市と町は、現在も避難所や避難場所がどのくらい浸水するのか詳しい分析を続けていて、浸水想定区域に入る避難所などはさらに増える可能性があります。避難計画の見直しや避難場所の確保など、住民の意見を踏まえた対策が急がれます。

【「遅きに失してはダメ」 住民は対策求める】

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避難所が浸水する可能性について、住んでいる人たちはどのように受け止めているのでしょうか。名取市が5月に開いた津波想定の説明会で、「対策を急ぐべきだ」と声を上げる人がいました。名取市の小塚原南地区で町内会長を務める小平敏さんです。

これまでの名取市の防災マップでは、小平さんたち小塚原南地区の人たちは、津波が到達しないとされていた、およそ3キロ先の小中学校に避難する計画でした。

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ところが新しい想定では、小中学校やそこまでのルートが、3メートル以上5メートル未満の浸水想定区域に入りました。
小中学校の屋上に上がれば津波から逃れることができますが、高齢の住民も多く、全員がたどり着けるか、不安があるといいます
小平さんは、地域に高台がないため、避難タワーの建設を市に求めています。

小平さん
「震災から10年以上経って、復興が進んで、もう安心だと思っていたところで、浸水想定が変わった。遅きに失してはダメなので、前へ前へと考えていかないとダメだと思います」

【発表から1か月 動き出す人たちも】

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対策に向けていち早く動き出している人たちもいます。
気仙沼市の条南中学校では6月7日、津波想定を受けて新しい避難方法を探る訓練が行われました。

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中学校周辺の地図です。ピンク色の部分は、新しい想定で浸水が想定されるエリアです。これまでは歩いて30分かけて、画面の上側にある気仙沼高校に避難する計画でしたが、学校周辺の広い範囲で3メートル以上の浸水が想定されるほか、第一波が到達するまでおよそ30分しかないことが分かりました。
このため、より素早く避難しようと、画面の下側にある、市立病院近くへの避難方法を探ることにしました。

【点呼をやめて一気に高台へ】

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教員と生徒あわせておよそ150人が参加し、スピードを上げるための工夫も取り入れました。これまでは避難の途中で2回、立ち止まり、点呼をしていました。しかし今回は津波到達まで時間が限られるため、教室から高台まで立ち止まることなく一気に歩きました。
全員が到着するまで13分。これまでより大幅に短くすることができました。

翌日、早速、課題を検討しました。
「1年生が4階にいるから、最後になる。廊下に並ばないで移動しながら行くという手も」。
「本当に時間がないなら、3方向に逃げる手もあると思う。1年生、2年、3年と逃がしてもいい。それこそ学年てんでんこ方式も」

学校は、訓練の結果を新しい防災マニュアルに反映させることにしています。

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条南中学校 宮崎明雄校長
「1人1人の命、全員の命を守っていきたいと本当に思います。『逃げろ』というだけではなく、より落ち着いて、冷静に行動できることは何か、具体的な目標をもって訓練を行っていきたい」