2019年09月19日 (木)その防水スプレー、ちょっと待って!


※2019年6月20日にNHK News Up に掲載されました。

翌日の山登りを楽しみにしていた男性は、風呂場で倒れて亡くなっていたそうです。原因が梅雨の今、利用することも多い防水スプレーだったとしたら。正しい使い方、知ってください。

ネットワーク報道部記者 伊賀亮人・ 木下隆児

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ある医師の呼びかけ
梅雨まっただ中の今、ある医師のツイートが話題を呼んでいます。

sono19620.2.jpg投稿したのは外科と救急が専門の千葉県の医師の男性です。クライミングが趣味で、登山の際に役立つ医療情報などをツイートしていて、その一つとして過去に同僚の医師が担当した患者を思い出したことが投稿のきっかけだそうです。
「数年前、登山に行く前日に自宅の浴室でカッパや登山用品に防水スプレーをかけていた男性が、密閉された空間で防水スプレーを吸ってしまい亡くなってしまったのです。念入りにかけようと思ったのかスプレー1本分を使ってしまっていたそうです。登山に行く人や梅雨に使う人で体調を崩す人もよく聞きますし、危険性を知らない人も多いので気をつけてほしいと思いツイートしました」
ツイッターでは驚きの声も広がっています。

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私死ぬの?ある女性の経験
さらに、こんなツイートもありました。

sono19620.4.jpg実際に防水スプレーを吸い込んで「あわや」という思いをした20代の女性です。
「あの時は『私死ぬの?』と思いました。他の人には同じ経験をしてほしくないと思い注意喚起のツイートをしました」
それは、女性が就職した直後の5年前の6月。初任給も入り会社員として必要なものをそろえようと、デパートでパンプス4足をまとめて買いました。

sono19620.5.jpg大切に使おうと履く前に防水スプレーを吹きつけることにしました。廊下のドアを閉め、マンションの玄関で防水スプレーを、1本分を使い切るくらいかけました。

1時間ほどすると異変が現れました。乾いたせきが出始め、どんどん悪化していき呼吸が困難になっていったそうです。
「症状からネットで調べたところ防水スプレーが原因ではないかと思い病院に行きました。検査を受けて安静にするよう伝えられましたが、39度くらいの熱が出て2日間ずっとむせるような状態が続き本当につらかったです」

原因は有害な樹脂

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防水スプレーを吸い込むとなぜ危険なのでしょうか。

防水スプレーはフッ素樹脂やシリコン樹脂などのはっ水性の樹脂を細かい粒子にして吹きつけることで、水をはじくようにするものです。
化学物質による急性中毒について啓発活動を行う「日本中毒情報センター」によると、防水スプレーにこの樹脂が含まれていると、肺に付着して酸素をうまく取り入れられなくなると考えられているということです。最悪の場合、呼吸困難になって死に至ることがあるというのです。

事故は増加傾向
センターには、「防水スプレーを吸い込んでしまった」という相談が寄せられます。この件数をグラフにまとめると、1993年に最も多くなっていることがわかります。

sono19620.7.jpg当時のスキーブームに伴ってスプレーを室内で使用して吸い込んでしまう事故が相次いだためだということです。その後、使用方法についての注意が広まったことなどから2001年には6件にまで減少しました。

しかし、このところは増加傾向で、2015年には68件にまで増えています。以前はスキーシーズンに集中していた事故が、最近では6、7月などに多く発生しているということです。

服だけでなく、革製品用まで用途が増えた防水スプレーを、梅雨時期に使う機会が多くなっていることが増加理由の一つだとしています。

防水スプレーでインコが即死!?
防水スプレーについてツイッター上では、動物好きの人たちからの投稿も目立ちます。

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防水スプレーがペットに与える影響についてホームページ上で説明している愛知県の動物病院に聞いてみました。

sono19620.9.jpg動物病院 渡邉将道院長
「室内で防水スプレーを使うのはもちろんダメですが、噴射したスプレーは床の辺りにたまり濃度も高くなるので、犬のように私たちよりも目線が低いところで暮らしている動物たちは吸い込んでしまいます。また、動物は人間よりも体が小さく、肺も小さいですから、吸い込んだ物質が少なくても大きな影響が出ます。例えば家の中につるした鳥かごでインコを飼っているから、スプレーを下に向けて噴射したとしても、床から跳ね返った分で生命に危険を及ぼす可能性があるんです。いちばんの予防法は、防水スプレーを外で使うことなんです」

メーカーに聞いてみた
こうした危険性についてメーカーはどう対応しているのか?大手メーカーに聞いてみました。担当者が強調するのはやはり使い方です。
「防水スプレーの主要成分はフッ素などの樹脂です。吸い込むと大変危険なので、必ず屋外で使ってください。商品にも注意喚起を明記しています」

sono19620.10.jpgそのうえで製品にもいろいろ工夫していると説明します。

まず、スプレーに含まれる樹脂は粒子状になっていますが、小さいと空気中に舞ってしまい肺に入るリスクが高まることから、粒子を大きくすることで、舞いにくくしているそうです。

さらに、噴射された粒子が吹きかける物にどれだけ付着するかを表す「付着率」という割合を、厚生労働省が定める60%という基準よりも高くしているということです。
また、防水スプレーを吹きつけると水でぬれたようになる経験はありませんか?これはすぐに乾いてしまうと、それだけ粒子が舞って吸い込むリスクが高まるため、あえて乾きにくくなるように調整しているとのことでした。

改めて正しい使い方を

使い方によっては便利な防水スプレー。その正しい使い方を最後にもう一度。ぜひ、守ってください。
▽必ず屋外で使うこと
▽屋外でも使う人が風下に立たないこと
▽近くに他の人や動物がいないか確認すること

投稿者:伊賀亮人 | 投稿時間:16時55分

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