2018年05月21日 (月)おなか痛いをわかってほしい
※2018年4月26日にNHK News Up に掲載されました。
小学校や幼稚園、保育園に入ったばかりの子どもが口にする「おなかが痛い」。
そのつらさをわかってあげて、というツイートが話題になっています。
私も同じ体験をしたばかり。
“おなか痛い”の原因は私にもあったのかもしれません。
ネットワーク報道部記者 戸田有紀・管野彰彦・栗原岳史
<突然の“おなか痛い”>
「おなかが痛いの」
今月、3歳の娘が突然、言いだしました。
明らかに食欲はなく、元気もなさそうです。実は、4月から保育園の園舎が変わり、通い慣れた場所とは別のところに通い始めたばかりでした。
クラスが合同になって、子どもの数は倍に。担任の先生も、看護師や調理師の職員も、教室も遊ぶおもちゃもすべて変わりました。
当初は緊張していたものの、2週間ほどたち新しい友達もできて、元気に通っているように見えた、そのやさきでした。
しばらく様子を見ていましたが、「おなかが痛い」と繰り返します。夕飯に出した大好きなカレーライスも残してしまい、自分からベッドに行って寝てしまいました。
<ネット上でも“おなか痛い”>
この“おなか痛い”。ネット上でも話題になっています。
「新学期になって、『お腹が痛い』という新小1や新幼稚園児が増えています。その痛みは本物です。『痛いね、辛いね』と共感してください」
この投稿に8000件を超えるリツイートがありました。
「自分も子どものとき、お母さんに『お腹痛いから無理しないで休もうね』って言われてすごく救われました」
「『嫌だ』という子のほとんどは保育園などが嫌なのではない。家庭の居心地の良さを求めている子が多い」などなど。
自分も経験したという話、子どもへの対応方法など意見はさまざまですが、読み込んでみると、“おなか痛い”を経験した人や、親となってから“おなか痛い”の対応に苦慮した人がたくさんいることがうかがえました。
<ストレスも、食事の変化も>
なぜ、この時期に腹痛が起きるのか。
「新しい環境へのストレス、また食べ慣れた家庭での食事から給食に切り替わるような変化で腹痛となることがあります」
腸内の免疫の働きに詳しい、理化学研究所・生命医科学研究センターのチームリーダー、大野博司さんの話です。
大野博司さん
ポイントは胃酸の分泌や腸内細菌の状態。慣れない環境での生活が続くことでストレスがたまったり、また食事がこれまでと変わったりすることで、胃酸の分泌量が増えて粘膜を傷つけたり、腸内細菌のバランスが崩れたりすることがあるそうです。
こうした状態が一時的な腹痛や下痢を引き起こすことがあり、体が環境に適応していくと治るケースが多いと話していました。
「特にストレスは胃潰瘍など、胃腸の異変を来すことは動物実験でも証明されています」
「小さな子どもでもストレスがおなかに影響する、それは肝に銘じてほしいです」
<子どもは表現できない>
子どもは、ほかにも不安を抱えていると指摘する専門家もいます。
養護教諭を務めた経験があるNPO法人「子育てひろばほわほわ」の顧問、永瀬春美さんにも話をきいてみました。
永瀬さんはまず、“おなか痛い”には病気の可能性もあるので診察を受けることが大事だと考えています。そのうえで慣れない新生活に加え、「不安な気持ちを表現できないこと」、それが重なって腹痛の症状が出ることがあるとみています。
<わかってもらえないジレンマ>
「表現できない」とは例えば次のようなケースです。
「日頃の親子関係の中で、子どもに『そんなこと言わないの』とか『平気、平気』などといって、不安な気持ちをうまく感じ取ってあげられないことがあります」
「すると、子どもは自分の気持ちが否定されたと感じます。そうした経験が積み重なると、感情を素直に表現できなくなってしまうんです」
不安な気持ちをわかってほしい→だけど、言ってもわかってもらえない。
新生活の不安にそのジレンマが加わって、腹痛を引き起こしていることもあるという指摘です。
<子ども本位で>
では、“おなか痛い”にどう対応すればいいのか。
大事なのは“子ども本位という姿勢”だと永瀬さんはアドバイスしています。
「『不安だよね』『何に困っているの?』といった言葉で、子ども本位になって不安な気持ちを認めてあげることです」
「不安を子どもひとりに抱え込ませないこと。親が寄り添っているという姿勢を示すだけで、安心して症状が緩和されることもあるんです」
<完璧な子育てはない>
慣れない新生活、表現できない不安、それに加えてもう一つ、永瀬さんが不安に思っていることがあります。
「学校や保育園を、自分の子育てがいいのか悪いのかを、評価される場所のように感じてしまう人がいます」
「例えば子どもが保育園や学校になじめないでいると、『自分の育児は失敗したのではないか』そう思ってしまう。それは強いストレスになり、小さな子どもも敏感にそれを感じとります。結果として子どもにもストレスを与えてしまうことがあるんです」
“すべてがうまくいく、完璧な子育てなど絶対にない“、それをわかってほしいと強調していました。
「完璧でなくても子どもは自分の力で成長していくので、信じてあげることも必要です。子どもは親を見てまねをするので、まずは、自分が思っていることをちゃんと言葉にして伝えていくことを心がけてほしい」
<ごめんね>
「おなかが痛い」と言っていた娘。夜中になると体が熱っぽくなり、計ると38度の熱がありました。
翌日に行った病院での診断は、「胃腸炎の典型的な症状」。
思えば新年度、仕事が忙しくなった時、「保育園で頑張ろうね」と娘に何回も言い聞かせるように声をかけていました。新しい環境で緊張しても、なかなか親に甘えられなかったのかもしれません。
「おなか痛い」は、単なる胃腸炎でなく、そんな娘のメッセージでもあったのでしょうか。仕事を少し休んで一緒にいる時間を増やしました。
「おなかが痛いの」から10日。娘はすっかり元気になり「新しいお友達の名前、ぜーんぶ覚えたよ!」と張り切って、いま、保育園に通っています。
投稿者:戸田 有紀 | 投稿時間:14時56分