2020年03月10日 (火)更新されないアカウント...でも


※2019年11月29日にNHK News Up に掲載されました。

「ツイッターのアカウントが消えちゃう!?」
そんなツイートがネット上を駆け巡りました。ツイッター社が、長い間使われていないアカウントは順次、削除していくと明らかにしたのです。しかしこの方針は、あっという間に撤回されました。どうして?背景にあったのはたくさんの利用者の声でした。更新はされなくても、“そこに存在するだけでいい”。そんな大きな意味を持つアカウントがいくつもあったのです。

宇都宮放送局記者 田中絵里
ネットワーク報道部記者 和田麻子・野田綾・ 郡義之

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“休眠アカウント”削除の方針!?

ネットがざわついたのは11月27日。ツイッター社が6か月以上利用された痕跡がないアカウントを削除する方針を示したためでした。

対象はEU=ヨーロッパ連合の域内でしたが、「亡くなった人のアカウントを削除しないで」という声が相次いだのです。

アカウント放置のリスクとは

そもそも、なぜ休眠状態のアカウントの削除を打ち出したのか。

ツイッター社は「プライバシー保護ルールのため」といった説明しかしていませんが、休眠アカウントの放置には確かにさまざまなリスクがあるようです。

情報通信政策を所管する総務省に聞いてみると、最も懸念されるのは不正に入手した他者のIDやパスワードでさまざまなサイトにログインを試みるサイバー攻撃。管理されていないアカウントが不正に乗っ取られて、個人情報や過去にやり取りされた個人間のメールの内容が流出するおそれがあるといいます。

総務省によると、被害を防ぐ方法の1つが休眠アカウントの削除だということです。

koushinn.191129.2.jpg生きた証 消さないで

今回ツイッターが示した方針によって、たくさんの人たちが亡くなった人のアカウントを大切にしていることがわかってきました。

「アカウントをなくさないで」

亡くなったアーティストなどのファンからはこんなつぶやきが相次ぎました。

koushinn.191129.3.jpg「ヒトリエ」 左から2番目がwowakaさん

中でも多く名前が挙がった1人が、ことし春に亡くなった、バンド「ヒトリエ」のボーカル兼ギター、wowakaさんです。

歌声を人工的に合成するソフト「ボーカロイド」の曲を作っていたことで知られ、バンドを組んでからも若者を中心に人気を集めていました。

亡くなる数日前にツイートした「令和きれいだー。」は4万回以上リツイートされています。

koushinn.191129.4.jpgwowakaさんのツイート

男性のツイート
「結構本当に消えちゃうのは悲しい。定期的に覗いてる」

インターネットサイトの記事を引用してつぶやいた宮崎市の18歳の男性に話を聞きました。

中学生のころからwowakaさんの曲を聴いていたという男性。少しもの悲しいけれど、人間関係などに悩んだときに寄り添ってくれるような歌詞にひかれ、今でも月に1回はwowakaさんのアカウントを見に行くといいます。

男性
「曲を聴いてふと思い出して、つぶやかれたことをさかのぼって見ています。wowakaさんが生きていたんだという証を確認できる場所だから」

母の息遣いを感じる

亡くなった家族のアカウントを消さないでほしいという人もいます。

ツイッターの方針を知り、削除をおそれて亡くなった母親のアカウントを撮影した女性のツイートです。

女性のツイート
「慌てて母のアカウントをスクショ。結局1tweetだけだけれども生きていた証。4年後、75歳で急死。健康体のまま旅立ち、本人の希望どおり介護なしでした」

投稿した埼玉県の52歳の女性に話を聞かせてもらいました。

母親が亡くなったのは5年前。埼玉県の自宅で介護が必要な父親を支えながら、それまで元気に暮らしていた母親がある日、入浴中にぐったりしているのを父親が発見。その後、死亡しました。家族にとってはあまりにも急だった死。今でも心残りだといいます。

女性
「ショックでした。母親の日記には、まだまだやりたいことがたくさん書いてありました。本人もそんなつもりは全くなかったと思います。家族は二度と会えなくなるという心構えさえできておらず、最後のことばもかけてあげられなかった」

そんな家族にとって、母親のアカウントはかけがえのない存在だといいます。

アカウントを作ったのは9年前。女性が夫と長男と一緒に実家を訪れた時、母親にツイッターを勧めました。その場で一緒にアカウントを作り、記念に初めて投稿したツイートです。

koushinn.191129.5.jpg母親のツイート
「きょうは日曜日。次女の家族が遊びに来てツイッターを勧められ、始めることになりました。生涯元気で『ピンピン・スタスタ・介護なし』でいたい71歳の私です」

koushinn.191129.6.jpg女性
「アカウントの文章は家族には大事な思い出で、このまま残してほしいです。短い文章ですが、母親が生きていた時の息遣いを感じることができるんです。これを見るたびに懐かしいと思います。母親が投稿した時の時間が戻ってくるんです」

ツイッター 方針を転換

こうした多くの声があがる中、ツイッタージャパンは28日、公式アカウントを更新。

「亡くなった利用者のアカウントをめぐる多くの意見が寄せられた」としたうえで、当初の判断を「ミス」だとつぶやきました。

そして「亡くなった利用者のアカウントを保存する新しい手段を準備するまで削除は行わない」と当初の方針を転換したことを明らかにしたのです。利用者の声を受けて方針を見直したとみられます。

ツイッタージャパンは「今後の方針についてはそのつどお知らせいたします」としています。

フェイスブックでは
亡くなった人たちが使っていたSNSのアカウント。ツイッターのほかではどうなっているのでしょうか。

フェイスブックを調べてみると、アカウントの所有者が死亡したことがわかれば自動的に「追悼アカウント」に移行する仕組みになっているようです。

「追悼アカウント」では所有者が残した写真や投稿をそのまま見ることができるほか、友だちはタイムラインで思い出をシェアすることもできるということです。

また死亡する前に「追悼アカウントの管理人」を設定している場合は管理人がプロフィールやカバーの写真も変更できますが、所有者のプライバシーを守るためアカウントへのログインは管理人も含め誰もできないとしています。

一方、死亡時に所有者がアカウントを完全に削除したい場合は生前に設定の画面の中から「追悼アカウント」に進み、最後に「死後に削除」をクリックすれば設定できるということです。

koushinn.191129.7.jpg更新されなくても
「亡くなった大切な人と、いまもつながっていたい」

その気持ちはいつの時代も変わりません。何気ないつぶやきを、写真を、ふと振り返って思いをはせることができる。亡くなった人のアカウントを見に行くのは「墓参りと同じ」。そんな言い方をしていた人もいました。

常に更新され続けるだけがSNSの役割じゃない。

そのことに気付かされた出来事でした。

投稿者:和田麻子 | 投稿時間:11時12分

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