2014年08月01日 (金)「イクメン」直面 "子離れ"の壁
子育てに積極的に関わる「イクメン」という言葉が誕生して約10年。ブームの先駆けとなったイクメン第一世代の子どもたちは10歳前後に成長し、「思春期」にさしかかっています。そこで直面しているのが新たな子育ての壁、“子離れ”です。
【“子離れ”がテーマ 思春期のシンポジウム】
6月27日、三重県四日市市で父親に向けたシンポジウムが開かれました。テーマは「子どもの思春期」。
平日の夜に開催されたシンポジウムにも関わらず、仕事を切り上げて集まったのは、育児に全力投球してきた全国の「イクメン」たち約80人で、いずれも「子離れ」という問題に直面していました。子どもとずっと密接に関わってきただけに、思春期特有の子どもの変化に戸惑いを隠せないのです。
パネリストとして参加した小学6年生の娘がいる男性は「ずっと楽しい生活だったんですけど、去年の暮れ頃から、娘が鋭い目つきをすることが増えて・・・」と、困惑気味に近況を話しました。
また、千葉県から来た中学2年生の娘がいる男性は、「最近の会話は必要最低限、安否確認のようなやりとりばかりです」と話してくれました。
東京から駆けつけた小学6年生の娘がいる男性は「今までずっと近くにいたのに、急に、娘から離れられる感じが、思春期とは分かっていても寂しいです。心が痛いですね」と、寂しそうに話してくれました。
【イクメンの戸惑い】
「子離れ」の問題に直面している一人、大阪・岸和田市から参加した桜井一宇(かずたか)さんです。2人の娘がいる桜井さんは、専門商社に勤務しながら、保育士として働く妻と、保育園の送迎や食事作りを分担してきました。その桜井さんが、今、悩んでいるのは、10歳の長女・こころさんとの距離です。
こころさんが生まれたときからおむつを替え、食事の世話をし、子育てをしてきた桜井さん。こころさんとはどこに行くにも一緒で娘の成長に大きな喜びを感じてきました。娘のためになるならば・・・と、桜井さんは、この4年間、学童保育に参加したり、PTA役員を務めたりして、自分の働き方や生活も大きく変えてきました。
2年前、小学2年生のこころさんが描いた「パパ大好き」という絵は桜井さんの宝物です。
しかし、こころさんが小学校高学年にさしかかり、最近急に素っ気なくなり、心を痛めています。
この日は、桜井さんが自慢のたこ焼きを振る舞おうとしましたが…。
父「せっかくやから食べようや、 自分で焼く?」
娘「置いといて」
父「はい…」
娘「ああ、もうやだ、頑張れ」
こころさんは、早々に食卓を離れてしまいました。
この年頃では当たり前の反応でも、子どもとの時間を何より大切にしてきた桜井さんには胸に刺さります。
会話にも気を遣います。
父「きょう学校どうやった?」
娘「楽しかったよ」
父「ほんまに楽しかった?給食も残さんと食べた?」
娘「(首を横にふる)」
父「何残した?」
娘「・・・トマト」給食のトマトを残したというこころさん、桜井さん、以前なら注意していましたが…。
父「嫌いやもんな・・・」今は注意することもためらってしまいます。
ぎこちないやりとりについて記者が質問すると、桜井さんは、「最近の娘との関係、切ないですね。今はかろうじて距離を保っている、頑張っている感じです。娘には嫌われたくないですね」と話してくれました。【“これまでと違う役割を”】
シンポジウムを主催した1人、大阪教育大学の小崎恭弘准教授は、思春期以降、イクメンには、これまでと違った役割が求められると指摘しています。
「今のイクメンたちがすごく悩んでいるのは、子育てを一生懸命やっているからなんです。思春期と言うのは、子ども自身も「親離れ」、 親自身も「子離れ」をしていく良いタイミングだと思います。適切なタイミングで、子どもたちの成長に合わせて、『それはだめよ』とか、『やったらいけないよ』とか、『社会にはルールがある』、『ここは頑張らないといけない』など、父性的な関わりをしていくことが大切です」と説明してくれました。(夫婦向かい合う)
10歳の娘、こころさんとの距離に悩む桜井さん。シンポジウムをきかっけに、今後の娘との関わり方について、初めて妻と2人で話をしました。妻「ここぞという時に“ばしっ”て言ってきくのがパパのひと言でしょ」
夫「なるほどな・・・」
妻「私はそうあってほしいと思う」
夫「子どもに“ばしっ”と言ってほしい?」
妻「遠慮するばかりではなくて、必要な時にはね」
夫婦での話し合いの後、桜井さんは、「寂しいけど・・・これから子離れ、本当ですね。子離れしなといけないですね」と話し、子どもの成長に合わせて、娘との接し方を変えていく必要があると感じ始めています。【“子離れ” 母親だけでなくイクメンの悩みに】
「子離れ」の悩みは、これまで母親の悩みとして語られてきましたが、桜井さんのようなイクメンは、自分の働き方や生活まで変え、育児を真剣にやってきたいわば初めてのパパ世代。子育てに対する自信も 思い入れも強い分、年頃の子どもが親と距離を置こうとすることに、過剰に反応してしまうようです。
熱心なイクメンたちだからこその悩み、どう乗り越えたらいいか、小崎准教授にポイントを聞きました。
≪“お父さんがイヤ”=子育て成功 子どもの成長の証し≫
子どもの思春期はイクメンにとっては「子離れ」の第一歩です。子どもが親と距離を置くのは、大切な成長の過程だと認識し、恐れずに受け止めること。「お父さんがイヤ」と言われたり反抗してきたりしたら子育ては成功、子どもがしっかり成長している証しで、いずれ、その時期は通り過ぎるので安心して欲しいということでした。≪夫婦で協力し乗り越える≫
そして、重要になるのは、「夫婦の協力」です。思春期は、子育てが一番難しい時期で、乗り越えるためには夫婦の連携が欠かせません。イクメンかどうかに関わらず、これまで子育てに関わってこなかった男性も、『思春期からが、子育ての正念場』だと捉え、まず、妻の話に耳を傾け、支えることから始めて欲しい、ということでした。
【取材後記】
「地震、雷、火事、親父」
かつて、父親は「怖いものの例え」の一つとして表現されていました。また、「男性は外で働き、女性は家を守る」という家庭も多く、「父親=父性」、「母親=母性」と役割もわかりやすい形でした。しかし、最近は、働く女性が増え、働いていない女性も社会と積極的に関わる機会が増えています。また、仕事と同じくらい家庭を大事にする男性も増えています。このため、育児する上で、特に、子育てが難しい局面では、父親、母親、それぞれが子どもとどう接していくか、夫婦で作戦を話し合うことが、より大切になっているそうです。
取材の中で小崎准教授は次のようにも話していました。
「子どもの思春期を見ながら、『自分もこんな時期があったな・・』と思う人も多いと思います。もし、自分が親になり、親に感謝する思いを持てるのであれば、その思いや気持ちを子どもたちに見せてあげるのが大事です。“子どもには愛されたいけど、自分は親と仲が悪い”では、子どもたちは、それをモデルにします」
子どもが思春期にさしかかったら、家族や生き方を捉え直し、子どもたちにも思いを伝えたり見せたりする機会にできれば、父親たちにとっても、子どもの思春期は意味のあるものになってくるのではないかということでした。
投稿者:清有美子 | 投稿時間:08時10分