【丹沢 研二】「コロナ差別」をなくしたい ~NPO法人World Open Heart 理事長 阿部恭子さん~

「コロナ差別」とは、新型コロナウイルスに感染した人やその家族などが誤解や偏見に基づく差別を受けること。全国的に報告が相次ぎ、国や多くの自治体が差別防止のための啓発に力を入れ始めています。この問題にいち早く向き合ったのが、犯罪加害者家族の支援活動を行っている仙台市のNPO法人「World Open Heart(ワールドオープンハート)」です。去年9月に「新型コロナ差別ホットライン」を立ち上げ、患者の家族などからの相談を受け付けてきました。理事長の阿部恭子(あべ・きょうこ)さんにインタビューしました。

(取材:仙台放送局アナウンサー 丹沢 研二)



感染者の「特定」、そして誹謗中傷

丹沢)新型コロナの感染者数は落ち着いてきていますが、相談件数に変化はありますか?

阿部)相談件数は激減していますね。10月以降、差別をされたという相談は1件も来ていないです。

丹沢)そうですか。ホットラインを立ち上げて1年あまりで、これまでどれぐらいの相談が寄せられましたか?

阿部)84件です。

丹沢)どんな相談がありましたか?

阿部)最も多かったのが、実際に感染した方やその家族ではなくて、まだ感染をしていない方からの相談です。たとえば東京から実家の地方に帰る、感染拡大している地域から感染の少ない地域に移動する時に、現地の方に迷惑をかけてしまうのではないでしょうかとか。
特に人口の少ない地域では、噂になってしまうと、そこに住んでいる家族が住みにくくなってしまう。世間体を気にする日本人の特徴かなというようなご相談が多かったです。
実際差別を受けた方からのご相談も多々寄せられているんですけど、初期の頃「この地域で1人出ました2人出ました」というレベルだったと思うんですけど、あの頃は感染報道がされると、どこの地域の誰かっていう感染者の「特定」が始まるんですよ。インターネットなんかで。「あの人は東京に行っていたからあの人じゃないか」とか。そういうのがSNSなんかで拡散されてあることないこと誹謗中傷されてしまうというのがありました。


小さなコミュニティーの「同調圧力」

丹沢)そういった差別は地方や小さい町のほうが多いですか?

阿部)地方の人口の少ない地域が多いんですけど、首都圏からもご相談が寄せられています。東京都内でも、関わっているコミュニティーがすごく小さくて、たとえばママ友の集まりとか。そこで排除されるようなことがあると生きていけないぐらいに気にしてしまうと。

丹沢)東京で多い時には一日何千人という感染者が出ていたので珍しくないと思うかもしれませんが、それが小さなコミュニティー、友達の輪や会社などになると「その中で一人」ということが出てくるわけですか?

阿部)そうですね。会社でも「ここの部署ではまだ出ていない」っていうのはあると思うんですよね。そうすると何々部の感染者第1号になるのがとても怖い。ということは同じですよね。なんとか町、村で一人みたいな。やっぱり少数派という所でしょうね。恐怖は。
みなさんにお伝えしていたことは、感染は決して個人の問題ではないんですよね。あなたが悪いわけではないと。感染して悩んでいる方にはそのようにお伝えして、いじめとかハラスメントに対しては毅然と戦っていきましょうという姿勢を見せることが一番の目的です。

丹沢)コロナ差別が日本の特徴、それが元にあるとおっしゃっていたんですが、それはどういうことなんでしょうか?

阿部)やっぱり「同調圧力」がすごく強いと思います。我々が加害者家族の支援を行っていてずっと感じてきたことなんですけど、「世間」という存在があって、大体多数派に合わせて動くと言うか、少数派の存在自体が認められにくい。それがコロナになってあぶり出されたんじゃないかと思っています。

日本だと、加害者家族が連帯責任を負わされたりとか。いわゆる「和を乱した」というようなことですね。家族ごと差別にさらされるようなことが非常に強い。

海外だとあくまで犯罪を犯した個人の問題で、家族は罪を犯したわけじゃないからむしろ被害者という見方で支援されているんですけど、日本だと加害をした本人以上に「犯罪者を生み出した家が悪い」ということでバッシングを受けるということがあります。

コロナ感染も、自分で感染したいと思って感染する人は一人もいないので、これは「被害」と見ていいのではないかと思うんですが、どうしても「加害」に取られてしまうと。他人に感染させるので。相談を見る限り、そうならないように多くの方が感染をしないように気をつけている。健康を害することで感染したくないというよりも、世の中から差別を受けたくないから感染しないようにするという方が日本の特徴なんじゃないかと思います。

一方で、あまりにもストレスになると精神的に非常に良くない。濃厚接触者になった方の相談を聞いていますと、「これでもし自分が陽性だったら生きていけないんじゃないか」と、すごく心配されている方がいらっしゃる。「結果が出るまで毎日眠れない」「陽性になって、もし誰かにうつしていたら転居するしかないかなあ」「子どもが学校でいじめられたらどうしよう」とか、すごく悩まれるんです。本当は何も考えないでゆっくり休んで元気になってほしいんですけど、社会復帰への恐怖っていうのをすごく語られるんですよね、みなさん。

感染が原因で自ら命を絶たれたというケースの報道では、ご自身の社会復帰やお子さんが学校でいじめにあうかもしれないという不安に感じていたという報道がありましたから。周りに迷惑をかけてしまって申し訳ないという「罪責感」を持たなければならない世の中なんだなと思いますね。


「人に迷惑をかけない」の怖さ

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丹沢)「人様に迷惑かけてはいけませんよ」というのは私もそういうふうに気をつけているつもりですが、行き過ぎてしまうと「人様に迷惑をかけた人は排除してもいい」と。

阿部)そうなんです。私はちょっと行き過ぎじゃないかと思うんですよね。人に迷惑をかけたんだからどこまで追い詰めたってその人の責任なんじゃないかっていう。特にインターネットで匿名になると、制裁への歯止めがかかりませんから、あれは本当に怖い。
「和の暴力」というか、すごくそれは感じます。

丹沢)人に迷惑をかけちゃいけないから外で悪いことはしないけど、みな家庭に押し付けている所があるんですかね?

阿部)ある種、外ではいい人でいなければいけないと。でもじゃあ家庭の中に問題がないかというと、なくはないと思うんですよね。私も加害者家族の支援において、虐待とかDVが元にある殺人事件とか沢山見ているんですけど、とにかく社会ではみんないい人にしているんですよ。その我慢やストレスみたいなものが家庭の中で爆発するという。

丹沢)しかもコロナで外とつながりにくくなっていますから、家庭の中で問題を抱えたら外に助けを求めることもちょっと難しかったり…。

阿部)そうですね。先ほどから出ている「人に迷惑をかけてはいけない」というこの縛りが、外に援助を求めることを止めてしまっている。「人に迷惑をかけてはいけない」というのは「自分で何とかしなさい」っていうことですよね。その考えで行くと、助けようとする人もいなければ、困っても助けも求めないと。そういう結果、精神を病んだりとか、最悪の場合、自ら命を絶つみたいなことになりがちだと思うんですよね。


「冷たい空気を破る」「複数のコミュニティーに所属する」

丹沢)これから差別にあってしまうかもしれない人に声をかけたいことはありますか?

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阿部)たぶん日本に生きる我々の中では、「人の目なんか気にしない」というのは無理だと思うんですよね。ここで生きている限り。なので、そういう冷たい空気を破ることが必要です。みなさん「感染したり濃厚接触者になったりして休んで(登校や出社をする)初日に、学校や会社に行きづらい」とおっしゃるんです。なので、「おかえりなさい」と言うような態勢を会社とか学校で作ってあげるといいと思うんですよね。多分初日に行ければあとは大丈夫なんですよ。学校なんかでも。特にお子さんはすごくそういうの気にするので。

何々さんがコロナで2週間ぐらい休んで、来たっていう時には「おかえり」ってちゃんと言ってあげるコミュニティーを作るということが一つと、あとは出来るだけSNSも含めて沢山のコミュニティーに所属した方がいいと思っています。習い事とか色んな友達のグループとか、複数のコミュニティーに身を置くことで、一つのコミュニティーの基準を絶対化しないことが大事だと思っていて、Aのコミュニティーで何か言われたからといって、Bがあるじゃないかと。多くのネットワークを自分の中で作っておくと、何かがあった時に必ず味方になってくれる人はいると思います。みんなが敵のように思えてしまうかもしれないですけど、絶対に味方がいる。我々もこういうサポート体制を立ち上げていますし、その希望を絶対捨てないでほしいと思います。


【もしご自身や身近な人が新型コロナ差別を受けたら】

新型コロナ差別については、国や地方自治体が相談窓口を設けています。
また阿部恭子さんたちが開設している「新型コロナ差別ホットライン」の電話番号は
090-5831-0810です。