2019年02月26日 (火)「今年限りで失礼します」


※2018年12月25日にNHK News Up に掲載されました。

「旧年中はお世話になり、ありがとうございました。本年をもって、年始のごあいさつを控えさせていただくことにしました」

間近に迫ったお正月、このような年賀状が届くかもしれません。
長年続けてきた年始のあいさつをやめる「年賀状じまい」をする人たちが増えているというのです。

ネットワーク報道部記者 大石理恵・鮎合真介・國仲真一郎

181225kot.1.jpg

<平成最後? 終活? 理由はさまざま>

181225kot.2.jpgこの時期、インターネットには、ことしで「年賀状じまい」を決めたという人たちの声が多く見られます。

決断のきっかけとなったのは人それぞれのようで、SNSが広がって不要になったという人や、「平成の最後」に合わせてやめようという人が見られました。

また、「70近くになり貴重な人生の時間を考えたとき、モノやコトを省き、スッキリと暮らすことに思いが至りました」という声も。理由に「終活」をあげる人も見られました。

一方で、「時代かな。でも年に1回ぐらい1人1人を思い、メッセージを書くことがあっても良いなと思う」という書き込みもありました。


<終活で注文が5倍に>
そもそも年賀状を出さない若者層の増加に加えて、目立つようになっている「年賀状じまい」。特に、高齢者の間で広がっているとみられています。

181225kot.3.jpgネット通販で年賀状の作成サービスを行う都内の業者は、「年賀状じまい」の文例を求める声が数年前から寄せられ、この冬、ホームページ上に「終活年賀状」として掲載したところ、予想を上回る注文が殺到。

やり取りの終了を告げる文例の注文は去年の5倍に上っているそうです。

主な顧客の年齢層は60代から80代で、平成最後を節目に、人生の終わりに向かう準備の一環として年賀状を見直す人が多いといいます。


<絶縁状ではありません>

181225kot.4.jpg人気がある文例の1つを紹介してもらいました。

「毎年の年賀状ですが
 今年限りで失礼させていただきたいと思います
 勝手ではございますが
 今後も変わらぬお付き合いのほどお願い申し上げます」

書き方のポイントについて、アルファプリントサービスの宮下努社長は次のように話しています。

「『年賀状辞めます』だけでは絶縁状のようにとらえられるおそれもあり、それが心配だという人は『今後もお付き合いを』という文言を盛り込むことがひとつのポイントです」

それでも、新年に年賀状の終わりを告げられるのは、さみしくとも感じるものではないでしょうか。

宮下社長に聞くと、「たしかに、受け取った人の中には『これまで楽しみにしていたのに』と残念に感じる人もいるかもしれませんが、何の連絡もなく、やり取りが自然消滅するより、きっちりしていていいのではないでしょうか」と話していました。


<出したくても出せない場合も>
一方で、「年賀状じまい」をする高齢者の中には出したくても出せない場合もあるといいます。
「終活カウンセラー」として多くの相談を受ける武藤頼胡さんは次のように話します。

181225kot.5.jpg終活カウンセラー協会代表理事 武藤頼胡さん

「体力的な衰えなどから年賀状を出すことを諦めざるをえないケースもあります。人間関係を整理するためではなく、申し訳ないと思いながら長年続けてきた慣習をやめる人も多いと思います」

そのような高齢者が最後の年賀状を出す際には、体調面など年賀状を送り続けられなくなった事情や、ほかの人も含めてあいさつを見合わせるようになったと記すことが大切だと話します。

「年賀状を受け取った人が『自分のことがいやになって送るのをやめたのだ』などと誤って受け止めてしまうと、関係がすべて切れてしまうおそれがあり、高齢者の孤立につながりかねません。年賀状が大変でやめなければいけないという場合は、電話をかけてみるなど、代わりに何かつながりを保ち続けられるような手段を探してみてはいかがでしょうか」(武藤さん)


<古い歴史>
この時期、話題の年賀状。日本での歩みを調べました。

郵政博物館などによると、平安時代にはすでに例文があったということです。

書き残していたのは当時の貴族で漢文学の大家である藤原明衡。彼がまとめた手紙の文例集の中に年始のあいさつを含む文例がいくつか残っていて、少なくとも平安時代の貴族の中では手紙で年始のあいさつをしていたと考えられています。


<明治から定着・急増>
時代が下り、江戸時代になると、飛脚制度が充実し、庶民の間で年賀のための手紙のやり取りが徐々に広まっていきますが、年賀状の習慣が定着したのは明治以降と言われています。

郵便制度が確立し、郵便はがきも発行されて、年賀状の取り扱いは急増しました。

元日の消印(けしいん)をねらって年末に投函(とうかん)する人が増え、郵便局では押印係が不眠不休で消印の作業に追われ、手がマメで腫れ上がるほどだったそうです。

このため、明治32年には一部の郵便局でより早く年賀状を受け付けて元日に配達する制度が導入され、これが現在も行われている年賀状の特別な取り扱いの起源となりました。

戦後にはお年玉くじ付きの年賀はがきが発行されるなどして、年賀状は広く普及しました。


<減り続ける年賀状>

181225kot.6.jpg年賀はがきの発行枚数
日本郵便によりますと、記録が残る昭和24年度以降では、平成15年度が44億5936万枚に上り、発行枚数は最多になりました。

しかし、インターネットやSNSの普及の影響などで、その後は減少傾向が続き、昨年度は29億6527万枚とピーク時の3分の2ほどに。

ことしの発行枚数はまだ確定していませんが、追加印刷分を除いた枚数では去年をさらに1億8000万枚ほど下回っています。

時代の変化を映し続けてきた年賀状。新年のあいさつやそこから生まれるコミュニケーションとあなたは、どう向き合いますか。

投稿者:大石理恵 | 投稿時間:14時32分

ページの一番上へ▲