2013年04月24日 (水)1人でも最期まで自宅で暮らしたい


このブログでも何度か取り上げていますが、人生の最期をどこで迎えるかという問題についてです。平成19年度に内閣府が行った意識調査では、国民の54%が「自宅で最期を迎えたい」と望んでいますが、おととしの国の統計では、実際に自宅で亡くなった人は12%にとどまっています。
特に、最期まで自宅で暮らすのが難しいとされているのが、1人暮らしの高齢者です。
そうした1人暮らしの高齢者は今やおよそ500万人にのぼり、今後も増えると見込まれています。こうした中で、地域の医療や介護などの力をあわせて、1人暮らしの高齢者を自宅で最期まで支えようという取り組みが始まっています。 

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【1人暮らしをどう支えるか】。
岐阜市で1人で暮らす入江光子さん、87歳です。がんを患い、歩くこともできず、一日中、ベッドの上で過ごしています。それでも、およそ50年にわたって住み慣れた自宅で最期まで暮らすことを望んでいます。

20130423_hitori6.jpg入江さんの元に、月に2回、定期的に往診に訪れているのが主治医の小笠原文雄さんです。これまでに自宅で看取った(みとった)人は600人余り。中でも、1人暮らしの高齢者を支える訪問診療に力を入れ、この5年で20人の旅立ちを見送りました。

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1人暮らしを支える上で、小笠原医師が重要と考えているのが、「痛み」を取り除き、「痛みへの不安」を解消することです。がんなどでひどい痛みが続くと、不安になり、それが原因で自宅で過ごすのを諦めて、入院を選ぶ人が多いからです。

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入江さんも、おととし、ひどい腰の痛みで動くことができず、一時、寝たきりになりました。がんが骨盤に転移していたのです。入江さんは「痛くて寝返りもできず、夜眠れないほどだった」と当時を振り返ります。

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起き上がって薬を飲めない状態だった入江さんに対し、小笠原医師は、すぐに、貼るタイプの医療用の麻薬を使い、痛みを取り除きました。

20130423_hitori10.jpgがんの鎮痛薬は医療用麻薬を中心に20種類以上あり、これらを患者の状態に合わせて、うまく組み合わせれば、ほとんどの痛みは取れるといいます。こうした痛みや苦しさを取り除く医療を「緩和ケア」と言いますが、病院でも自宅でも同じレベルのものが提供でき、むしろ自宅の方がストレスが少ない分、痛みが取れやすいということです。

20130423_hitori11.jpg小笠原医師は「同じ薬でも人によって効く効かないもありますし、がん自体によって痛いのと、骨に転移して痛いのと、神経の方にも浸潤して痛いのとによって、医療用麻薬の使い方が微妙に変わってくる。まず痛みを取ることが、イロハのイの字ですね」と話しています。

20130423_hitori12.jpgまた、夜間などに、ひどい痛みに襲われた場合の緊急の連絡手段として、タッチパネル式のテレビ電話を高齢者に自宅に置いています。もし電話を掛けられないほど具合が悪い時でも、画面に1度触れるだけで、介護事業所につながるようになっています。

20130423_hitori13.jpg20130423_hitori14.jpg入江さんは「夜なんか、特に心強いです。1人きりだから、何かあったらどうしようという不安があるが、これがあると安心です」と話しています。

20130423_hitori15.jpg【家族に代わって見守り】
さらに、小笠原医師は、1人暮らしを支えるために、家族に代わって、高齢者を見守る態勢を整えています。

20130423_hitori16.jpg医師や看護師が訪問できるのは、1人につき、多くても週に3日。それを補うために、さまざまな職種や立場の人が関わっています。医師や看護師のほか、ケアマネージャーやヘルパー、それに、地域のボランティアや民生委員などが、ネットワークを作っています。こうした人たちが情報を共有することで、自分が訪問できない日でも、高齢者の状態を知ることができるのです。

20130423_hitori17.jpgとりわけ、大きな役割を担っているのが、ヘルパーです。毎日3回、入江さんの元を訪れ、食事やオムツ交換など身の回りの世話をしています。

20130423_hitori18.jpg高齢者の自宅には、情報共有のために、小笠原医師の指示で、タブレット端末が置かれています。ヘルパーは、高齢者の状態や、毎日接する中で感じたことを入力します。食事の量が減ったり、顔色が悪かったりするなど、ちょっとしたことでも打ち込むよう心がけていると言います。

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こうして入力された情報は、インターネットで関係者がいつでも見ることができます。看護師や医師は、その情報で患者の体調を把握し、異変があればすぐに対応します。

20130423_hitori20.jpg20130423_hitori21.jpg以前には、入江さんの食欲が落ちていることがヘルパーからの情報で分かり、看護師が急きょ、自宅を訪れて栄養剤を点滴したこともあったということです。

20130423_hitori22.jpg小笠原医師は「特に注意が必要なのが、亡くなる1、2週間ほど前の時期。急に体が衰弱して身動きできなくなり、そのままだと不安になって入院してしまう。そこで、容体の変化などを早めにつかんで訪問の回数を増やすなど、迅速に対応できるかがカギだ」と話しています。

【周囲の理解が大切】。
ここまで支える態勢を整えている小笠原医師ですが、難しい対応を迫られることがあります。親族の反対です。
20130423_hitori23.jpg4年前、小笠原医師が看取った水野武さんも末期の肺がんと診断され、自宅での最期を強く望みました。遠く離れて暮らしていた長男夫婦は当初、「いつ亡くなってもおかしくないのに、1人では無理ではないか」と考えましたが、小笠原さんの講演を聞いたことをきっかけに、本人の希望を尊重しようと決意。1人暮らしの家に連れ帰ったところ、とても喜んだと言います。

20130423_hitori24.jpgしかし、退院直後、親族が水野さんの元を次々と訪れ、「病院のほうが安心だ」「1人で居る時に死んだら、孤独死になってしまう」などと言い、再び入院するよう説得を始めました。これを伝え聞いた小笠原医師は、できるだけ多くの親族を集めて、緊急時の対応や見守りの態勢について、2時間かけて説明しました。その結果、親族も安心感を抱き、納得してくれました。水野さんは、小笠原医師や多くのスタッフに囲まれた記念写真を残し、自宅で穏やかに亡くなりました。

20130423_hitori27.jpg長男の妻の瑞穂さんは「義父は安心して逝ったんじゃないかなと信じてます。退院直後に家で記念に写真を撮った時には、したことのないピースサインをして笑顔で写っていた。この上なく幸せそうだった」と話しています。

20130423_hitori26.jpg周りの人の考えや都合ではなく、本人の希望を最優先にして欲しい。1人暮らしの最期を支える小笠原医師の願いです。
「1人で死ぬと“孤独死”と言われる時代に、1人で死んだ人がみんな、穏やかで亡くなっているわけだから、本人の最期の願いをかなえてあげることが一番大事だと思う。この1点を多くの人に理解して欲しい」と、小笠原医師は話しています。

20130423_hitori28.jpg【取り組みは始まったばかり】
1人暮らしの高齢者を孤立させず、最期まで支える取り組みを見てきましたが、こうした取り組みをしている医師は、全国的に、まだ少ないのが現状です。そうした中、岐阜県では、小笠原医師が経験の浅い医師に呼びかけて、一緒に訪問診療を行い、患者の痛みを取る「緩和ケア」や看取りのノウハウを学ぶ取り組みも始まっています。これまでに20人余りが教えを受け、中には、実際に1人暮らしの人のみとりを始めた医師もいます。小笠原医師たちのような取り組みは福岡県や静岡県でも準備が進められているということです。
小笠原医師は、ことし2月、「おひとりさまの老後」の著書で知られる社会学者の上野千鶴子さんと一緒に、「小笠原先生、ひとりで家で死ねますか」という本を書きました。今後は、各地で講演も行い、医療・介護の関係者、そして一般の人たちに対し、「1人でも本人が望めば、家で安心して最期まで過ごせる」と訴えていくことにしています。
社会の核家族化、そして単身化が進み、誰もが最期を1人で迎える可能性がある中で、1人暮らしの在宅療養を支える取り組みと理解が広がっていくことが欠かせないと、取材を通じて感じました。
 

投稿者:本木孝明 | 投稿時間:06時00分

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コメント

要介護度5の老母の成年後見人として遠距離介護している介護職です。在宅介護が主になってくる今後。国も地方行政も、独居に目を向けて欲しいんですよね。 キーパーソンなんか一人もいないし、もちろん、近場に親しい親戚演者は一人もいない。 今の政策はすべて「面倒を看てくれる介護者がそばにいる」ことが大前提なので、 配偶者も子供も親戚演者もいない私ら孤独死候補生はとてもじゃないけど安心して老後を迎えられないですよ。 そんな中、紹介されている岐阜市で在宅医療に携わる一人の医師の取り組みは、私たちが望む「おひとり様の老後」そのものではないでしょうか? でも、認知症になったら・・・こうはうまくいかないのよね~┐('~`;)┌ それを考えたらやっぱり先行き不安です。

投稿日時:2013年04月24日 09時47分 | 薫@千太組

核家族、少子化の行き着く先は、独居老人の問題です、独居でも在宅可能な在宅医療・介護の整備・環境を作る為、、現在の医療・介護は結局家族がいて当然という考え方が根底にあると思います。その証拠がキーパーソンの必要に繋がっています、長生きすればするほど孤立するのは止められません、哲学的、生命論てきに”死”を皆で考えるべき時が来ていると思います。NHKの発信力に期待しています

投稿日時:2013年04月24日 15時03分 | nakabenten

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