2018年12月07日 (金)パートさんが姿消す季節...


※2018年10月29日にNHK News Up に掲載されました。

「年末近いので、パートさんがそろそろ姿を消す季節…」

こんなつぶやきが最近ネットで目立つようになりました。
配偶者の収入などによって、税の軽減措置がなくなったり、社会保険料の負担が生じたりする、いわゆる「103万円の壁」や「社会保険の壁」。

年収が確定する年末を控えて、働く側、雇う側、双方がどう対応するか頭を悩ませています。ことしは例年にもまして、悩みは大きいようなのです。

ネットワーク報道部記者 和田麻子・大窪奈緒子・飯田耕太

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<「危うし」「もう働けない」>
「103万の壁、すでに危うし(笑)…」
「年末近いので、ナースのパートさんがそろそろ姿を消す季節。
今月の給料日にすでに100万円超えているとのこと。
あとは半日勤務を数日間しか働けないらしい」

このところ、ネット上で相次ぐ「パート」の働き方をめぐる書き込み。

「103万円の壁」は、所得税の「配偶者控除」で、妻がパートタイムで働くなどして年間の給与収入が103万円以下であれば、夫の所得から一律38万円を控除、差し引いて税の負担が軽減される制度。

par181029.2.jpgことしから150万円までに引き上げられ、いわゆる「103万円の壁」はありませんが、企業が支給している「配偶者手当」について「配偶者の年収が103万円以下」という制限を設けているところもあります。

人事院の職種別民間給与実態調査では、家族手当を支給する企業のおよそ8割が、配偶者の年収制限を設けていて、中でも収入の上限を103万円としているところは去年の時点で、63.2%にのぼっているという調査結果もあり、パートなどの「就業時間の調整」の原因ともなっています。


<「シフトが組めない!」>

par181029.3.jpg「本来5人、最低4人いなきゃ平日回らないのに調整で、パートが抜けて2人しかいないとか…」

都内のパンの製造工場で、労務管理をしている20代の女性社員。あまりの人手不足に頭を抱え、先週こんなツイートをしました。
中小企業のこの工場では、社員を含め、7人が働いていますが、ほとんどがパートの主婦だそうです。

毎月の工場のシフトを作る女性のもとには、来月11月分のシフトから「勤務時間の調整で、働きたくても働けない」という申し出が増え、ついぼやいてしまったと言います。
この女性は「工場では多くのパートさんが働いていますが、今は人手不足で、時給が上がっていることもあってか、例年より働く時間を調整する動きが早いと感じます」と話していました。

par181029.4.jpg工場で働くパートの人たちが気にしているのは「社会保険の壁」。

年間の収入が130万円以上(501人以上の企業であれば106万円以上)になると夫の扶養から外れ、保険料を自分で負担しなければならないというものです。

このため“上限内”に収まるよう、仕事を抑制するパートが相次いでいるといいます。目下の悩みは「制限のない人たちでどのようにシフトを組むか」。
この工場では、大量生産する機械などはなく、パン作りの工程はすべて手作業。ふだんなら製造と並行し、複数の人で異物の混入を防ぐためのチェックやトレー・排水設備などの清掃作業を行っていますが、今は人手が足りず、社員で残業をして清掃などをしているのが現状だということです。

この女性は「制度なので、しかたがないと思う反面、時給が上がっているのに人手不足になるという現状に対しては、もう少し対策があればなぁという気持ちです」と話していました。


<アルバイト学生の“壁”も>

par181029.5.jpg働き方の制約の問題は配偶者だけではありません。

「ことしから時給が100円近く上がり、アルバイト先の同僚が103万円の壁にぶつかって出勤できなくなっている。全然笑えない」

そう話すのは仙台市の21歳の女子大生です。この女子大生は企業で事務のアルバイトをしています。この春、バイト先の会社は、深刻な人手不足を受けて、時給を100円上げ、960円にしました。アルバイトは一気に15人ほど増えて、合わせて40人に。

しかし、思わぬ事態が起きました。年末が近づくとともにアルバイトを休まざるを得なくなった学生が4人ほどいるということです。

問題は親の「扶養控除」。学生の年間収入が103万円を超えると親の扶養控除の対象から外れてしまうのです。職場に残された女子大生は取引先に納入する商品の締め切りに間に合わせるため、大きな負担がかかっているといいます。

この女子大生は「仕事が終わらず、精神的に追い詰められます。残業が大幅に増えてしまいました。何とかしてほしい」と嘆いていました。


<時給アップのジレンマ>

par181029.6.jpg人手不足が深刻化する中で、パートやアルバイトの時給が上昇。
ことしは例年より早めに年収が軽減措置を受けられる上限に達してしまう可能性があります。

アルバイト求人情報サービス「an」によりますと、アルバイトやパートの時給は、人手不足を背景に、ことしの8月時点の全国平均で1030円と去年に比べて3%近く上昇しています。
実際にネット上では「時給が上がっても103万円の壁があるから働けないんだよね」とか、「10月にまた時給上がって、103万円の壁、既に危うし(笑)今回のシフトで休日2日追加に、次月のシフトは半月お休み」などという書き込みも見られます。

人手不足のため、時給アップしたのに働ける時間が制約されて、人手不足が解消しないというジレンマが起きているのです。


<長期的な視点も必要>

par181029.7.jpgファイナンシャル・プランナー(CFP認定者)の青野泰弘さんは「ことしから配偶者控除などの税制上の制度が変わったこともあり、よく調べないと自分がどれだけ働けるのか知ることが難しくなっている。夫がサラリーマンか、自営業かでも違うし、同じサラリーマンでも夫の給与収入によって働ける時間は違ってくる。社会保険労務士や税理士、ファイナンシャルプランナーなど制度に詳しい専門家に一度相談してほしい」と話しています。

また、「収入が増えて厚生年金を支払うようになると、短期的に見ると手取りが減ることもありますが、将来の備えで見るとプラスになっています。また、働く時間を増やすことが長期的に見てキャリア形成につながることもあります。働き方を考えることが、生き方や家族の在り方を見直すきっかけになればいいのではないでしょうか」と話していました。

投稿者:和田麻子 | 投稿時間:15時12分

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