2017年12月04日 (月)レジ前開封論争から考えた


※2017年11月21日にNHK News Up に掲載されました。

のどがとても渇いていたので、スーパーの店内で冷えたミネラルウォーターのキャップをあけてごくごく。中身が半分に減ったボトルをレジに持って行って会計はNG?もちろんだめですが、ネット上では「外国でよくあるよ」の声。当たり前なの?それとも融通が利かないの?レジ前開封論争から考えました。

ネットワーク報道部記者 伊賀亮人・郡義之・宮脇麻樹

reji171121.1.jpg

<レジ会計前に商品を開けないで>
発端となったのは、スーパーでレジ打ちのアルバイトをしている大学生からの新聞への投書。

高齢の女性が「味見のため」と言って封の開いたポテトチップスを持って来たことに対して、マナー違反を指摘する意見でした。

飲んで空になったペットボトルをレジに差し出して「会計して」という客もいたそうです。

ネット上では、客を批判するツイートもありましたが、意外なことに「海外ではよくあること」だという現地を知る日本人からのツイートが相次いだのです。

reji171121.2.jpg他にも、フランス、インド、マレーシア、中国、韓国など、様々な国で会計前に商品を開けても支払いさえすれば問題ないというツイートがありました。


<海外でよくある 本当なの?>
これって本当なの?海外経験のある同僚何人かに聞いてみました。

まずはアメリカの大学に通っていた女性の体験。スーパーにアメリカ人の友人と買い物にいったところ、友人が棚から手に取ったジュースを開けていきなり飲み出しました。

「何やってんの?万引きじゃない!」
「普通だよ」
「普通なの?????」

続いてこの夏までイスラエルで勤務していた同僚。
「レジを通す前にお菓子やパンの袋を開けて食べている人はよくいました。量り売りのピクルスをその場でつまんで食べるのも当たり前。周りの人も『行儀の悪い人がいる』という程度の認識だと思います」


<日本では「窃盗」です。でも…>
日本でもし同じ場面に遭遇したら、「行儀が悪い」では済みません。

専門家は、スーパーで会計前の商品を飲食した場合、窃盗罪にあたると言います。

「窃盗は『他人の財物を意思に反して自己の占有に移すこと』で、スーパーの場合、レジで精算をしたら自由に処分していいという前提のため、会計前に飲食する行為は窃盗罪が成立します」(刑事事件に詳しい落合洋司弁護士)

でも、ツイッターに寄せられた反応を見たり同僚の話を聞いたりすると、私たちが当たり前だと思っている「常識」って、世界から見ると、ちょっと幅が狭いのかもしれないとも思いました。

先ほどのイスラエルで働いていた同僚の話に戻りますが、一緒に働いていたスタッフから「日本のサービスは素晴らしいけど融通が利かない」と言われたことがあるといいます。

そのスタッフは日本が好きで何度も日本に来ましたが、飲食店のメニューに、コーヒーにホイップクリームを乗せた商品があるのに、ココアにホイップクリームを乗せてほしいと頼んだら「できません」と言われたことに驚いたそうです。


<世界が驚いた 誤差20秒への対応>

reji171121.3.jpgルールを厳格に守る日本と、ルールはもう少し緩やかで、融通が利く世界の国々。

日本の「常識」が世界を驚かせたこともありました。
今月14日、東京・秋葉原と茨城県つくば市を結ぶ「つくばエクスプレス」が、定刻より20秒早く出発したとして、会社がホームページにおわびの文章を掲載しました。

reji171121.4.jpg普通列車が南流山駅(千葉県流山市)を午前9時44分40秒に発車するところを、20秒早く出発。乗客からの苦情はなかったものの、乗務員が発車時刻を十分確認しないまま発車し、安全性に欠ける行為だったとして、謝罪したのです。

会社の広報担当者は「たかが20秒というかもしれないが、この時間で乗り降りする乗客もいた可能性があったことを考えると、軽視できない」と話しています。
イギリスの公共放送BBCは日本の鉄道は世界で最も信頼できると称賛。アメリカの有力紙、ニューヨーク・タイムズは「日本では大げさなほど謝罪する文化が続いている」と皮肉混じりに伝えました。

reji171121.5.jpg企業倫理に詳しい麗澤大学経済学部の高巌教授は、「日本では、何かあった場合に『これくらいはいい』と判断しにくいうえ、最近では企業が失敗することにかなり神経質になっていてまずはとにかく公表して是非の判断は社会に任せようという傾向が強くなっている。また、日本企業は、社員教育の一環として厳密性を求める面もあり、そこから生まれる正確さが日本企業の強みとも言えるが、海外メディアの反応を見ると、厳密さにどこまで労力を割く必要があるのかという問題提起をされているようにも感じる。ただ、日本と海外どちらが良い悪いということではなく、それぞれの違いから学ぶということが、ダイバーシティー=多様性という観点から重要なのではないか」と話しています。

reji171121.6.jpg麗澤大学経済学部 高巌教授


<会計前に食べていました!>
日本の良さを踏まえながらも、別の視点で考える時には、この人のアドバイス。タレントのパックンこと、パトリック・ハーランさんにも聞きました。

reji171121.7.jpg「自分もアメリカで、会計前の総菜を食べたり、飲み物を飲んだことはありますよ。もちろん、日本に来てからは、やっていないですけどね」といきなりの暴露。

そのうえで「ルールを守るのは日本人の国民性で、すばらしい文化で多くの外国人が称賛しています。ただ、謝り過ぎるのは不思議に思います」

たとえば、先日、知人から聞いた話として「途中まで1分半遅れていた新幹線が、最終的に遅れを取り戻したにも関わらず、乗務員が謝っていたのを聞いて、なんで謝るんだろうと違和感を感じた」と言います。

それと柔軟性がないところは改善した方がいいと指摘します。

「イノベーションやものづくりはルール破りから始まるので、今までのやり方にとらわれていては、何もできなくなるし、ビジネスチャンスにもつながらない」

目の前で起きる出来事、ちょっと幅広く考えてみませんか?

投稿者:伊賀亮人 | 投稿時間:10時00分

ページの一番上へ▲