2019年09月12日 (木)なんで「ガイジン」に生まれたんだろう...
※2019年6月14日にNHK News Up に掲載されました。
学校では友達もできず、どこにいても、何をしていても、同級生から「変な目で見られている」気がしました。
進学の際は学校から十分なサポートを受けられず、希望する学校を目指すことさえできなかったといいます。
彼がその理由として思い当たるとすれば、自分がフィリピンから来た「ガイジン」だったということ。外国にルーツを持つ子どもたちの多くが、こうした経験をしているといいます。
ネットワーク報道部記者 木下隆児
半年間、ただ座っていた
幼少時のアラン・エリエルさん
神奈川県に住むアラン・エリエルさん(23)は、フィリピンで生まれたフィリピン人です。
日本で永住権を取得した父親と暮らすため、10歳の時に母親と弟と一緒に来日しました。
転入した神奈川県の公立小学校に外国人はアランさん1人。
日本語が全くわからない中、毎日、日本人と同じ授業を受けました。
でも、日本語の個別指導の支援は、半年の間受けることができず、何一つわからないまま教室でただ座っている日々でした。
どこにいても「変な目で見られている」
学校では友達もできず、どこにいても、何をしていても、同級生から「変な目で見られている」気がしました。
例えば、フィリピンの学校では靴のまま教室に入るので、「上履き」というものを知らず、靴下のまま授業を受けていると周りからじろじろ見られました。
アランさんにとって、そういう視線が怖かったといいます。
転入から半年がたち、アランさんは、ようやく学校で個別指導を受けられるようになり、放課後には日本語教室に通って、必死に日本語を覚えようとしました。
それでも学校で同級生が自分に対して言っていることばがわからない時は、その発音を耳で覚えて先生に意味を聞きに行きました。
ただ、そこで言われていたことばは「デブ」「くさい」「ウザい」といった悪口ばかりでした。
何度も死のうと思うように
ルーツが違うことによるいじめは、高校のはじめくらいまで続きました。
小学校では悪口を言われ続け、中学校では毎日じろじろ見られては、くすくす笑われました。ある時は筆箱がなくなっていました。
それでもアランさんが刃向かってけんかになると、決まって彼らは「ガイジン、国へ帰れ」と言ってきました。
そんな日々が続くうちに、死ぬことばかりを考えるようになっていました。
アランさんは、駅から走る電車に飛び込もうと思ったことがあります。
住んでいたマンションの6階から飛び降りようと考えたこともあります。
リストカットをしたり、こっそり部屋に持ち込んだナイフを枕元で眺め続けたりしたこともあります。
自分はゴミ箱に捨てられたんだ
でも、いちばんショックだったのは、進学先の高校を先生と相談した時に言われたことばでした。
確かに自分は、日本語の理解も進んでいないし、学校の成績もよくない。
それでも、建築関係の高校に進学したいと考えていたので、先生からアドバイスをもらえると思って、思い切って先生に行きたい高校の名前を伝えてみました。
「その学校はガイジンじゃ無理だよ」
「日本語しゃべれないと無理だろ」
「漢字ができないとな」
先生の口からは、そんなことばが次々に出てきました。
続けて先生はアランさんに「この学校は外国人多いから、ここに行きなよ。簡単だから行けるよ」と別の学校を薦めてきました。
「自分はゴミ箱に捨てられたんだ」
アランさんはそう受け止めました。
ルーツが違うということで受けるいじめ、そして進学の壁。
アランさんは、「なんで『ガイジン』に生まれたんだろう」と、みずからのルーツに疑問を持つようになりました。
フィリピン人だからできることがある
アランさんと家族
高校進学の件でショックを受けていた時、アランさんは両親に「やっぱりフィリピン人だから無理なんだよ」と愚痴りました。
そんなアランさんに両親は言いました。
「『フィリピン人だから無理』なんじゃなくて、『フィリピン人だから』できることがきっとある。せっかく日本に住んでいるんだから、外国人にしかできないこと、日本人にしかできないこと、両方やってみたらいいんじゃない?」
両親のこのことばをきっかけに、アランさんの中で何かが変わりました。
目立つなら、いいほうに目立つ
進学した高校は望んだ学校ではありませんでしたが、アランさんは、まず「日本語ができず英語しかできない自分」という考えを改め、「英語ができるのは自分だけ」と考えるようにしました。
次に自分ができるものを伸ばすため、部活は、ダンス部、軽音楽部、美術部、写真部、興味あるものは全部入りました。
ダンスを披露するアランさん(左から2番目)
見た目が違ってどうせ目立つなら、いいほうに目立とう。
そう考えて行動すると、自然と友達も増え、家族や目の前の友達、自分を受け入れてくれた人たちがいてくれれば、それでいいと思えるようになりました。
ルーツに関する悪口を言われても、どうでもよくなりました。
1人で死んでほしくない
アランさんは、外国にルーツを持つ友人からいじめの相談を受けることが多いといいます。
その中に、日本人とフィリピン人の両親を持つ女性がいました。アランさんが高校2年生のころ相談を受けていました。
いじめを受けて友達がいないと漏らしていました。
その後、彼女はフィリピンに帰って連絡が途絶えていましたが、数か月後、友人から彼女が死んだと知らされました。
自殺でした。
いじめが自殺の一因かもしれない。
その思いが胸に引っかかり続けてきたアランさんは、今、友人と一緒にいじめを防ぐための映像作品を作り始めています。
アランさんが作った映像作品のワンシーン
いじめは単なる悪口ではなく「お前は価値がない」と言っているのと同じ。
その傷痕は消えることはないけれど、傷が癒えるまで守ってあげたい。決して1人で死んでほしくない。
作品には、そうした思いを込めています。
日本に住み続けたい
自殺を考えるほどまでアランさんを追い込んだいじめ。
それでもアランさんは、いまは自分をいじめた同級生に感謝しているといいます。
いじめを受けなければ、日本人との「違い」をプラスに考えて一生懸命生きようと思うことはなかった、そう感じています。
アランさんは、専門学校を卒業するまでの4年間、外国にルーツを持つ子どもたち向けの日本語教室も併設する英会話教室で子どもたちに日本語や英語を教えてきました。
それができたのも、自分の経験を彼ら彼女たちに伝えたいと思ったからです。
最後にアランさんに、将来は日本とフィリピンのどちらで暮らしたいか聞いてみました。
「自分のアイデンティティーはフィリピン人です。でも日本のことが大好きだし、この先も日本で住み続けたいと思っています。そう思えるのは、自分の中には、日本人としてのアイデンティティーもあるからです」
私たちは、外国にもルーツを持つ子どもたちをめぐる「いじめ」を継続的に取材をしています。実際の体験談やご意見を以下の特設サイトで募集しています。
「外国人“依存”ニッポン」
https://www.nhk.or.jp/d-navi/izon/form.html
投稿者:木下隆児 | 投稿時間:14時44分