2017年12月01日 (金)家計の味方 もやしがピンチ?!


※2017年11月16日にNHK News Up に掲載されました。

不漁でサンマが高くても、長雨できゅうりやトマトが高くても、私たち、庶民の財布に優しいのが「もやし」。栄養満点で、200グラム入り1袋30円。この40年間、ほとんど価格の水準は変わらない“物価の優等生”の「もやし」。ところが、今、そんな「もやし」を取り巻く環境が大きく変わろうとしています。家計の味方「もやし」に何が起きているのでしょうか?

ネットワーク報道部記者 郡義之

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<スーパーの目玉商品>

kak171116.2.jpg東京・足立区のスーパー。野菜売り場には、もやしが山のように積まれています。値段は200グラム入りで1袋28円。買い物に訪れた主婦たちが、次々と買い求めていました。

このスーパーでは、月2回のセールの時は、赤字覚悟で1袋10円で販売しています。
「もやしはスーパーにとってなくてはならない存在。いわば目玉商品」と話すのは、このスーパーの新妻洋三社長。この地域で、45年間スーパーを営業してきました。

新妻社長によると、もやしはあえて店の隅にある「死に場所」と業界の人たちが呼ぶ場所で売るのだそうです。
なぜなら、もやしは年中売れる商品のため、目立たない場所に置くことで、ほかの目立たない商品にも手を伸ばしてもらえるということです。
だからこそ値上げしにくいのも特徴。もやしの値段が1円違うだけでも、客足に影響が出ると言います。
新妻社長は「本当は、今よりも高い値段で売りたいが、地域内に競合店が5店から6店あるのでなかなか値上げはできない」と話していました。

もやしの生産者でつくる「工業組合もやし生産者協会」(東京)によると、もやしの平均小売価格は約30円。40年前とほぼ同じ水準です。スーパーの安売り競争が激しさを増す中、呼び物の商品として、値段が上がらないまま、もやしは私たちの食卓を支え続けてきました。


<ある業者の破綻…>
そんな中、ことし9月、ある出来事が起きました。神戸市のもやし原料豆の卸業者が経営破綻したことが明らかになったのです。

破産管財人の弁護士によると、負債総額は3億5000万円。もやしの原料豆などの卸売り事業を展開していましたが、原料価格の高騰の一方で、販売価格への転嫁が進まなかったことなどから採算が悪化。神戸地方裁判所に破産申請を申し立てました。

実は私たちが食べるもやしの原料となる豆は、ほぼ海外から輸入されています。

kak171116.3.jpg「もやし生産者協会」が、財務省の貿易統計をもとにまとめた資料によると、2017年に日本に輸入された原料豆の数量は5万トン。このうち中国からが7割を占めています。原料豆の大部分が緑豆です。

kak171116.4.jpg原料を輸入している商社によると、2000年初頭に1トン当たり10万円を下回っていた緑豆の輸入価格は、ここ数年は20万円から25万円ほどまで2倍以上に上昇。今も高い水準で推移しています。なぜ、緑豆の価格は上がっているのでしょうか。


<中国から迫る変化の波>
理由の1つは、中国にあります。
中国は緑豆の主要産地。中国農業部がことし1月に発表した緑豆の作柄・市況展望によると、2016年の緑豆の収量は61万トンと、前年比7.45%減少。主な産地の吉林省などで収穫時期の9月に雨が多く降った影響で収量が落ち込んだのです。

kak171116.5.jpgことし9月 中国
理由の2つめは、中国で起きている栽培品目の変化です。
原料の輸入商社によると、中国で緑豆を生産する農家の中には、少しでも高い収益を狙って、飼料用のトウモロコシに栽培品目を転換する動きが出ているというのです。中国では、生活水準の向上とともに食事も欧米化。以前に比べて牛乳や肉の消費量が多くなり、それに伴って家畜用の飼料用トウモロコシの需要も増大しています。このため、高い収益を狙って、緑豆から飼料用トウモロコシに栽培品目を変える農家が相次いでおり、緑豆の生産量の減少にもつながっているというのです。
食卓からもやしが消える?!
原料は高騰する一方で、上がらない販売価格。こうした現状にあえいでいるのが、国内のもやし生産者です。

kak171116.6.jpg1日およそ20万袋のもやしを生産している茨城県の「旭物産」は7年前に工場を新設。食品安全の国際認証も取得しました。しかし、もやし単独では赤字。

林正二社長は「もやしが安値安定になってしまっている。こんなにしんどい商売はない」とため息をつきます。

この会社では、付加価値の高い「カット野菜」などで利益を確保しながら、しのいでいるものの、厳しい状況が続いています。

「もやし生産者協会」によると、2009年には全国で230社以上あった生産者は、いまでは130社を切っているということです。ことし3月、この団体は「このままでは、日本の食卓からもやしが消えてしまう」と、ホームページや書面で窮状を訴えました。

「もやしの小売価格は2005年に比べて10%下落したのに、原料の緑豆の価格は3倍。もやし生産者の体力は消耗しきっています。経費削減の努力はすでに限界を超え、健全な経営ができていない状況です…」。スーパーなどの小売店にも販売価格の値上げを求める要請を行いました。


<成功なるか もやし改革>
こうした中で、もやしを取り巻く環境を少しでも改善しようという試みが始まっています。中国などに依存してきた原料豆を国内で確保しようという試みです。

原料豆の輸入商社「ニッショウ」(東京)は、北海道や秋田、大分など国内7か所の2300平方メートルほどの面積で、ことし緑豆の試験栽培を始めました。栽培に適した場所を来年にかけて探すことにしています。

主要な産地の中国東北部に比べて、雨が多い日本では、緑豆の栽培は簡単ではないといいます。

それでも杉本昇社長は「日本でとれた緑豆を使ったもやしができれば、食の安全にもつながるし、何より高値で買ってもらえる可能性も生まれる」と意欲を示しています。栽培がうまくいけば、将来的には1ヘクタールの農地を日本に確保し、緑豆を作りたい考えです。

また、茨城県の「旭物産」も、ミャンマーから緑豆を取り寄せ、自社の敷地内で試験栽培を行う計画を進めています。


<これからも家計の味方で>

kak171116.7.jpgもやしを取り巻く環境は厳しさを増していますが、国内では消費量が安定しているのも事実。最近は温泉水を使ってもやしを栽培したり、すべてを手作業で栽培したりして、付加価値を上げた高級もやしも人気を集めています。

炒め物、和え物、煮物など、日本の食卓に欠かせない存在のもやし。
これからも「消費者の味方」であり続けるには、生産者と消費者の互いの事情を踏まえながら、安定的な需給のバランスを今後も築いていけるかが鍵となりそうです。

投稿者:郡義之 | 投稿時間:16時19分

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