2017年02月15日 (水)"薬が効かない" 広がる耐性菌の脅威


※2017年2月7日に「おはよう日本」で放送されました。

阿部
「皆さん、かぜを引いたら、どんな薬を飲んでいますか?」

20170207_01.jpg「前回引いたときは、抗生剤と吐き気止めと下痢止め。」
「抗生物質は、私は結構熱が出ますので、そのときは愛用しますね。」
「とても熱がすぐ下がってくるので、いいと思っては飲んでます。」

ちょっと待った!その薬、安易に飲んだらだめなんです。

阿部
「取材にあたった松岡記者です。」

松岡康子記者(名古屋局)
「抗生物質は、最近は『抗菌薬』とも呼ばれているんですが、細菌をやっつけるための薬なんですが、安易に飲み過ぎると、これまで治せていた病気が治せなくなってしまうおそれがあるんです。

20170207_04.jpg細菌は私たちの体の中に入ると、肺炎や中耳炎などの病気を引き起こすことがあります。
そうしたとき、抗菌薬を飲む方、多いですよね。
そうすると、細菌は死ぬわけです。
ですが、繰り返し使う中で、あるとき突然、菌自体が変化してしまい、薬が効かないタイプの菌が出現することがあるんです。

20170207_06.jpg
こういった菌を『耐性菌』と呼んでいるんです。
この耐性菌、抗菌薬が効かないだけに、重い症状を引き起こしてしまうことがあるんです。」

<まん延する耐性菌 突然重症に…>
聖路加国際病院 感染症科 古川恵一医師
「ものが二重に見える症状はいかがですか。」

20170207_07.jpg都内に住む、50代の男性です。
一昨年(2015年)、細菌が体中の臓器に感染し、生死の境をさまよいました。
今も後遺症が残っています。
首の痛みが2週間続いた後、仕事の帰りに突然意識を失い、救急車で運ばれました。
検査をすると、重い肺炎。

20170207_08.jpgさらに骨髄炎や髄膜炎。
心臓にも炎症を起こしていました。
血液を調べてみると、通常の薬が効かない細菌が見つかりました。

20170207_09.jpg今、日本でまん延している耐性菌、
「メチシリン耐性黄色ブドウ球菌」でした。

20170207_10.jpg聖路加国際病院 感染症科 古川恵一医師
「メチシリン耐性の黄色ブドウ球菌ということで、かなり重症、重篤であると印象を受けました。」

治療は困難を極め、集中治療室で3週間、退院までには2か月を要しました。
今、こうした耐性菌が増え、医療現場では対応に追われています。

聖路加国際病院 感染症科 古川恵一医師
「市中でいくつかの種類の耐性菌がだんだん増えてきている印象がある。より耐性菌を考えた治療を初期から行うことに、私どもは努めていきたい。」


<頼らざるを得ない 新たな抗菌薬>
薬を使う中で、次々と増えてきた耐性菌。
それでも頼らざるを得ないのが、新しい抗菌薬の開発です。

国は去年(2016年)5月、およそ2億円の予算をかけて対策に乗り出しました。
委託を受けた名古屋大学の研究グループは、新しい抗菌薬を生み出すための研究を急いでいます。

20170207_12.jpg抗菌薬の開発は滞っています。
承認された抗菌薬の数は、30年前から大幅に減少。
利益が見込めないことなどから、製薬会社が開発から手を引いているのです。

20170207_13.jpg名古屋大学 耐性菌制御学 荒川宜親教授
「きちっと治療できる薬を開発しないと、医療の根底が非常に脅かされる。少なくともこの先10年くらいで、使用のめどが立つような薬が見つかるといい。」


<抗菌薬の使い方 思わぬ落とし穴>
和久田
「薬が効かなくなった耐性菌と戦うためには、新しい抗菌薬を開発しなければならないし、それには時間がかかるんですね。」

阿部
「そして新しい抗菌薬ができたとしても、また新たな耐性菌が生まれるかもしれないということですね。」

松岡記者
「抗菌薬の開発は、これまでも耐性菌の出現とのいたちごっこだったんです。
そこで、使える薬を残そうと進められているのが、『今ある抗菌薬の使い方を見直すこと』なんです。

20170207_14.jpgこちら、ある感染症にかかった人です。
人の体の中には、もともとさまざまな菌がいて、今回はこの青い菌が悪さをしているとします。」

阿部
「そうすると、この青い菌をやっつければ治るということですね?」

松岡記者
「そうなんですが、実際には検査をしてみないと、どの菌が悪さをしているかというのは分からないんです。

20170207_15.jpgこういう時にどうするかというと、検査を省いて『ほかの菌もまとめてやっつけてしまおう』と、いろんな菌に効く抗菌薬を使っているケースが日本では多いんです。」

和久田
「でも、それで治るならいいんじゃないかという気もするんですけど。」

松岡記者
「そう思うんですが、よく見てください。
 何か残っているものがありますよね。

20170207_16.jpgこれが『耐性菌』なんです。
ほかの菌が死んでも、耐性菌だけが生き残ってしまうことがあるんです。

20170207_17.jpgこうなると大変で、ほかの菌がいなくなってできた空いたスペースに耐性菌が増殖してしまうんです。
なので、できるだけ、やっつけたい菌だけに効く抗菌薬を使うことが重要なんです。
取り組んでいる病院を取材しました。」


<“抗菌薬に頼らない” 動き出した現場>

20170207_18.jpg重症の子どもが多く入院する、静岡県立こども病院です。
3年前、医師や薬剤師、検査技師などからなる専門チームを結成。
抗菌薬が適正に使用されているか、チェックする役割を担っています。毎日、病棟を巡回。
この日、専門チームは、患者を診ている医師から抗菌薬を使うべきかどうか意見を求められました。

20170207_19.jpg患者を診療する医師
「3週間たってこの赤みなんで。」

静岡県立こども病院 抗菌薬適正使用チーム 荘司貴代医師
「ちょっと赤いよね。」

患者を診療する医師
「一応バンコ(抗菌薬)はやろうかと。」

チームは、患者の容体と治療経過を改めて確認。
今回のケースでは抗菌薬を使うことにしました。

20170207_21.jpg静岡県立こども病院 抗菌薬適正使用チーム 荘司貴代医師
「周囲が赤くてつらそうですね。分かりました。
医者は病気の子どもたちの安全を確保したいために、広い、どんなばい菌にも効く抗菌薬を使いがち。
そういったことを減らすために、私たちが感染症診療の質を担保して、いい抗菌薬を選んであげる。」

現場の医師たちの意識も変わってきました。

20170207_22.jpg患者を診療する医師
「長期使用だったり、不必要な抗菌薬があったのは事実なんですけれども、使用期間は明らかに短くなっているし、だいぶ変わってきたと思います。」
さらに、患者にも理解を促そうと、医師向けのマニュアルを作りました。

20170207_23.jpg外来では患者が抗菌薬を求めるケースがあります。
そこで、処方する基準を示したのです。

この日、診察を受けに来たのは、肺炎の疑いがある女子中学生。
患者の状態も安定していることから、医師はマニュアルに従い、検査結果が出るまで待つよう伝えました。

20170207_25.jpg患者を診療する医師
「おそらく今の段階では抗生物質は使わなくていいかと僕は考えていますので、たんとせきの薬だけ続けてください。」

抗菌薬を使うかどうかは、肺炎の原因を特定してから検討したい。
医師の説明に、患者も納得しました。
こうした取り組みの結果、この病院では抗菌薬の使用量を20%以上、削減しました。

20170207_27.jpg静岡県立こども病院 抗菌薬適正使用チーム 荘司貴代医師
「抗菌薬を減らせば耐性菌が減ることは分かっているので、それをやるだけ。
可能な限り、未来まで使える抗菌薬を残せるようにしていかなければいけない。」


<“抗菌薬に頼らない” 動き出した現場>
阿部
「医療現場も危機感を持って取り組んでいるんですね。」

松岡記者
「実は私たちも気をつけなければいけないことがあるんです。
20170207_28.jpgそれは、医師に自分から“抗菌薬をください”と求めたり、家に残してあった抗菌薬を自分の判断で飲んだりしないことです。」

和久田
「してしまいがちですけど、本当はいけないんですね。」

松岡記者
「そもそも抗菌薬というのは、自分の体が弱って自分の体力・免疫力だけでは細菌と戦えない、そんな“いざというとき”に欠かせないものなんです。
そんなときに『使える抗菌薬がない』ということにならないためにも、私たち自身が抗菌薬は本当に必要なときだけ使う、安易に頼らないという心がけが必要だと思いました。」

投稿者:松岡康子 | 投稿時間:14時50分

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