2019年12月18日 (水)グレタさんの演説を読み解く


※2019年9月25日にNHK News Up に掲載されました。

16歳の1人の高校生の演説が、世界に広まっています。
注目を集める若者が訴えてきたのは、「科学者の声に耳を傾けてください」ということば。
専門家などに聞いて、力強いその演説を読み解いてみることにしました。

ネットワーク報道部記者 高橋大地 ・郡義之

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温度差の出た会議

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今回の国連の温暖化対策サミットはまさに“各国の温度差”が浮き彫りになりました。

世界の77か国が2050年には温室効果ガスの排出量を実質ゼロにすることを約束する一方、アメリカ、中国、インドなど温室効果ガスの主要な排出国は、実質ゼロにすることを約束しませんでした。

日本など、サミットで具体策を発表していない国も少なくなかったのです。

絶滅に向かっているのに…

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そうした会議で注目を集めたのがスウェーデンの16歳の高校生、グレタ・トゥーンベリさんが各国の代表を前におこなった演説です。

「私たちは絶滅に向かっているのに、あなた方が話すことはお金の話か、永遠に続く経済成長というおとぎ話ばかりです」

「あなた方は私たちの声を聞いている、緊急性は理解していると言います。この状況を本当に理解しているのに行動を起こさないのであればあなた方は邪悪そのものであり信じることができません」

力強い口調で批判し、早急な対策を求めたのです。

“科学”のもとに

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グレタさんは世界各地で、温暖化について発言しています。

そうした場所で繰り返し出てくることばが「“科学”者の声に耳を傾けてください」「私たちは“科学”のもとに団結している」など“科学”ということば。

今回の演説でも同じようなことばが出てきます。彼女は何をもとに強いことばを発しているのか、専門家などに聞いて演説を読み解いてみました。

30年以上にわたり科学が示す事実は明確

まず、今回の演説の序盤で出てくる次のことばです。

「“30年以上にわたり、科学が示す事実”は極めて明確でした。なのに、あなた方は、事実から目を背け続け、必要な政策や解決策が見えてすらいない…」

“30年以上前から科学が示す事実”とは何をさすのでしょうか。

「温室効果ガスで温暖化が進むということ、それ自体をさしていると思います」

そう話すのは、北海道大学地球環境科学研究院の長谷部文雄特任教授です。

長谷部教授は地球の周りにあって気候の形成に大きく関わっているオゾン層の破壊の研究に長年、取り組んでいます。

「このころから温室効果ガスで温暖化が進むということが、科学の世界では定説になってきたんです。グレタさんはおそらくこのことを言っているのではないかと思います」(長谷部教授)

調べて見ると確かに30年前といえば、「国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」が設立された直後のころです。

29年前の1990年、IPCCは、“初めて”となる「第一次評価報告書」を作成しています。

環境省などのホームページに出ている報告書の概要を見てみると、「世界の第一線の研究者が寄与した研究成果について評価し、その結果をまとめた報告書」としていて「主な内容」についてはこう書かれていました。

gureta190925.5.jpg▼人間活動に伴う排出によって、温室効果ガス(二酸化炭素、メタンなど)の大気中の濃度は確実に増加しており、このため、地球上の温室効果が増大している。
▼(特段の対策がとられない場合)21世紀末までに、地球の平均海面水位は35センチから65センチの上昇が予想される。

gureta190925.6.jpg海面の上昇で被害が出ている南太平洋のツバル

グレタさんはこうした当時の報告や動きをさして、“30年以上前から科学が示す事実”としているのかもしれません。

一方で「IPCCの気候変化に関する知見は十分とは言えず、気候変化の時期、規模、地域パターンを中心としたその予測には多くの不確実性がある」「温室効果が強められていることを観測により明確に検出することは、向こう10年内外ではできそうもない」とも書かれていて、当時、裏付ける研究が十分に進んでいないことをうかがわせる記述もありました。

可能性は50%しかない

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もうひとつ、「今後10年間で(温室効果ガスの)排出量を半分にしようという、一般的な考え方があります。しかし、それによって世界の気温上昇を1.5度以内に抑えられる可能性は50%しかありません」ということばもあります。

このあとに、「50%というリスクは受け入れられない」「あなた方は私たちを裏切っています。しかし、若者たちはあなた方の裏切りに気付き始めています」といった強いことばが次々と出てくるのです。

環境省地球環境局は…

今度は環境省の地球環境局の「脱炭素化イノベーション研究調査室」に聞いてみました。

「去年10月に、IPCCの総会で採択された『1.5度特別報告書』に該当する部分があると考えられます」(担当者)

gureta190925.8.jpgこの特別報告書ではーー

●今のままのペースでいくと2030年から2052年には(産業革命前のものとした19世紀後半の気温に比べて)1.5度上昇すると予測。

gureta190925.9.jpgそして、
●気候の上昇を1.5度に抑えるためには、2010年の水準に比べて2030年までに二酸化炭素の排出量をおよそ45%削減し、2050年ごろまでにほぼ「正味ゼロ」にする必要がある、としています。

「グレタさんの『今後10年間で排出量を半分にしようという一般的な考え方』という発言は、『2030年までに、二酸化炭素の排出量をおよそ45%削減する』の部分に該当するのではないでしょうか」(担当者)

正味ゼロにしても

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グレタさんの言う「世界の気温上昇を1.5度以内に抑えられる可能性は50%しかありません」についてはどうでしょうか。

「報告書では、地球温暖化を1.5度以内に抑えるために、今後、世界で排出できる二酸化炭素の量はおよそ580ギガトンとしています」

「そして残りの580ギガトンを排出し、2050年までに排出量をほぼ『正味ゼロ』にしても、1.5度以内に抑えられる確率は50%超としています。この部分を取り上げてグレタさんは『50%しかありません』と話していたのではないでしょうか」(担当者)

あなた方の裏切り
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専門家の意見からは、グレタさんは歴代のIPCCの報告書などをもとに、今のままでは危機が訪れるという科学の声、科学者の声にもっと耳を傾け行動に移してほしいと訴えているようです。

そして、最初は裏付ける研究が十分に進んでいないことを記していたIPCCの報告書も、第5次の評価報告書では、人間の影響が温暖化の支配的な影響であった可能性が極めて高いと記すようになっています。

グレタさんの演説には、終盤、「あなた方は私たちを裏切っています。しかし、若者たちはあなた方の裏切りに気付き始めています」ということばが出てきます。

科学が何回も示している警告を無視して、そのツケを次の世代にまわすことは許されない、演説はそう訴えているように感じました。

投稿者:高橋大地 | 投稿時間:12時48分

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