2018年01月22日 (月)#MeToo 声を上げた その先に


※2017年12月28日にNHK News Up に掲載されました。

クリスマスのイルミネーションに彩られた12月の新宿。待ち合わせのカフェに来てくれたのは背の高い20歳の女性でした。#MeTooをつけて高校時代のセクハラ被害をツイッターで訴えた女性。「大きな波に乗って私の声が遠くに運ばれていった」。勇気を出して訴えたあとに起こったできごとをそう話してくれました。その声がどこにどう届いたのか、たどりました。

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<震えながらつぶやいた>
met171228.2.jpgそれは高校生の時でした。展覧会の写真モデルに応募した女性をある演出家がカラオケに誘ったのです。店内で肩に手を回され「1人でするのを手伝ってくれたら仕事を紹介してあげる」そう話してきたと言います。

求めには応じませんでしたが、ショックで言葉を失い、逃げ出すことができませんでした。こんな大人が本当にいるんだ、そう思いました。

自宅の最寄りの駅にたどり着いたとたん、ホームに座り込み2時間泣き続けました。舞台女優を目指していた女性。プロデューサーという肩書の大人に嫌われたくなくて、ついて行ってしまった自分のことも責めました。

その時に感じた悔しさは種火のようになり、心から消えることはありませんでした。

3年近くくすぶっていた思いが燃えはじめたのは日本でも急激に広がり始めた#MeTooの声。背中を押されるように、当時、自分の身に起こったことを相手の実名をあげて投稿しました。

met171228.3.jpg「泣きながらつぶやいている。手が震える。忘れない、忘れるわけない」そう書き込みました。


<わずか数日で>
事態は動き出します。投稿から7時間後、「同じ演出家から被害にあった」という投稿が届きます。関西地方や九州地方などいずれも会ったこともない女性たちでした。

翌日には演出家が自身のホームページで「告発には心当たりがあります」と認め、謝罪文を載せます。

それから2日後。今度は演出家とイベントの契約を結んでいた自治体が、契約の解除を発表。さらに劇団の名前をセクハラに利用されたとして、著名な劇作家が演出家に対する強い非難を表明します。

「セクハラだけでなく、人権を抑圧するような行為によって成り立つ芸術は、もはや許されない」(劇作家)

女性はいま、代理人を通じて演出家と話し合いの場を設ける準備をしています。信頼する舞台関係者が間に立ち、交渉を申し出てくれたのです。

悔しさを抱えながら3年近く心のうちにしまってきた思い。それが投稿をきっかけにわずか数日で相手側が謝罪を表明し、社会的な立場まで大きく変わりました。

「私が声を上げたことで、沈黙してきた女性たちがさらに声を上げてくれた。会ったこともない全国の人たちとつながった。#MeTooの大きな波に乗って遠いところまで私の声が運ばれていった」。女性はそう話していました。


<100件→5万件に急増>
声をあげる勢いは広がり続けています。「#MeToo」というハッシュタグをつけて日本語で発信されたツイートやリツイートの数を、分析ツールを使ってNHKが集計したところ、ことしの10月から12月初旬までは1日に100件から多くて5000件ほどでした。

それが、著名なブロガーの女性のセクハラ被害の記事がネットメディアに掲載された17日には、5万3000件余りに急増。その後も、セクハラ被害を巡る意見や新たな情報が投稿されるたびに拡散する状況が続いています。

met171228.4.jpg「同僚から無理やりキスをされた」という会社員。

「小学生のとき、男性教師のひざの上に乗せてだっこされた」という女性。

「利用者から胸をもまれた」という介護士。

さまざまな立場の人が自分が経験したというセクハラ被害を訴える状況が続いています。


<実名告発にはリスクも>

met171228.5.jpgインターネットのトラブルに詳しい清水陽平弁護士は「#MeToo」の広がりについて次のように話しています。

「セクハラはどこからどこまでという明確な線引きがない。それが#MeTooで被害を訴えることで『これもセクハラだ』という意識が社会に広がっていて、被害を減らすことにつながっていくかもしれない」

ただ、加害者の名前をあげると名誉毀損になる場合があると指摘しています。「もし相手から逆に訴えられた場合、真実であると立証する責任は告発側にある。もし実名を出すのであれば、被害にあった時の録音やメールの記録など、証拠がある事実にするなど注意が必要です」


<#MeTooの可能性>
投稿を受けて謝罪したり、役職を辞任したりするケースが出てくるなど、予想を超えた動きを見せる#MeToo。一度、経験した屈辱は年月が経っても決して消えず心の中に強く残っていて、被害者の中には「これ以上被害者を出したくない」と声を上げた人たちもいました。

met171228.6.jpgしかし、意を決して投稿しても「女を売りにしているくせに」とか「ささいなことで騒ぐな」というひぼう中傷は必ずあります。それが特定の個人に向けたものであっても、言葉の矢は被害にあったすべての人に向けられているように感じる、冒頭の女性はそのように話していました。

#MeTooの流れに便乗したうその投稿など、気をつけなければならないこともたくさんあります。ただ、長い間沈黙していた小さな声が人から人へと伝わり、大きなうねりとなって世界を変える可能性も感じるのです。


<そして、声をあげられない人たちへ>

met171228.7.jpg『でも自分は声をあげられない』それは弱いわけでも間違っているわけでもなくて、今の日本の社会ではまだその行動は勇気のいることなんだと思います。そんな社会を小さな声が集まって少しずつ変えていく、そういう可能性を信じたいと思います。

被害にあうのは女性だけではなく誰もが当事者になりえます。「#MeToo」があらゆるハラスメントをなくす動きにつながるように、勇気を出して投稿した人たちの声がかき消されないように、私たちも取材を続けていきます。

投稿者:らいふちゃん | 投稿時間:14時24分

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