2017年08月14日 (月)どこまで上がる?水道料金


※2017年6月21日にNHK News Up に掲載されました。

毎日の炊事や洗濯、お風呂にかかせない水。
どのくらいのお金がかかるか知っていますか?。
東京23区では、お風呂1回当たりおよそ30円。
年間に換算すると1万1000円程度。
水は蛇口をひねれば出てきますが「ただ」ではありません。
1か月当たりにかかる水道料金は、全国平均で3215円
(平成28年)。
実は、各地で水道料金が上がっていて、10年前に比べておよそ160円上がっています。政府は値上がりに歯止めをかけようと、ことしの
通常国会に法案を提出しましたが、ひっそりと先送りになりました。

「水道代が気になって、お風呂でゆっくりくつろげない!」
そんな日は近いかもしれません。

ネットワーク報道部
岡崎靖典記者・牧本真由美記者・影圭太記者 釧路局 郡義之記者

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<“6割値上がり”衝撃の試算も>
「家族の多い家ほど水道の使用量は多いので負担は大きい」
「子育て世帯に対する水道料金の軽減を検討したのか?」
ことし6月。北海道釧路市は市議会に水道料金を値上げする
条例案を提出しました。

suido170621.2.jpg値上げは平均で19.5%。1か月当たりの水道料金が現在、3225円の家庭の場合、料金は3868円と、600円余りの値上がりになるということです。年間では7700円以上。議員からは、負担の増加に対して懸念の声が上がりました。
実は、このところ全国の自治体で水道料金の値上げが相次いでいます。ことしに入ってからも神奈川県小田原市や福島県会津若松市などが値上げしました。

日本水道協会によりますと、去年4月1日までの1年間に水道料金の値上げに踏み切った自治体は全国で47にのぼります。

去年4月1日時点の家庭用の水道料金は全国の平均で1か月当たり3215.3円(20立方メートルあたり)。
10年前に比べておよそ160円上がっていて、この20年間で最も高くなりました。

日本政策投資銀行では、およそ30年後には、水道料金は今よりも“6割の値上げ”が必要だという衝撃の試算を出しています。

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<なぜ相次ぐ値上げ?>
ほとんどの自治体は、その理由について「設備の老朽化」と
「人口減少」をあげています。

法律で定められている水道管の耐用年数は40年。全国に張り巡らされた水道管の13%余りが、その年数を超えているのです。老朽化した水道管を更新するにもお金がかかりますが、ほとんどの自治体で、その財源の確保に四苦八苦しています。

suido170621.4.jpgさらに追い打ちをかけているのが、人口の減少。水道を使う人が減っており、料金収入が上がらなくなっているのです。水道料金は、基本的には使う人の料金でまかなわれているので、
使う人が減れば水道事業の経営が厳しくなります。

総務省によりますと、全国の半数以上の水道事業者が給水にかかる費用を水道料金の収入でまかなえていないということです。


<料金格差は8倍!>
このため、人口が減少する地方の自治体ほど水道料金が高い傾向があります。

日本水道協会のまとめによると、家庭用の20立方メートル当たりの水道料金が最も高いのは、北海道夕張市で6841円。
次いで青森県深浦町の6588円などとなっています。

一方、最も安かったのは兵庫県赤穂市で853円でした。夕張市と赤穂市の水道料金には6000円の違いがあります。人口の減少以外にも、地理的な条件なども水道料金には影響しますが、
自治体間の格差は実に“8倍”に上っているのです。

〈水道料金ランキング〉
▼高い
1.夕張市(北海道)6841円
2.深浦町(青森県)6588円
3.由仁町(北海道)6379円
4.羅臼町(北海道)6360円
5.江差町(北海道)6264円

▼安い
1.赤穂市(兵庫県)853円
2.富士河口湖町(山梨県)985円
3.長泉町(静岡県)1120円
4.小山町(静岡県)1130円
5.白浜町(和歌山県)1155円
(日本水道協会 全国の1264の水道事業者まとめ 平成28年4月1日時点 家庭用20立方メートル当たり)

生活者の視点から水の問題を提起している一般社団法人「Water-n」の奥田早希子さんの試算によると、東京23区では、お風呂1回当たりにかかる水道料金は29.7円(夫婦2人世帯で湯船に使う水を250リットルと仮定)。

これが水道料金が最も高い夕張市ですと85.5円になります。一方の赤穂市では10.6円。お風呂1回でおよそ75円の差。
単純に1年間で計算すると2万7300円も差がつくのです!

suido170621.5.jpg住む場所が違うだけで、水道にかかる料金が変わるのは、ちょっと変な気もします。実際、青森県の深浦町では、毎日の生活に欠かせない水道料金が高いことで、住民から「負担が重い」といった声が強まり、町長選挙で水道料金が大きな争点になったそうです。

奥田さんは「水道料金が低い地域でも値上げが相次いでいて底上げされている。また、低いまま料金を据え置く地域でも税金で補填(ほてん)されているケースも多く、住民の負担が増えていることに変わりがない。自分が暮らす地域の水道事業の維持管理が適切に行われているのか、それに見合った負担になっているのか、私たちも見極める視点をもつべきだ」と話しています。
政府もこうした状況に危機感を持ち、対策に乗り出しています。

対策の鍵は、水道事業の「広域化」と「民間委託」です。

「広域化」は、複数の自治体が連携して広域で水道事業を行うことで、規模のメリットをいかして経費を削減するのが狙いです。

例えば、渇水に悩まされてきた香川県では、平成20年から県と県内16のすべての市と町が広域連携に向けた協議を始め、6年間かけて運営を統合することで合意しました。浄水場などの統廃合で年間9億円の経費の削減を見込んでいます。

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<国の対策は先送り…>
一方、「民間委託」は、民間の効率的なノウハウの導入によるコスト削減が期待されるとしています。

浄水場の管理や水道料金の徴収などの一部の業務委託だけではなく、施設の所有権を自治体に残したまま運営権を売却する方法を検討する自治体も増えてきています。

ただ、生活に欠かせない「水」のインフラを民間企業に委ねることに反発も強いため、政府はことしの通常国会で、住民の不安を解消できるよう、市町村の責任を明確にすることなどを盛り込んだ「水道法の改正案」を提出しました。

suido170621.7.jpgしかし「共謀罪」の構成要件を改めた「テロ等準備罪」を新設する法律
や加計学園をめぐる一連の問題などで国会が大荒れとなる中「水道法の改正案」は継続審議となり、ひっそりと先送りされました。

水道事業について詳しい近畿大学の浦上拓也教授は、「日本の水道事業は世界的に見るとサービスは高水準である上、価格も安い状態だが、水道を利用するわれわれは、人口減少の中でコストがかさんでくるという現実に向き合う必要があるし、このまま何の対応もなければ、水道事業が立ちゆかなくなるというおそれがあることをまずは知ることから始めないといけないと思う」と話しています。

水は生活に欠かせないからこそ、できれば安く済ませたいのが本音だと思います。でも、将来、安定した供給がなくなったり汚い水が出てきたりしたら、それは本末転倒です。自分が暮らす地域の水道事業がどのような状況になっているのか。
関心を持って考える時期に来ているのではないでしょうか。

投稿者:牧本 真由美 | 投稿時間:14時36分

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