2021年04月06日 (火)新型コロナ 医療現場に伝えたい"ありがとう"


※2020年5月7日にNHK News Up に掲載されました。

その書き込みを見た私は、すぐに動かなければ、と思いました。都内の病院で医師として働く友人からのSNSを通じた呼びかけには、こう書かれていました。「もう戦時中です」。

私は、あるものを買いに近所の文房具店に走りました。買ったのは、会議などで使うOA機器「OHP」用の透明なシート。友人が求めていたのは、感染から身を守るためのフェイスシールドでした。

ネットワーク報道部記者 野田綾・社会部記者 間野まりえ

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友人からのSOS
4月中旬のある日、都内の総合病院で外科医として勤務している私(野田)の長年の友人が、SNS上のグループにこんな書き込みをしました。

shinngata.200507.2.jpg「病院上層部と話し合い、やはりフェイスシールドはひっ迫している状況です。きょう希望部署にクリアファイルが配られるので自分で切ってくださいというところまで来ています。もう戦時中です」

彼女は新型コロナウイルスの患者を直接担当しているわけではありませんが、外来での診察や手術など、主にがん患者の治療にあたっています。

目の前の患者が感染している可能性もある中で、自分が感染して院内に広めてしまうのを防ぐには、対策をとる必要があります。しかし、この病院では新型コロナウイルスの治療にあたっている部署に優先的にマスクやフェイスシールドなどの物資を回しているため、外科では十分な数を確保できていないそうです。

フェイスシールドは外科ではそれぞれの医師の判断で着用していますが、彼女は1枚のフェイスシールドが破れて使えなくなるまで消毒しながら使い回さなくてはいけないと考えたこともあるといいます。

病院では、フェイスシールドを必要とする医師が自分で作れるように、クリアファイルが配られました。しかし実際に作ってみると、透明度が十分ではなく、細かい作業が必要な外科の手術には向いていないことがわかりました。

shinngata.200507.3.jpg試行錯誤の結果、会議などで使うOA機器「OHP」用の透明なシートを使えば手元が見やすいことがわかりました。ただ、日々治療に追われる中、自分たちだけで必要な数を作るのには限界があります。そこで、わらにもすがるような思いで、SNSを通じて友人たちに協力を呼びかけることにしたのです。

私も作ってみた

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早速、私も外に出られない休日を利用してフェイスシールドを作ることにしました。食品の買い出しに出た時に、近所の文具屋に立ち寄り、A4サイズのOHPシートを購入。まずは体温を測り、平熱だということを確認してから、手洗いやうがいをしてマスクを装着。使用するカッターナイフや下敷きはアルコールで消毒しました。

友人から教わった作り方をもとに、シートを4分の3の長さに切りマスクのゴムが通るように縦に2本の切り込みを入れ、シートの角を丸く切ったら完成です。

shinngata.200507.5.jpg30分ほどの作業で、20枚のフェイスシールドができあがりました。私は医療現場を支えている友人への「ありがとう」というささやかな気持ちを込めて、病院へ送りました。ほかにも呼びかけにこたえた仲間たちから多くのフェイスシールドが寄せられ、友人の医師や同僚が定期的に取り替えられるだけの数が確保できたということです。

友人の医師
「こうした一つ一つのことが、メンタルから崩れそうな私たち医療従事者を支えてくれます。現状としては、最前線ではない、病院の中の安全なところにいる私ですら状況は悪化しているように感じています。大切な仲間が危険にさらされていく、そして物資が届かない。これは映画でもバーチャルゲームでもありません。目の前の現実です」

デザイナーやエンジニアも

私が参考にした作り方のほかにも、ネット上では、専門家の意見を参考に考えられたフェイスシールドの作り方がアップされています。

shinngata.200507.6.jpg「フェイスシールドプロジェクト」のHP

その1つ、「フェイスシールドプロジェクト」というサイトは、医療現場の過酷な状況を改善しようと、医師、編集者、デザイナー、エンジニアなどの有志のボランティアが立ち上げたプロジェクトです。医療者が使いやすいフェイスシールドの作り方が紹介されています。型紙をダウンロードできるほか、製作するときの注意点として、下記のような手順がまとめられています。

・事前に健康状態を自分でチェックすること

・せっけんやハンドソープで手を洗ったあと、乾いた手でマスクを装着し、手元にあれば使い捨てのゴム手袋を装着すること

・フェイスシールドを作る場所と道具を消毒しておくこと

・フェイスシールドが完成したらすぐにOHPシートの外袋に入れ、郵送できるようにしておくこと

shinngata.200507.7.jpg「職業感染制御研究会」のHP

また、友人の医師によると、医療従事者を感染症から守るための研究を行っている医師などのグループ「職業感染制御研究会」の有志が手作りの防護具を比較しているサイトもあります。このグループでは、防護具を手作りするときは、きちんと効果があるものになるように、このサイトも参考にしてほしいと呼びかけています。

“1週間同じマスクを…”

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医療用の物資の不足は全国で起きています。ある女性医師が勤める関西地方の医療機関では、3月上旬からサージカルマスクがひとりにつき週に1枚しか配布されなくなりました。高性能のN95マスクも週に1枚となり、どちらのマスクも同じものを1週間、使い続けているということです。マスクを外す際は内側を触らないように注意し、1日の仕事を終えると紙でくるんで保管しています。4月に入ってからは新型コロナウイルスに感染した患者の受け入れも始まり、マスクが不足する現状に不安を募らせていると言います。

女性医師
「1週間使い続けるのはとても不潔で、形だけマスクをしているという状態なので、万が一、自分が感染して、院内感染を広げてしまったらどうしようという恐怖と戦いながら仕事をしています」

眠っている物資を有効に

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こうした中で、個人の家や企業に眠っている医療物資を掘り起こして医療機関に届けるというプロジェクトも始まっています。立ち上げたのは医師などのグループで、SNSを通じて、サージカルマスクやN95マスクなどの医療物資の寄付を呼びかけたところ、この1か月で少なくとも1000件の寄付が寄せられたということです。

shinngata.200507.10.jpgプロジェクトでは、医療機関に対して、マスクのほか、ガウンやゴーグル、グローブなど、医療従事者の身を守るために必要な資材の在庫状況を尋ねるアンケートも実施していて、寄付された物資を、随時、医療機関に届けています。

さらに、医療従事者に感謝を伝える手紙も集めて届けていて、受け取った医師からは「心の支えになる」といった声も上がっているといいます。

shinngata.200507.11.jpgグループの代表 帝京大学ちば総合医療センター 萩野 昇 医師

萩野医師
「もともと新型インフルエンザ対策で医療用マスクなどを備蓄していた企業もあります。寄付だけで賄えるわけではなく、綱渡りの状況に変わりはありませんが、緊急避難的な措置として、最前線に防護具を届けるために物資を寄付していただければ」

萩野医師は物資の寄付などの申し出は次のアドレスに連絡してほしいと呼びかけています。covid19maskjp@gmail.com

何よりも「感染しない」という支援を!

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医療機関で働く人たちは、感染のリスクを抱えながら、きょうも治療にあたっています。病院の外にいる私たちができることは、物資の支援だけではありません。「感染を避ける努力を続けること」が何よりの支援になるのではないでしょうか。

冒頭で紹介した友人の医師は、がん患者の治療にあたっています。不安を抱えながら治療に励んでいる患者たちの姿を目にすると、「院内感染で治療に影響が出るようなことはあってはいけない」と痛切に感じるといいます。

友人の医師
「病院の中では緊張感がどんどん増していって、どうしたらよいのか暗中模索しているのに、病院の外では、一般の人たちが以前と変わらないような行動をしている光景に出くわし、異次元のように感じることがあります。私たちはただ誰かを助けたくて、この仕事をしています。でも一部の無理解や無関心によって医療現場の状況が悪化していることを知ってほしいのです」

東京や大阪など患者数の多い地域を中心に、これからも「3密」になっている場所には行かないようにする。必死に働いている医療従事者のために私たちができる最大の支援は、これではないでしょうか。

投稿者:野田 綾 | 投稿時間:16時02分

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