2019年08月22日 (木)女性だとAEDが使われない? 救命処置の男女差


※2019年5月8日にNHK News Up に掲載されました。

心停止となった人の心臓の動きを正常に戻す医療機器AED。しかし、倒れた人が女性だと、男性よりAEDが使われにくい。そんな調査結果がまとまりました。ネットの声を探ると女性の服を脱がせてAEDを使うことに抵抗やおそれがあるようです。

名古屋放送局記者 松岡康子
ネットワーク報道部記者 玉木香代子・飯田耕太

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<AEDの処置に男女差>
調査結果をまとめたのは京都大学などの研究グループです。全国の学校の構内で心停止となった子ども232人について、救急隊が到着する前にAEDのパッドが装着されたかどうかを調べたのです。(2008年~2015年)

jyosei190508.2.jpg学校にはAEDの設置が進んでいて、もしもの時にはすぐに使えるケースがほとんど。小学生と中学生では男女に有意な差はありませんでしたが、高校生になると大きな男女差が出ていました。

<使うことに抵抗感?>
AEDのパッドが貼られた割合は高校生・高専生で男子生徒83.2%、女子生徒55.6%とその差は30ポイント近くになります。

AEDのパッドは2枚あり、右胸の上と左の脇腹に直接、装着します。

jyosei190508.3.jpg「倒れた人が女性の場合、素肌を出してAEDを使うことに、一定の抵抗感があるのではないか」

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京都大学の研究グループ
研究グループはそう分析しています。このニュースが報道された後、ネット上でもそうした声があがっていました。

<トラブルおそれる>

「乳房があるので、正直どこへパッドを貼っていいか悩むし…服を脱がす事に抵抗がある」
助けたいけれど、消極的になってしまうという声。
「どうせ助かってもセクハラとか言って訴えられる」
「社会的地位を失う可能性のデメリットの方がデカイ」
女性との間でトラブルになることをおそれてしまうといった声もありました。女性にAEDを使うことで、訴えられることがあるのでしょうか。

<救命処置ならありえない>

「まず、ありえません」
答えてくれたのは日本AED財団の顧問を務める、武蔵野大学法学部特任教授の樋口範雄さんです。

jyosei190508.5.jpg武蔵野大学法学部 樋口範雄特任教授
「善意で人を助けるという救命処置の場合は、対象者を害するという悪意などがないかぎり、民事責任は問われることはありませんし罪になることもありません」
AEDは服をめくったり、開いたりして素肌に直接パッドを貼ります。命を救う目的であれば、責任を問われることはないという見解です。
「あとで何かあったらと、ネガティブな心理が働くのかもしれません。そうした時には倒れたのが自分だったら、もしくは娘や妻、母親だったらなどと逆の立場になって想像力を働かせてください。AEDを使う相手は意識もなく、1分1秒を争う緊急事態なんです」

<女性への配慮もできる>
倒れて意識がない女性に配慮をしながら救命処置を行う方法もあります。京都大学健康科学センターの石見拓教授に聞きました。

jyosei190508.6.jpg京都大学健康科学センター 石見拓教授
「服をすべて脱がす必要はないんです。AEDは電源を入れて2枚のパッドを素肌に貼りますが下着をずらして、貼ることで対応できます。またパッドを貼った後、その上から服などをかけて肌を隠すようにしてもAEDの機能に影響はないんです」

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上から服をかけてもAEDの機能に影響はない
また周りの人たちが人垣を作るという配慮もあります。心停止の状態で何もしないと、命が助かる確率は1分たつごとにおよそ10%ずつ下がっていきます。

石見教授は人が倒れた時の救命処置の方法として、
・声をかけ意識がなければ、まず119番に通報する
・近くの人にAEDを持ってきてもらうように頼む
・呼吸をしていない、またはよくわからなければ、胸骨圧迫=心臓マッサージを始める
・そしてAEDが届けられたら電源を入れ、迷わずAEDの音声に従って処置を続ける
そう話しています。

<女性への配慮考えた町>
ちょっとした工夫ですが、女性への救命処置の配慮を考えた町があります。

富山県立山町。町立の小中学校や体育館、それに公民館の合わせて20か所に設置されているAEDと一緒に、胸の部分を覆うための三角巾を配備しました。

jyosei190508.8.jpg左が三角巾
女性の肌が見えないような工夫が必要ではないか、という声を受けての対応で、けがをした時の止血にも使うことができます。今後、AEDを使った救命講習で活用することも検討しているそうです。
「三角巾がなくても、ちゅうちょせずにAEDを使ってもらうのが大前提ですが、女性の立場になって考えると必要な配慮だと思い、用意しました」(立山町教育委員会の担当者)

<助かる命を確実に>
男性と比べて女性はAEDなどが使われにくいという研究はフランスにもあり、欧州心臓病学会が3年前の「国際女性デー」(3月8日)で発表しています。

2011年から2014年にパリ周辺で心停止となったおよそ1万1000人のうち、女性でAEDの使用や心臓マッサージといった救命措置がとられたのは60%。男性より10ポイント低い結果で、残念ながら救命の可能性に、男女差が出ているのが現状です。

“倒れた人が自分の家族だったらどうするのか”

もしもの場面に遭遇した時、助かる命を確実に助けるために、そんな想像力を働かせてみてください。

投稿者:松岡康子 | 投稿時間:10時14分

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