2017年09月28日 (木) 女子学生に贈る言葉


※2017年7月3日にNHK News Up に掲載されました。

女子大学生たちが私に言った。
「結婚や出産後の働き方がどうなるのか心配です、家族との時間も大切にしたい」
その言葉を聞いた時、20年ほど前の自分を思い出した。当時は就職氷河期。結婚後のことを考える余裕もなかったし、ましてそんなこと聞いたら採用されないだろうと思い言えなかった。今も子育てとの両立は綱渡り。そんな私を「将来働くための参考にしたい」と女子大学生たちが家にやって来たのだ。

ネットワーク報道部 飯田暁子

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<“専業主婦になりたい”=尻込みする女子学生>
今の女子大学生は4人に1人が専業主婦になりたいみたいだ。就職情報会社の調査にそう出ていた。その理由を大学院生の新居日南恵さんはこう分析していた。
「社会に出る前に尻込みしてしまうんです」
“長時間労働”“保育園探し”“ワンオペ育児”
「仕事と子育ての両立は難しいという認識が広がり、未来のライフプランが描けない」
それが専業主婦になりたいという願望につながっているという。

そこで新居さんは大学生だった3年前「家族留学」という制度を立ち上げた。子育てをしながら働く女性の家に“短時間留学“し、実際の生活を見させてもらう。将来のライフプランを描くためのロールモデルを見つけるのが狙いということだった。


<家族留学 その実態は>

joji170703.2.jpg(左)徳永さん (右)瀬川さん
学生にわが家に来てもらう前に、別の家庭で家族留学を取材させてもらうことにした。

留学生は大学3年生の徳永萌夏さん。将来は管理職を目指したい、早く結婚も出産もしたいという活動的な学生だ。留学先は不動産情報を扱う会社で働いている瀬川真子さんの家。夫と5歳の長女がいる。

2人の待ち合わせは午後5時40分、瀬川さんの仕事帰りの駅。ここから3時間ほどの留学だ。帰宅ラッシュの中、2人で地下鉄に乗り込む。午後6時すぎには保育園に子どものお迎え。家までの10分ほどの時間にその日の出来事を聞く。

ちなみに毎朝5時に起き、その時に夕食も作って帰宅後、温めてすぐ食べられるようにしている。こうした工夫で、子どもとの時間を増やすのだ。

その夕食の時間。焼きうどんを食べながら、徳永さんが質問をした。
「家事育児の分担はどうしているのか」
瀬川さんは正直に答えてくれた。


<仕事と家庭 現実は>

joji170703.3.jpg朝は子どもを保育園に送るのは夫。ただ帰宅はほぼ終電。実質、家事育児のほとんどを私が担う。子どもと2人きりで精神的に苦しい。だから週1回、気晴らしに子どもと一緒に地域の交流スペースに顔を出し、夕食を食べる。

そして土日には数時間、夫が子育てを引き受ける。1人の時間もほしいから。
ただ「仕事にやりがいを感じ、結婚や出産はマイナスにしかならないと思っていたが、実際は視野が広がった」という。

それでも大変だと思ったのだろう、徳永さんは言った。
「就職先を選ぶ時、業種や待遇だけでなく、結婚出産後も働き続けられるように福利厚生の充実も重視したい」

「それは違う」
瀬川さんははっきりと言った。


<“自分の働きかけで変える”>

joji170703.4.jpg「大切なのは福利厚生の充実ではない。制度があっても周囲の理解がなければ使えないこともある。一方、仕事の進め方や人間関係は自分の働きかけで変えることもできる。1人だけしか分からない仕事をなくしたり、お互いに助け合うことを決めたりする。それができれば誰にとっても働きやすい職場になる」
勤めている会社に出産後も働いた例がなく、辞めて当然という雰囲気の中で道を切り開いてきた瀬川さん。その言葉には説得力があった。


<わが家に女子学生がやって来た>

joji170703.5.jpgいよいよわが家にも女子大学生がやって来た。しかも3人だ。大学4年生の中原真都香さん、3年生の稲永真守梨さん、それに代表の新居さん。

この日の家族留学は日曜日の午前10時から午後2時。わが家は夫と8歳、5歳の男の子2人の4人家族だが、この日は夫が仕事で“ワンオペ”の日だ。

朝から外は雨。元気をもてあましてけんかばかりしていた子どもたち。こんな様子を見て参考になるのだろうかと危ぶみつつも、社会に出る前にどんな不安を感じているのか、聞いてみることにした。

不安は主に2つ。1つは「子どもに寂しい思いをさせたくない」だった。
母親が専業主婦だったという中原さんは「母が自分にしてくれたことを働きながら子どもにしていく自信がない。小さいうちはそばにいてあげたい」と言った。
稲永さんも「祖父母が子どもと一緒にいてくれるとか助けてくれる人がいないと無理と思う」と言った。
そして2つめは「キャリアを築いても、結婚や出産で中断してしまう」という不安だ。
周りには「いっそのこと学生のうちに結婚、出産して子どもがある程度大きくなってから働き始めたい」という女子大学生もいるそうだ。多くの学生の声を聞いている代表の新居さんは「働く意欲がないのではない。長く働き続けたいからこそ学生のうちから結婚や出産について考えている。いろいろな家庭を見ることで、未来に安心感をもてるようにしていきたい」と話していた。

私の答えは「子育てをしていると以前と同じように働けないことはやむをえない。子育てを含め限られた時間の中で何をするかで勝負するしかない」。そして「仕事ばかり見ていた以前に比べ、地域に暮らす生活者として気付くこと、気になることは増えた。これを強みとしていきたい」ということだった。


<正解を探しながら歩く>

joji170703.6.jpg(中央)筆者
これは実は自分を励ます言葉でもある。情けないが未来に安心感を持てないのは私もいまだに同じだ。
仕事や子どもに対する考え方はさまざまで、ほかの人の成功例が必ずしも私に当てはまるわけではない。さらに病気、介護、会社の盛衰。思うようにならない要素が長く社会にいればいるほどいくつも出てくる。
働くということはそのたびごとの自分なりの正解探しと思う。つまるところ私も今の時点での正解を探しながら歩いているにすぎないのだ。


<“それぞれの正解を”>
それでもこれから社会に出て行く学生たちには「両立など無理」とはじめから諦めてほしくない。それぞれの正解を探してほしいと思う。
今の社会が不安でもそれは永遠に続くのではなく未来は変化していく。ほんの10年ほど前は子育てしながら働く人を探すのは一苦労だったが、今、風向きは変わり先例はどんどん出てきた。
変化のスピードは確実に早くなっている。働き続ける、その大変さも知っているから大丈夫、絶対にやっていけるよと簡単には言えない。だけどがんばってほしい。未来の社会を作っていけるのはこれから社会に出て行く人たちなのだから。

投稿者:飯田 暁子 | 投稿時間:16時38分

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