2019年01月22日 (火)愛すべき異形の神々


※2018年11月30日にNHK News Up に掲載されました。

「神様たちはこんなに個性的だったのか」「歴史ある・ゆるキャラ」
仮面や仮装の者が来訪神として家々を訪れ、怠け者を戒めたり無病息災を願ったりする伝統行事がユネスコの無形文化遺産へ登録されることが決まったことを受けネット上に寄せられた声です。ナマハゲだけにとどまらない異形の神々の魅力から、現代のスマホに降臨する“着神”までを取材しました。

ネットワーク報道部記者 吉永なつみ・玉木香代子・田辺幹夫

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<絶叫必至!パーントゥ>

ais181130.2.jpg今回、登録が決まったのは日本各地に伝わる10の伝統行事。そこに登場する神様たちはいずれ劣らぬ個性の持ち主です。

強烈なのは、つる草を巻き付け黒い泥を塗りつけた体に不気味な仮面のあやし~い神。海のかなたからやってきた沖縄県は宮古島「パーントゥ」、「お化け」や「鬼神」を意味するそうです。集落を歩き回り、出会った人には泥をつけて“ごあいさつ”。小さな子どもはあっけなく絶叫ですが、地域の災厄をはらうと同時に幸いをもたらす神様です。


<名前からして強烈「悪石島のボゼ」>

ais181130.3.jpg呼び太鼓に導かれ盆踊り会場に現れるのは、鹿児島県十島村の邪気払いの神様「悪石島のボゼ」。
赤土と墨を塗りつけた仮面にヤシ科の植物の葉を巻き付けたワイルドな容姿に思わず「あなたの出身は、南の島ですか?」と尋ねたくなります。
この神様もパーントゥと同じく泥をすりつけようとします。この泥には悪魔ばらいの御利益があり、特に女性は子宝に恵まれるそう。


<「トシドン」と「メンドン」>

ais181130.4.jpg(左)「トシドン」 (右)「メンドン」
来訪神の宝庫・鹿児島県には名前の最後に鹿児島らしい「どん」がつく神様もいます。「甑島のトシドン」と「薩摩硫黄島のメンドン」です。こちらもやや南方系な容姿でトシドンはよい子で過ごすことを約束すると大きなお餅をくれるそうです。


<見島のカセドリ 米川の水かぶり>

ais181130.5.jpg(左)カセドリ (右)水かぶり
「見島のカセドリ」は、旧暦の小正月に佐賀市に現れる神様で、全身にみのをまとったその姿は沖縄や鹿児島の神様と比べるとぐっと和風な感じ。下半分が縦に細かく裂かれた青竹をもち「ガシャガシャ」と音をたてながら家々に上がり込んで悪霊をはらい酒や茶をふるまうと去って行くらしいです。

同じようにみのをまとった神様が家々に水をかけながら社寺を参拝する宮城県登米市の伝統行事「米川の水かぶり」。火災よけの御利益があるそうです。


<いろりで怠けてないか!?冬の神様たち>

ais181130.6.jpgアマメハギ(左上)/アマハゲ (右上)/スネカ(左下)/ナマハゲ(右下)
石川県、山形県、岩手県、秋田県と冬の寒さが厳しい土地に現れる神様たちには共通点があります。

いろりなどで長く暖をとっていると手や足にできてしまう「火だこ」は、「手伝わない、働かない」怠惰の象徴で、これを剥ぎ取るのが「能登のアマメハギ(石川県)」「遊佐の小正月行事(アマハゲ・山形県)」「吉浜のスネカ(岩手県)」「男鹿のナマハゲ(秋田県)」なんだそうです。


<今後は伝承が課題>
こうした伝統行事が世界に知られるきっかけとなる今回の登録決定は喜ばしいことですが、課題もあります。次世代への継承です。

ais181130.7.jpg武蔵大 福原敏男教授
来訪神について研究している、武蔵大学の福原敏男教授は「今回、登録された来訪神以外にも、かつて日本にはそれぞれの家庭ごとに来訪神がありました。それが高度経済成長で地域社会や家族の形が変わり、伝承していくことが難しくなって、どんどん消えていったと考えています。いま、こうして残っている伝統行事は、いわば『奇跡的』だ」と指摘しています。

ais181130.8.jpg男鹿市 菅原広二市長
また、無形文化遺産への登録を目指してきた関係者で作る「来訪神行事保存・振興全国協議会」の会長を務める、秋田県男鹿市の菅原広二市長は、30日に開いた記者会見で「それぞれの地域は人口減少など多くの問題を抱えているが、『小さくてもきらりと光るもの』がある。心に残る文化として、文化を育んだ原風景とともに後世に伝えていきたい」と述べていました。


<スマホに“着神”?>
日本の各地に残る来訪神。今、ちょっと変わった形で私たちのもとを訪れています。その神様はスマホに“着神”するのです。

実はこれ、子どものしつけに悩む親に向け開発されたスマホのアプリ「鬼から電話」です。
子どもが「朝起きない時」「約束を守らない時」「お風呂に入ろうとしない時」などに「鬼から電話がくるよ」といってアプリを操作すると、画面が鬼から電話がかかってきたような表示になり、電話に出ると子どもたちを叱ったり諭したりするのです。

ais181130.9.jpg電話をかけてくるキャラクターは、鬼以外にも妖怪や魔女など全部で50種類。「言うことを聞かないとき」にはナマハゲも「着神」します。着信音が鳴り、「ウォー」という叫び声とともに画面に現れたナマハゲは言います。

「悪い子はいないか。言うこと聞かない子は誰だ。親のことを困らせすぎるとダメだぞ。ナマハゲさんはいつも見てるからな。お利口さんにしていないとダメだぞ」

最近では叱るだけではなく、褒める妖精キャラクターや着替えなどを競争して促す友達キャラクターも登場しています。


<開発のきっかけは実体験>
このアプリを開発した「メディアアクティブ」の社長、佐々木孝樹さんに話を聞きました。実は佐々木さん、生まれも育ちも秋田県。地域の祭りや学校行事には毎回のようにナマハゲが登場していたということで、子どもの頃から本物の迫力をよく知っていました。

ais181130.10.jpgメディアアクティブ 佐々木孝樹社長
それだけに、佐々木さんが悪いことをしたとき、親が電話の受話器をとって「今からナマハゲを呼ぶよ」と言うと、震え上がって反省したといいます。こうした体験がもとになってアプリを開発したそうです。


<ナマハゲが教えてくれたこと>
そこで気になっていた質問をぶつけてみました。
「ナマハゲが怖くてトラウマになりませんでしたか?」
すると佐々木さんは、「ナマハゲは、人として守るべきことをメリハリをつけて教えてくれた存在です」と答えました。
親たちは、単に脅しているわけではないことを子どもなりに理解していたというのです。

両親が共働きだったため、祖父母と過ごす時間が長かった佐々木さん。小学生になると口が達者になり、あるとき、かわいがってくれる祖父を「くそじじい」と呼んだり、祖母が作ってくれた煮物に「こんなの食えねぇ」などと文句を言いました。こうした暴言を吐いた時がナマハゲの出番でした。

「暴力と同様、ことばで人を傷つけるのは人として絶対にしてはいけないこと。両親は、ナマハゲの力を借りて相手を思いやることの大切さを私に教えてくれたのだと思う」

その佐々木さん、今回の無形文化遺産への登録決定を「すごくうれしい」と喜んでいました。地域の子どもたちを時に厳しく時に温かく見守る文化が広く認められたからです。日本の各地に伝わる来訪神、その精神はデジタル時代の今も私たちの社会に根づいているようです。

投稿者:吉永なつみ | 投稿時間:13時44分

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