2018年10月10日 (水)もう1つの居場所


※2018年8月31日にNHK News Up に掲載されました。

学校に行くのがつらい、しんどい、憂うつ…。夏休みが終わるこの時期、学校に行くのがつらくて悩んでいる子どもたちがいます。そうした悩みを抱えている子どもとつながって、悲しい出来事を少しでも減らしたいと、無料で居場所を提供して相談に乗る取り組みが広がっています。「フリースクール」がその1つです。

ネットワーク報道部記者 大窪奈緒子

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<「フリースクール」ってこんな所>
フリースクールとは不登校の子どもを支援する場所です。そして、今のような夏休みの前後に無料で過ごせるようにしている所も多くあります。

NPO法人「フリースクール全国ネットワーク」によりますと、フリースクールは今、全国に470か所ほどあるそうです。

そのうちの1つ、川崎市のフリースクール「フリースペースえん」を取材しました。

ここには、毎日、不登校の子どもなど40人前後が通ってきます。本を読んだり楽器を演奏したりゲームをしたり、みな思い思いに過ごします。

mou180831.2.jpgお昼ごはんはスタッフと子どもたちで毎日手作り。記者が訪れた日のメニューは、野菜たっぷりの冷製うどんでした。あっけらかんとするほど明るい雰囲気で、うどんを食べながらの食卓は笑顔や会話があふれていました。

mou180831.3.jpgこのフリースクールを運営するNPO法人「フリースペースたまりば」では、この時期、無料の電話・来所相談を行っています。
また、同じくこのNPOが運営を手がける子どもの遊び場「川崎市子ども夢パーク」でも、屋内外の施設で夏休み明けの子どもがゆったりと過ごすことができるようにしています。

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<今ここにある命に向き合って>
このNPOの理事長で、長年、不登校の子どもや保護者の相談に応じてきた西野博之さんは、「『学校って、命を削ってまで行かなければならない場所ではないよ』と伝えたい」と話します。そして、「今、君が生きているだけですてきなんだよ」ということを子どもたちに伝えたいといいます。

mou180831.5.jpg不登校の子どもの親に対しては、どのような思いがあるのでしょうか?

「子どもが誕生した瞬間の、ただただ命があることを願ったその気持ちを、もう一度思い返してほしい。もっと上手に、人と同じように、もっと、もっと、もっと。子どもに、求めてばかりになっていませんか?まず、『生きていてくれてありがとう。あなたが生きていてくれて幸せだよ』という気持ちを思い返して、言葉や行動にして、子どもを否定するのではなく、ありのまま受け止めてあげてほしい。安心感に包まれ、心と体を休められたら、子どもはいずれ、自分で考え、また自分の足で立ち、物事に挑戦し出します。そういう例を32年間、たくさん見てきました」(西野博之さん)

mou180831.6.jpgそして、改めて、思い悩んでいる子どもたちに向けては。

「どう親に気持ちを伝えても分かってもらえず、厳しい言葉や攻撃を受ける緊急の時もあるよね。悲しいけれど、そんな時は無理やり親に分かってもらおうとはせずに、いったん、目を外に向けてみよう。親以外でも、素の自分を受け入れてくれる大人も必ずいるから。そこは諦めず、探してみよう。どうしても困ったら、僕たちの所にでも相談してみてね」(西野博之さん)


<17歳の女の子が伝えたいこと>
このフリースクールに5年前から通う、17歳の「なーちゃん」(「えん」での通称)にも話を聞きました。

mou180831.7.jpgなーちゃんは、学校の雰囲気や生活になじめず、小学生のとき不登校になり、それ以来、学校には通っていません。

なーちゃんにとって、このフリースクールは、「年齢や肌の色、障害にかかわらず、みんなが平等に過ごせる場所」だと言います。

スタッフや友人を親戚のように感じているそうで、西野理事長は「面倒見がよく世話焼きな親戚のおじちゃんみたいな人」(なーちゃん)

今、なーちゃんは、週に2回から4回ほどカフェでアルバイトをしています。「接客もそんなに苦じゃない。まぁまぁやれてるかな」と語るなーちゃん。

夏休み明けの前後、学校に行くのに苦しんでいる子どもたちに向けて伝えたいことを尋ねると、次のようなメッセージをくれました。

「ありきたりな言葉になっちゃうかもしれないけど、居場所は学校と家だけじゃないよ。実は居場所を提供してくれる所は社会にたくさんある。視野をもっと広く持ってほしい。逃げると、いろんな人にいろいろ言われて大変だよね。けど、逃げることは、人生にさじを投げることじゃなくて、いったんその場から離れてみることだと思うんだ。疲れたら、いったん立ち止まってみるのも大事なのかなと思う。今はちょっとしんどいかもしれないけど、絶対大丈夫だから、生きていてほしい」(なーちゃん)


<ほかにも居場所はあるよ>
近くにあるフリースクールの詳細や、学校とのやり取りのしかたについては、「フリースクール全国ネットワーク」に問い合わせてみてください。
(電話:03-5924-0525)
(平日の午前10時~午後6時)

こうしたフリースクールのほかにも、児童館や図書館で、そして最近では子ども食堂などでも居場所を作って、子どもたちを待っています。

mou180831.8.jpg画像提供:児童健全育成推進財団
児童館は全国で4600か所以上。

「居る所がなかったら児童館に行ってみよう」「しんどくなる前においでよ」とメッセージを出しています。

今、1人ぼっちで、誰も分かってくれないと感じている。そんな子どもたちとつながりたい。そう思っているたくさんの人たちがいて、居場所もあること。
ふとしたときに思い出していただけたらと思います。

投稿者:大窪奈緒子 | 投稿時間:16時35分

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