2019年08月09日 (金)インバウンドだけじゃない! お客様は外国人


※2019年4月25日にNHK News Up に掲載されました。

外国人客を取り込め!といってもここ数年、日本企業の間で当たり前のようになった訪日外国人旅行客のことではありません。実は今、日本に住む外国人を取り込もうというビジネスが熱を帯びています。ターゲットは日本に住む外国人、273万人(平成30年末時点)。その数は過去最高を更新し続けています。外国人を“労働力”ではなく“マーケット=市場”として取り込もうと、事業展開する企業を取材しました。

ネットワーク報道部記者 伊賀亮人

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<外国人は部屋を借りられない? >

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日本で学んだり働いたりする人がまず必要になるもの。その1つが住まいです。そこで外国人が日本で賃貸住宅を借りる際、連帯保証人の代わりになるサービスを提供するのが「グローバルトラストネットワークス」(本社:東京・豊島区)です。

入居者から保証料を取る代わりに、家賃が滞納された際に肩代わりするという事業を展開しています。同じような保証会社は多くありますが、外国人の入居者だけを対象にしているのが特徴です。

なぜか。社長の後藤裕幸さんは、以前、経営していた海外進出を目指す日本企業向けのコンサルティング会社での経験がきっかけになっていると言います。

inba190425.3.jpg「一緒に働いていた外国人がいちばん困っていたのが『家』です。新たに日本に来る人はサポートしてくれる親戚などもいないので連帯保証人を求めるのは酷なんです。中には日本人の知り合いに保証人になってほしいと頼んだら、連絡が取れなくなり友達を失ってしまったと話す人もいました」

日本で賃貸住宅を借りる際に多くの場合で必要となる連帯保証人。しかし、実は日本特有の制度で外国人にはなじみがなく、親戚や知り合いがいないため多くの人が苦労していたというのです。

平成18年に起業した当時は、「外国人の入居者は断る」と言われたことも多くあったそうですが、その後、着実に成長しています。今では東京だけではなく北海道から沖縄まで全国9500社の不動産業者と提携し、今年度は約3万5000件の新規契約を見込んでいます。そして売上高は25億円と、昨年度の17億円からの増加を見込んでいます。

実際にこのサービスを通じて賃貸契約を結んだ韓国人の男性に話を聞きました。日本の文化を学びたいとワーキングホリデーで1年間の予定で来日したそうですがなかなか部屋を借りることができず途方に暮れたそうです。

「保証人になってくれる人もいないし、契約する際の審査に日本の携帯が必要と言われても携帯の契約には住所が必要で手に入らない。そんな時に保証代行のサービスが最後の切り札になってくれました」

<従業員も7割は外国人>

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強みは、入居者と家主双方に対するサポートです。家主が懸念するゴミ出しのルールや騒音など生活トラブルに関する相談や、入居者には光熱費の支払いの申し込みなどの支援を、24時間、電話で行います。英語や中国語、ベトナム語やモンゴル語と16言語に対応。そのために全従業員の7割を占める、19か国出身の約140人を採用しています。

「一口に外国人と言っても出身地によって言語も違えばライフスタイルも多様なので対応するには社内の多様性が必要です。家主側にも外国人を『マーケット』としてとらえる感覚が広まっていると思います」(後藤さん)

<拡大するマーケットは先進国第4位?>
それでは、実際、どのくらい「日本在住の外国人マーケット」は拡大しているのでしょうか。それをうかがわせるデータがあります。法務省がまとめる「出入国管理統計」によると、1年間に新規に入国した外国人のうち、滞在期間が90日を超える人が増加し続けているのです。

2017年には約47万4000人。前の年より4万7000人増加しています。

実は、この統計はOECD(=経済協力開発機構)が毎年、世界の移民についてまとめている報告書では、2016年時点のデータの比較で、ドイツ、アメリカ、イギリスに次ぐ先進国4位にあたる水準になっています。

新しく日本で暮らし始める外国人が増加すれば、その分、ビジネスチャンスも広がると言えます。

<在留資格に長蛇の列>
ここに目をつけたのが、日本での在留資格の申請書類を作成するサービスを手がける「one visa」(東京・渋谷区)です。

inba190425.5.jpgCEOの岡村アルベルトさんは、自身も日系ペルー人として生まれ小学生の時に来日しました。その後、日本国籍を取得し大学卒業後、入国管理局の窓口で勤務した際に目にした光景から起業を思い立ったといいます。

外国人が日本に住むためには36種類の在留資格のうち何か1つを取得する必要があります。それぞれ期限が決まっているため、日本で働くためなどでそれを延長する手続きに毎日、多くの人が訪れ、長蛇の列ができていたのです。

その数、実に1日平均1000人で、待ち時間は4時間に及ぶこともしばしばだったといいます。
岡村さんが目をつけたのが申請書類の不備が多いこと。法務省の書式では、英語の表記はあるものの外国人にはどこに何を書くのかわかりにくい項目があり、誤って記入する人が多いと指摘します。そこで、ネット上のフォームに雇用する企業と外国人従業員双方が、情報を入力すると来日する際や更新の際に自動的に在留資格の申請書類を作成できるサービスを開発したのです。

主な顧客は外国人を社員として採用している日本企業です。「顧客の9割はIT企業で、日本人のエンジニアが採用できないので外国人を採用しているのです」(岡村さん)

平成29年にサービスの提供を始め、今では約380社が利用しています。

<外国人社員急増で住宅ローンも>
実は今、国内の企業の間で外国人を社員として採用する動きは広がり始めています。企業の社員が取得する「技術・人文知識・国際業務」という在留資格を持って働く外国人は、去年10月末時点で21万3000人余り。日本で働く外国人の14%を占め、4年間で10万人以上、およそ2倍に急増しています。

inba190425.6.jpgここに注目したのが「東京スター銀行」(本店:東京・港区)で、平成29年から「永住者」の在留資格を持たない人向けの住宅ローンを始めました。

というのも、多くの金融機関では、外国人がマンションや戸建て住宅を買うためにローンを借りようとする際に、在留期間の制限がない「永住者」の資格を持っていることなどを条件としています。返済期間中に帰国して貸し倒れになることを防ぐためです。

inba190425.7.jpgしかし、東京スター銀行では、「永住者」でなくても日本で長期間、住み続けたいというニーズがあることや、仮にローン返済中に帰国しても物件を売却して一括返済できるので貸し倒れのリスクは少ないと導入したのです。

実際にローンを借りて埼玉県草加市のマンションを購入した中国人の男性は、去年、子どもが産まれたことをきっかけに購入を決めたと次のように話してくれました。

「便利で安全だし子どもには日本で育ってほしいです。それに中国と比べて日本は金利も安いし北京や上海などの大都市と比べて物件価格も低い。周りにも住宅を購入した中国人の知り合いが多くいます」

銀行では、ことし、個人客部門の中で「外国人マーケット」を重要ターゲットの1つに位置づけました。

「日本に根づいて生活する人たちをターゲットにしていますが今後さらに右肩上がりに増えていくことが予想されますし、住宅ローンだけでなく保険など、ライフイベントに応じて提供できる金融サービスはもっとあると考えています」(ローン提携推進部次長 椙山淳さん)

<マーケットは今後も拡大?>
各企業はさらなる事業拡大も図っています。念頭にあるのは外国人材の受け入れを拡大するため4月から始まった「特定技能」の制度です。

「one visa」では、金融機関と提携し、在留資格の申請の際に入力する情報を元に銀行口座の開設やクレジットカードの発行の申し込みができるサービスを提供することにしています。

また、「グローバルトラストネットワークス」では、「特定技能」の受け入れ企業に代わって外国人を支援する「登録支援機関」として事業展開する方針です。24時間態勢で住居に関する相談窓口を運営してきた実績を生かし、来日した外国人材の生活をサポートしようというのです。

「『外国人マーケット』は出身国によってニーズも違い事業展開は簡単ではありません。ただ、拡大が見込める未開拓の市場なので今後も参入する企業は増えてパイの奪い合いが生まれるでしょう」(後藤社長)

企業の間では、日本に住む外国人を「いずれは帰国する人たち」と捉えるのではなく、「中長期的に暮らす人」としてビジネスチャンスを見いだす動きが広がっています。「労働力」だけではなく「生活者」としての存在感は今後も大きくなっていきそうです。

NHKでは全国の外国人住民が抱える悩みや、外国人材の受け入れに関して取材してほしいことを募集しています。投稿はこちらからお願いします。
https://www.nhk.or.jp/d-navi/izon/form.html

投稿者:伊賀亮人 | 投稿時間:12時35分

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