2015年05月13日 (水)発達障害の苦しみ乗り越え 歌うピアニスト


発達障害のあるピアニストの活動が注目を集めています。
オリジナル曲に加え、最近では大人になるまで障害だとわからずに苦しんでいたというみずからの経験をもとにした歌を作り、コンサートなどで披露しています。
歌に込められた思いを取材しました。

piano13.jpg※取材は、2015年5月に東京で開かれた初めてのコンサートの前後に行いました。

【22歳で診断された発達障害】

活動しているのは、宮崎市のピアニスト、野田あすかさん(34)です。
野田さんは、自閉症スペクトラム障害と呼ばれるコミュニケーションがうまく取れない発達障害があります。

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しかし、障害があると診断されたのは22歳の時でした。
小学生のころからから、なぜ人と同じようにできないのか苦しみました。苦手だったのは、作業がつきものの図工と体を動かす体育。猛練習をしてがんばりましたが、それでもできませんでした。

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診断されたとき、あすかさんはほっとしたといいます。



【生きるためのメロディ】

あすかさんの自作の歌はいま2つあります。
最初に作ったのが「生きるためのメロディ」。

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歌詞は音楽ができる過程になぞらえて自分を肯定する内容です。


背伸びして みんなと同じになりたくて 
自分につらく あたった日々
 「くやしいよ」って いつも思った

と過去を振り返りながら、


こころに音が生まれたよ 
キラキラ光る それぞれの音 
ひとつとして同じ音はない ひとりひとりがもつ音

そして



こころに リズムが生まれたよ 
楽しくはずんでる それぞれのリズム

と続け、最後に


こころにメロディが生まれた きれいに流れる 自分のメロディ 
みんなとは少し違うけど 私だけの音楽 
この音楽を 大切にしよう 
人と自分が 違っても 
それがきっと 生きるということ

と結んでいます。

この歌は知的障害のある人たちの心に響き、合唱曲として歌われるようになっています。


【手紙~小さいころの私へ~】

去年作った新作は、「手紙~小さいころの私へ~」です。

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歌詞はあなたには味方がいると励ます内容です。


まわりと違う動きして 
いつの間にか ひとぢぼっち 
みんなについていこうと 
必死にもがいている

とか



まわりを 怒らせてしまう 
人の目が 気になってきて 
みんなが 自分をどう思うか 
ビクビクしてる

などという過去の合間に


でもね まわりを よく見てごらん 
あなたを 見守っている人が 
こんなにたくさん いること 
あなたに 気づいてほしい 

あなたが まわりに怒られていても 
ずっと味方でいる人 
あなたは あなたのままでいいんだよって 言ってくれるよ

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と味方の存在を伝え、最後に


あなたは ここにいるよ 
あなたは 愛されてる

と結んでいます。



【会場からは感動の声】

コンサートで歌を聴いた観客の女性は、「心に響くピアノで涙が出そうになった。歌も声もすごく澄み通っている感じがし、ピアノも柔らかいので聞き心地がよかった。つい息子にはがんばれがんばれと言ってしまうが、ありのままでいいんだといつも立ち止まって心に留めて子育てをしていきたい」と話していました。

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また別の女性は、「あすかさんがすごく明るいので、ピアノのコンサートを聴きに来たというより、ライブのようにみなさんと会話し笑いながら楽しい時間を過ごせた。自分も身体障害があって杖をついていて、早く走れないなどと悩んだことがあったので歌にはすごく共感した。ぜひこれはいっぱい伝えていってほしい」と話していました。

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【歌は娘そのもの、「相談できる」と伝われば】


ステージの傍らであすかさんを見守っていた父親の福徳さんにも話しを聞きました

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福徳さんは、「明るくて、親の言うことはよく聞き、学校の成績もそれほど悪くはなかったので順調に育っていると思っていた。診断後、娘から初めて、子どものころから苦しんできたことを打ち明けられ、猛省した。今になってみれば、歩き出すのが遅いとか、人の顔をまともに見ないなどの兆候があったということになるが、ちょっと変わった子というイメージしかなかった。発達障害とわかっていればそれなりの対処ができたと思う。
『生きるためのメロディ』は娘そのものだと思うので、それに共感してくれる人がいるのはうれしい。
『手紙』は、娘は今になって思えば周りにはたくさん助けてくれる人がいたのになぜ相談できなかったんだろうと思ったことを書いているようだ。相談できずにいる子どもたちにそのメッセージが伝わればいい」と話していました。


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【取材後記】

苦しみを知るからこそ、あすかさんが奏でる曲、歌う歌には人の心を打つ魅力があります。
あすかさんに今後の抱負を聞くと、「たくさん曲を書き、歌を作り、歌っていきますよ、ふふふ」と話してくれました。
コンサートはあすかさんが曲や歌を楽しく紹介しながら進行し、会場からは涙と笑顔が交互に見られたのが印象的でした。
あすかさんの曲や歌の一部は、公式ホームページで聞くことができます(「野田あすか」で検索すると表示されるあすかさんのブログからたどれます)。
また、今月下旬にはあすかさんのこれまでを綴り、曲や歌を収録したCDブックが発売されるということです。
多くの人にあすかさんのメッセージが届きますように。

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投稿者:三瓶佑樹 | 投稿時間:08時00分

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