2017年11月06日 (月)私が投票に行かなかった理由


※2017年10月24日にNHK News Up に掲載されました。

今回の衆議院選挙の投票率は戦後2番目の低さ、でも期日前投票は過去最高。選挙権が18歳に引き下げられても19歳になると関心低下! いったいどういうこと? どうしたらいいの? 投票に行かなかった理由を聞けばその糸口くらいは見つかるかもしれない。渋谷の街で有権者に聞きました。

ネットワーク報道部記者 郡義之・伊賀亮人

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<私は○○で行かなかった>

wa171024.2.jpg前回と比べわずかに上昇したものの、53.68%という戦後2番目に低い投票率にとどまったのはなぜなのか。確かに今回は、超大型の台風21号が接近するという悪条件もありましたが…。あれこれ考えるよりも実際に聞いてみる方が早いと、渋谷駅ハチ公前広場で有権者に聞きました。

まずは、30代と40代の主婦2人組。「関心はなくはないけど、朝から出かけていた。帰って来た時も雨が降っていたので、それから行くつもりにはなれなかった。行かなくてちょっと罪悪感もあるけど…」

続いて会社の先輩、後輩だという男性2人。このうち、川崎市に住む26歳の男性は、前回は同居していた親に半ば強制されて投票に行ったそうですが、今は1人暮らしをしていることもあり、「どこに投票しても同じだから行かなかった」
横にいた後輩は投票には行ったということですが、「ぶっちゃけ面倒くさいですよね」と割り込むと、先輩も「そうそう。何か得するなら行ってもいいんだけど」とぽつり。

飲食店勤務の20代の女性。「当日は朝から深夜まで仕事だった。ずっと仕事が忙しく期日前投票に行こうとも考えなかった」とか。

有権者として初めて衆院選を迎えた都内の21歳の男子大学生。「政治が信用できないから行かなくてもいいかと思った。正直面倒だということもあるんだけど」

さらに、ハチ公と一緒にセルフィーをしていた、群馬県の18歳と19歳の女子大学生グループ6人。行った人が4人、行かなかった人は2人と分かれていました。行かなかった理由は、「学園祭があったから。大学で投票できるなら、行けたのに」「マニフェストも読んでみたけど、いい人がいないなと思った」

wa171024.3.jpg最後に、毎回欠かさず投票に行っているという30代の会社員の男性からは、「海外の一部の国のように投票に行かなければ罰則を設けるくらいしないと投票率は改善しないのでは」という厳しい声も聞かれました。

ことし行われた海外の選挙を見ると、5月のフランス大統領選挙の決選投票が74.56%、9月のドイツの連邦議会選挙が76.2%などと、いずれも高い数字が出ているのに比べ、今回の衆議院選挙の結果には寂しさを感じます。


<期日前投票は過去最高>

wa171024.4.jpg一方で、過去最高となったのが期日前投票です。台風を避けようと、全国各地の投票所に有権者の行列ができ、中には待ちくたびれてあきらめる人もいたほど。

全有権者の20%にあたる2137万人余りが期日前に投票しました。中でもすごいのが秋田県。なんと、全投票者数の半数以上の52.8%にあたる28万人余りが期日前投票をしていました。
秋田県選挙管理委員会に聞いてみると「はっきりとした理由は分からない」と言うものの、「秋田は、東京などの大都市とは違い、人が集まりやすい場所が限られている。そこに期日前投票所を置くことで、何かのついでに投票を済ます人が多かったのではないか」と分析しています。有権者の動きを先読みして、投票箱を設置する作戦、功を奏したようです。

この話と結びついたのが、渋谷で聞いた30代主婦の「『期日前』と『投票日』を分けない方が投票しやすいのでは」という指摘。「投票日というと、『その日だけ』という制限を受けている印象があるけど、『期間中いつでもいい』と言われるともっと気軽に行けると思う」と言うのです。「期日前」ではなく「ずっと投票期間」、そして秋田県の様に「人の集まるところに投票箱を」で、もう少し投票率が上がる気がしてきました。


<18歳と19歳 行かなかったわけは?>

wa171024.5.jpg投票率を語る上で欠かせないのが、去年6月以降選挙権年齢が引き下げられ、投票できるようになった18歳と19歳の若者です。

総務省が24日発表した速報値では、18歳と19歳、合わせて41.51%で全体よりも12.17ポイント低い水準にとどまりました。また、18歳の投票率が50.74%だったのに対し、19歳は32.34%と、18歳に比べて18ポイントも低くなりました。

渋谷で19歳の女子大学生に聞いたところ、18歳だった去年の参議院選挙は、投票に行ったそうですが、今回は行かなかったと話します。
「参議院選挙の時は、高校の先生が選挙の仕組みなどをレクチャーしてくれたこともあって、関心があって投票に行ったけど、卒業して今は周りにそういう人もいなくて関心が薄れていた。投票日当日も用事があったので…」と話してくれました。

19歳の投票率が18歳を下回る現象は、去年の参議院選挙でも見られました。

さらに、NHKでアルバイトをしている学生の1人に聞いたところ、「1人暮らしをしていて、住民票が実家のままになっている。住民票を選挙のために移すかと言われればしないし、実家までの往復交通費や時間をかけてまで投票できるほど余裕があるわけでもない」と話していました。


<「ネット投票の整備検討を」>
若い世代の投票率向上に取り組むNPO法人「Youth Create」代表理事の原田謙介さんは、「政治に無関心な人が多い訳ではない。今の投票の仕組みが時代に合っていない」と言います。インターネットが発達している状況を踏まえ、「ネット投票の整備に向けた検討も始めるべきだし、マイナンバー制度を活用してコンビニで投票できる仕組みがあってもいいのではないか」と指摘しています。


<投票所が有権者に“近づく”工夫を>
全国各地の選挙管理委員会では、山間部のお年寄りが投票しやすいよう投票箱を車に乗せて回ったり、期日前投票所をスーパーに設置したりする取り組みも活発になってきています。今回、街なかで話を聞いた人からは「スマホで投票できるなら投票したい」といった声も多く聞かれました。

先人たちが必死の思いで獲得した参政権の歴史からすると「甘えるな!」というお叱りも受けそうですが、それでもなかなか上がらない投票率。有権者に投票所に来てもらうという発想から脱却し、IT技術も活用しながら投票所が有権者に“近づく”方法を考えることが必要なのではないかと感じました。

投稿者:郡義之 | 投稿時間:16時48分

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