2018年05月30日 (水)その自動車税、正しいの?
※2018年5月10日にNHK News Up に掲載されました。
ことしも届きましたか? マイカーをお持ちの方に、この時期届く憂うつな文書。そう、都道府県に納める自動車税の“納税通知書”です。義務とはわかっていても、家計にとっては頭の痛い出費。そんな税金を、もし「払いすぎ」ていたとしたら…。ことし全国各地で、自動車税を誤って多く課税するという事態が相次いでいます。中には3万円余り多く課税されたケースも! どうなってるの? ニッポンの“お役所仕事”。
ネットワーク報道部記者 飯田暁子
<課税ミスがあちこちで…>わが家に送られてきた自動車税の納税通知書。3年前に購入したスバルのSUVで、税額は4万5000円(トホホ…)。毎年、この時期にポストで発見すると「懐が寒いなあ」としみじみ思います。
自動車税は、4月1日の時点で乗用車などを所有している人に課せられる都道府県税です。例えば排気量2000ccクラスの自家用乗用車だと、年間で3万9500円が徴収されます。
環境対策の観点から、電気自動車や燃料自動車などや、一定の排出ガス基準と燃費基準を満たす車は、1年間に限り、おおむね75%か50%軽減されるグリーン化税制も設けられています。
自動車税は5月31日までが納付期限となっています。ところがことし、自動車税をめぐって各地で腹立たしい事態が相次いでいることがわかりました。今月9日、宮崎県庁で急きょ開かれた記者会見。税務課長が「納税者の皆様にご迷惑をおかけして申し訳ございません」と頭を下げました。
今年度に課税する自動車税のうちハイブリッド車など減税の対象となる90台分について、誤って減税分を差し引かずに納税通知書を送っていたのです。宮崎県が課税ミスの事例として示した対象車
県によりますと、課税ミスがあったのは、去年4月から9月に宮崎県内で新たに登録されたハイブリッド車などのうち、助手席を回転シートにするなど、車いす仕様やバリアフリー対応などに改造された車。
過大に通知された税額は、1台当たり最大で2万9500円! 過大分を合わせると224万1500円に上ります。
ところが、自動車税の課税ミスは宮崎県だけではありませんでした。5月2日には京都府と奈良県で、7日には岡山県と大分県で、8日には宮城県と静岡県、石川県で、9日には兵庫県でも自動車税を誤って多く課税していたと発表しました。
わかっているだけでも、過大に課税した自動車の台数はおよそ2000台。金額にして4500万円以上に上っています。さっそくネット上では「こんな真似されると払う気が失せる」とか「振り込み詐欺グループに対して格好のお題目を提供したな」などという声が…。どうなってるの?ニッポンの行政機関!
<共通する原因とは?>
なぜ、各地で自動車税の課税ミスが相次いでいるのか? それぞれの自治体に取材してみると、原因はほぼ共通していました。自動車税は、総務省の外郭団体である「地方公共団体情報システム機構」から送られる車検証情報などのデータを、それぞれの自治体が税のシステムに取り込んで処理をしています。
地方公共団体情報システム機構ではこれまで、新車として登録された自動車のうち、車いす仕様やバリアフリー対応などに改造された自動車については、減税の対象とされる車種でも自治体による判断が必要だとして、データには減税の対象になることを表示していませんでした。
しかし自治体からの要望を受けて、去年10月からは、減税の対象となる車種であればデータに反映されるようにシステムを変更したということです。
ただ、システムが変更される前の去年4月から9月末までに新車登録された分については、データに反映されていないことから、地方公共団体情報システム機構では全国の自治体に対し、車検証などと照らし合わせてデータを補正するように去年9月に通知を出していました。
今回、税額を誤った自治体は、いずれもそうしたデータの補正を行っていなかったということです。
これについて、ある県の担当者は「補正が必要だという認識が不十分だった。納税者の皆様にご迷惑をおかけしてしまい申し訳ない」と平謝り。
一方、地方公共団体情報システム機構は、「そもそも改造の程度は多種多様なので、減税の対象となるかこちらで判断するのは難しい。今後も、自治体はこちらが送るデータをそのまま取り込むのではなく、それぞれが車検証などの情報と照らし合わせて減税の対象となるか確認してほしい」と話しています。
<外部委託の弊害?>
今回、調べてみて驚いたのは、都道府県にとって重要な財源の1つである自動車税の算出が外部の組織から送られてくるデータ頼みになっているということでした。立命館大学 上原哲太郎教授
情報システムや個人情報の保護に詳しい立命館大学情報理工学部の上原哲太郎教授は、「介護保険料や児童手当など、計算がデータ頼みになっていたりデータの取りまとめが外部に委託されたりしている業務は拡大している」と話します。
そのうえで上原教授は、「地方自治体は最も市民に近い行政機関のはずなのに、職員は異動があるためノウハウが蓄積されず、委託された外部組織のほうがその内容に詳しいという行政の形骸化ともいえる事態が生じている」と警鐘を鳴らしています。
ただ、自治体も人員や経費の削減が求められる中で、業務の外部への委託はやむをえないことでもあります。また、特に自動車税など税金に関する制度はたびたび変わることもあり職員がすべてを把握して判断するのは難しく、扱う件数も多いため、コンピューターでの処理が基本となっているのも事実。
これについて上原教授は「コンピューターに元となるデータを入れたら私の仕事は終わり、というようにコンピューターがブラックボックスになってしまっている。自治体は、コンピューターがデータをどう処理してどのような結果が出たかまでが自分たちの仕事であるということを認識し、コンピューターや計算システムを作る業者任せにしてはならない」と話していました。
課税ミスが起きた自治体では、徴収しすぎた分を返還するとともに、誤った金額で課税した人に対して、謝罪の文書と正しい納税通知書を送り直しました。
今回は最大で3万円も多く課税する通知を出したため、納税者側からの問い合わせで発覚しました。しかし、奈良県では3人の納税者が実際に誤った金額で納税を済ませていました。もし、誰も気がつかずに本来よりも多い税額を納め続けていたとしたら…。恐ろしいことです。
個人情報を多く扱う行政機関。IT化が進む一方で、誤った情報に基づく行政の対応が行われないよう、どのようにチェックするかが、いっそう重要になっていると思います。
投稿者:飯田 暁子 | 投稿時間:16時55分