2017年10月31日 (火)運転中になぜキレやすい?


※2017年10月17日にNHK News Up に掲載されました。

東名高速道路でワゴン車が大型トラックに追突され、夫婦2人が死亡した事故で、別の車でワゴン車の走行を妨害したとして25歳の男が逮捕されました。男は、現場手前のパーキングエリアで通行の妨げになると注意されたことに腹を立てたことから、妨害する行為に及んだと見られています。車を運転中にささいなことで腹を立て、攻撃的になる人を見かけた人もいるかと思いますが、ドライバーはなぜ怒りやすくなるのか取材しました。

ネットワーク報道部記者 管野彰彦・野田綾
首都圏放送センター記者 間野まりえ

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<”覚醒水準”高くなり怒り増幅>
交通心理学が専門の実践女子大学の松浦常夫教授は、怒りの感情が高まって交通トラブルが犯罪行為に発展する現象は「ロードレイジ」と呼ばれていると指摘します。

松浦教授は「高速道路を運転する時は、スピードを出して移動することで脈拍や血圧が上がるなど、神経が高ぶり、より感情的になりやすい。これを心理学では『覚醒水準が高い状態』と言い、この状態で、ほかの車が割り込んできたり、進路を邪魔されたりすると怒りの感情が出やすくなる」と指摘します。

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<実践女子大学 松浦常夫教授>
また、高速道路の場面にかぎらず、走行中は、ほかの車と意思疎通を図るのが難しいため、威嚇されたなどと誤解しやすくなると言います。例えば、軽く注意を促すつもりでパッシングされたとしても「挑発された」と感じたり、前の車が無意識に車線変更してきた時に「邪魔をされた」と思ったりするというのです。

そのうえで、松浦教授は「もともと運転中は自分の部屋にいるような錯覚に陥りやすく、好きなようにふるまうことができると思いやすくなる。こうした状況の中でほかの車が自分の意図に反する行動をとると、攻撃的な意図がなくても、被害を受けたという錯覚が生まれ、そのことが怒りを増幅させることになる」と指摘します。


<半数以上が「運転中にあおられた」>
JAF=日本自動車連盟のアンケートでは、回答したドライバーの半数以上が、運転中に後ろからほかのドライバーにあおられた経験があると答えています。JAFは去年6月、全国の自動車ユーザーを対象に、インターネットを通じて交通マナーに関するアンケートを実施し、6万4677人から回答を得ました。
この中で、運転中に後ろからほかのドライバーにあおられた経験があるかどうか聞いたところ、「よくある」と答えた人は7.9%、「時々ある」と答えた人は46.6%で、合わせて半数以上の人があおられた経験があるということです。

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<感情をどうコントロールするのか>
岐阜県各務原市にある「那加自動車学校」では、ドライバーの感情をコントロールする方法を指導しています。
運送業者などからの依頼を受けて、受講生に教習コースを走行してもらい、その際に、助手席に乗った教官が「急いで運転して」などと、あえて焦らせる発言をして安全運転ができるのかを確認しています。この講習で、多くのドライバーが左右の安全確認を忘れるなど感情の乱れからいつもどおりの運転ができなくなるということです。

この自動車学校では、ドライバーに対し、運転中に怒りを覚えた時は事故の危険が高くなるとして、短い時間、気を紛らわせて怒りの感情を抑えるよう呼びかけています。具体的には、その時に感じたことを言葉に出すことで感情を落ち着かせるというもので、自動車学校によりますと心理学の分野で「カタルシス効果」と呼ばれているということです。

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<イライラを6秒あけて冷静に>
怒りの感情と上手に向き合うための心理トレーニングの普及を行っている東京・港区の日本アンガーマネジメント協会も言葉に出して気持ちを落ち着かせる「カタルシス効果」は、危険な運転を減らすのに重要だと指摘します。

un171017.5.jpg日本アンガーマネジメント協会の安藤俊介代表理事は、イライラした場合でも、6秒、間を置くことで多くの人は冷静になることができるので、その間に言葉に出して気持ちを落ち着かせるのが望ましいと言います。

その際に有効なのが、イライラする場合を想定して、自分自身にかける言葉をあらかじめ用意しておくことで、「大丈夫」とか「たいしたことない」といった、前向きな言葉を言い聞かせることが大切だといいます。また、温度計をイメージして、自分がどれくらい怒っているのかを客観的に考えることで、怒りを行動に移すのを避けることができると指摘します。

un171017.6.jpg安藤俊介 代表理事
安藤代表理事によりますと、特に自分の運転技術がうまいと思い込んでいる人や、ふだんおとなしい人、それにプライドが高い人が怒りやすくなる傾向があるということで、「そういった自覚がある人は、家族や大切なものの写真を手元に置いたり、車内に貼っておくことで、迷惑をかけたり失ったりするリスクが頭に浮かび、危険な運転の抑制になる」と話しています。


<トラブル回避の方法は?>
それでは、逆に危険な運転をする車に巻き込まれそうになった時には、どのように行動すればいいのか。

安藤代表理事は「後ろからあおられたり、前に割り込まれたりした時にも絶対に挑発に乗ってはいけない。危害を加えようとする相手から離れることが大切だ」と指摘します。

また実践女子大学の松浦常夫教授はトラブルを回避するための具体的な回避行動について「危険を感じたらまずは逃げることが大事で、自分の車を路肩に寄せて先に危険な車を行かせるなどして接触を避けるようにしてほしい。それができない場合には車の外に出ずに、車内で警察などに連絡するべきだ」と指摘します。


<悲劇を繰り返さないために>
車を運転していると、幅寄せやあおりなどの乱暴な運転をされて、イラッとすることがあると思います。

un171017.7.jpgしかし、今回の東名高速道路での事故に見られるように、交通トラブルは一歩間違えれば、大惨事につながりかねず、その代償は極めて大きくなります。

今回のような悲劇を繰り返さないためにも、運転手一人一人が心に余裕を持って、安全運転を心がけることが何よりも求められています。

投稿者:管野彰彦 | 投稿時間:16時14分

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