2017年12月01日 (金)お歳暮・おせちに値上げの波 背景は


※2017年11月17日にNHK News Up に掲載されました。

11月も半ば。紅白歌合戦の出場歌手も発表され、そろそろ師走の足音が聞こえてきました。お歳暮やおせち料理の商戦の様子を取材すると、商品によっては、例年とは違う異変が起きていることが分かってきました。その異変とは、ずばり「値上げ」なのです。

ネットワーク報道部記者 飯田暁子・伊賀亮人・玉木香代子

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<魚介類の不漁 お歳暮に影響>
お歳暮などの価格に影響しているのが、ことしの魚介類の不漁です。

・秋サケ不漁でイクラ高騰
北海道によりますと、道内の秋サケ漁は、11月10日までの水揚げ量が、記録的な不漁となった去年の同じ時期の3分の2にとどまっています。北海道の担当者は「今、戻ってくるサケが稚魚として海に出た3、4年前の海水温などが影響していると考えられるが、はっきりとした原因は分からない」と話しています。

秋サケがとれないことで、お歳暮として贈られるイクラの価格が高騰しています。

ose171117.2.jpg全国に海産物を発送している北海道日高町の魚問屋「金村商店」では、しょうゆと日高昆布のだしに漬け込んだイクラが毎年、人気を集めていますが、ことしは確保が難しく、去年、500グラムで4500円だった価格が、ことしは7800円。7割以上も値上げせざるを得なかったということです。

・販売中止の高級ホタテも
北海道特産のホタテも不漁になっています。
このうち、室蘭市のブランドホタテ「蘭扇(らんせん)」は、沿岸で養殖された3年目のホタテの中でも、貝殻に傷みがなく、13センチ以上の大ぶりなものだけを生きたまま出荷し、人気を集めていました。

ose171117.3.jpgしかし、室蘭漁業協同組合によりますと、去年8月の台風の影響が今も続いて十分な量を確保できず、ことしは販売を取りやめました。

漁協は、去年注文を受けた人に販売中止を伝えるはがきを送りましたが、「お歳暮に贈りたい」という問い合わせの電話がかかってくることもあり、事情を説明すると、残念そうな声が返ってくるということです。

・早めの注文を呼びかけ
このほか、「黒潮の大蛇行のため全国的にシラスが不足している」として、シラスのお歳暮ギフトを求める際は例年より早く注文してほしいとホームページで呼びかける専門店も出ています。

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<海外需要で品薄に>
不漁だけではありません。

海外での需要の高まりも、国内の価格に影響を及ぼしています。

東京の築地市場を拠点に魚介類の取引を行う卸売業者「大都魚類」によりますと、ことしは、記録的な不漁となっている秋サケやイクラ以外でも軒並み高値が続き、「去年並みの値段ですんでいるのはタコぐらい」と話しています。

特に、カニやエビ、ウニなど、お歳暮やおせち料理に好まれる高級食材は、中国や東南アジアなどでの和食ブームやすし人気に伴う需要の高まりで、価格が引き上げられているということです。

ose171117.5.jpg例えば、北海道産のウニ。アジアの国や地域から、品質のいい日本の品を仕入れたいというニーズが高まり、海外のほうが高く売れるとして輸出を優先する業者も出て、国内で品薄になっているということです。

「大都魚類」の担当者は、「不漁に加え、海外の旺盛な需要の高まりで、魚の絶対量が少なくなっている。お歳暮やおせちの年末商品にもじわじわと影響が出ている」と話しています。


<おせち料理にも異変>
この魚介類の価格高騰は、新年を彩るおせち料理に影響しています。

ose171117.6.jpg「原材料高騰のため、価格変更をさせていただきました」
東京・練馬区の料理店「旬菜一庵」のツイッターへの書き込みです。
事情を尋ねてみました。

「イクラだけでなく、アワビや銀ダラ、さらに和牛までも値段が上がっています。田作りに使うカタクチイワシの幼魚は、例年の2倍です。おせちは常連さんへの感謝の気持ちを込めて作っているので値上げはしたくなかったのですが、ことしは値上げさせていただくことを決めました」
値段は2万3000円から1000円引き上げたということです。

神奈川県平塚市の「割烹竹万」も、これまで30年以上、おせちの値段を3万8000円に据え置いてきましたが、ことしは2000円値上げしました。海産物などの価格高騰に加え、重箱までもが値上がりし、やむをえなかったと話しています。

さらに、40年以上にわたって地元の人たちにおせちを販売してきた熊本県湯前町の料理店「味工房さがら」は、ことし販売をやめることにしました。

およそ30種類の品々を詰め合わせた2段のおせち、1万5000円ほどで提供してきましたが、イクラやカニ、エビの値段が年々高くなり、利益が出なくなったと言います。

店長は「値上げして続けることも考えましたが、リーズナブルなお店を目指しているのでやめました。毎年楽しみにしてくれた家族もいるので、とても残念です」と話していました。今後は、価格の変動があまりない冷凍のサバを使ったバッテラ寿司や唐揚げなどのオードブルを作り、提供していきたいとしています。


<送料値上げもじわり>
商品の値段は変わらなくても、消費者にとって厳しい動きも見られます。
送料の値上げです。

山口県防府市に本店があるかまぼこ店「白銀本舗」は、ホームページに送料値上げのお知らせを掲載しました。

おせちに欠かせないかまぼこ。商品の値段はこれまでどおりですが、おおむね1000円前後だった送料が100円ほど上乗せされました。

ことし10月、宅配便最大手の「ヤマト運輸」が、27年ぶりに個人向けの宅配便料金を見直し、平均で15%引き上げたのです。

かまぼこ店の社長は「お客様の負担が増えるのは極力避けたかったが、値上げ分を店でもつのは難しかった」と、厳しい心境を話していました。


<深刻な人手不足>
この背景には深刻な人手不足があります。

特に年末は、お歳暮やクリスマスなどでモノが動く「物流」の業界だけでなく、忘年会などで忙しい「飲食」や、セールなどで売り上げを伸ばす「販売」も求人が増えます。

求人サイトを見ると、東京の地域によっては、時給1000円台後半から2000円のアルバイトの募集が目に飛び込んできました。

ose171117.7.jpgこうした中、ヤマト運輸の神奈川県にある支店は、年末の繁忙期に働くドライバーについて、最高で時給2000円で募集をかけました。

ヤマト運輸の担当者は「採用は地域ごとに行い、全国一律で時給を上げているわけではないが、必要な人員を確保するため時給を上げている地域もある」と話しています。

こうした人件費の高まりが、お歳暮やおせちの送料にも響いているのです。


<飲食店への影響は>
それでは、こうした人件費の高まりで飲食店の値段が上がることはないのでしょうか。

大勢の初詣の参拝者が訪れる千葉県成田市の「成田山新勝寺」。その参道にあるうなぎ料理の老舗「川豊本店」も、人手の確保に頭を悩ませています。

ose171117.8.jpg混雑する初詣の時期でも料理やサービスの質を保つため、通常より30人から50人ほど多いスタッフが必要だということです。

ふだんより時給を上げるほか、常勤のスタッフを増やしたり、短時間だけでも働ける人を採用したりするということです。

「人件費も高くなっているが、ただでさえ、うなぎの仕入れ値が上がり値上げに踏み切っているので、これ以上の値上げはできない。外国人観光客の来店を増やすなど、企業努力で対応していくしかない」、こう話していました。

お世話になった方々に感謝の気持ちを込めて贈るお歳暮。そして、1年の幸せを願いながら大切な人と味わう料理。値段のことはあまり言いたくない気持ちもありますが、どうか、お財布に優しい年末年始であってほしいと願わざるを得ません。

投稿者:飯田 暁子 | 投稿時間:16時31分

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