GIGAサポ - 考える授業やるキット -

NHK for School

  • 小6
  • 理科

ピラミッドチャートで思考を構造化!
じっくり思考を深め、事実から根拠のある予想を立てる実践授業

授業者
東京学芸大学附属小金井小学校 教諭 三井寿哉
使用した学習支援ツール
Microsoft Teams

今回は、東京学芸大学附属小金井小学校6年生の授業の様子をお届け。初めて授業で思考ツールを使った手ごたえや、児童の思考を”構造化”する板書の工夫などをご紹介します!

「考える授業」の流れ

12時間目

ステップ(1) 問題の把握 蒸発の実験を通して“白い粉は何か”疑問を持つ



やるキットでは前時までの振り返りとして番組の視聴から始めるところを、先生は本時での実験としてスタート。アルミニウムを塩酸に入れ一日たった液体を蒸発させる実験です。児童は7班に分かれ、蒸発する様子を観察します。液体がみるみる沸騰し、溶けていた物質があらわれる様子に盛り上がっていました。
実験が終わると、5年生の実験を振り返り、「食塩水を蒸発させたら食塩(溶けていたもの)が出てきた」ことを思い出します。そのうえで、「じゃあこの白い粉は、アルミニウム?何?」と疑問を投げかけ、【 白い粉はアルミニウム? 】を板書。これについてみんなで確かめることを確認しました。
ここで、動画①「番組シーン②~③」(1:05~03:09)を視聴。みんな、たった今実験した実感をもって番組を見ていました。

ステップ(2) 予想を立てるピラミッドチャートを使い、事実 ”から根拠のある予想をする

さらに、動画②「番組シーン④」(03:10~04:51)も続けて視聴。食塩水や炭酸水を蒸発させる例を見終えたところで、先生は記入シート①(ピラミッドチャート①)を、各班に1枚ずつ配布しました。先生も児童も、ピラミッドチャートを使うのは初めて。先生は使い方を丁寧に説明します。「初めに書いてほしいのは、ピラミッドの下のところ。今テレビで確認できた事実を書いてください」とアドバイス。さらに、「今から手がかりになる動画を流します」と伝えたうえで、白い粉はアルミニウムだと思う人・思わない人、両方の考察を紹介する動画③「番組シーン⑤⑥」(04:52~06:26)を見ました。さらにステップ(3)で視聴予定の動画④「番組シーン ⑦⑨」(06:27~08:30)を視聴し、アルミニウムの性質(電気を通す・水に溶けないなど)を確認します。番組を見終えたところで、「アルミニウムの性質は事実だよね」と話し、事実をピラミッドのいちばん下に書くよう、改めて声をかける先生。「それらをもとにして、中段には結果や事実から、あなたたちの考えを話し合い、書き込むように 」と伝えました。児童は班ごとに、事実と考え、予想を埋めていきます。

ピラミッドチャート
情報や考えを焦点化・構造化するのに役立つツール。今回は予想を立てる際の根拠として、実験結果や観察した事実、そこから気付いたことを整理するのに使用した。

各班でシートに記入をしたところで、先生が黒板にピラミッドチャートを書き、クラス全体で内容を確認することに。まずは下段の“事実”について発表を聞き、板書していきます。
続けて中段についても確認。「アルミニウムである」と考えた班は、「塩酸だけを蒸発させても何も残らなかった。今回は固体が残ったので、それがアルミニウムではないか」と、予想の根拠を発表しました。先生は下段に書いた“事実”の中から、それに該当するものを矢印で中段に移します。一方、「アルミニウムではない」予想の根拠としては、「アルミニウムは銀色なのに粉は白かった」「アルミニウムを塩酸に溶かしたら泡が出たので、何か別のものに変わったのではないか」などが挙げられました。「アルミニウムである」と予想した班は2班、そのほかの5班は「ではない」と予想していました。

ステップ(3)+ステップ(4) より妥当な結論が得られるよう、複数の実験方法を考える

「アルミニウムである・ではない」の2種類の予想が出たところで、実験の方法を考えていきます。ステップ3と4を混ぜ合わせた形で、授業は進んでいきました。
「どういう実験をすれば、確かめられるかな?」と先生が疑問を示し、動画⑤「番組シーン⑩~⑪」(08:31~10:00)をクラス全体で視聴。実験方法のヒントを得ました。各班で、番組で出てきた「白い粉が磁石にくっつくか」を確認する実験を手早く行い、先生はその結果を、キャンディーチャートのように板書(※写真A)でまとめました。「もしアルミニウムなら、磁石につかないはず。磁石につくのは鉄だけだから」と3年生の学習を振り返りつつ、丁寧に確認します。「1つ実験できました。でも、この結果だけでは結論は出しにくいね。他の実験方法を考えてみよう」と、先生は記入シート③(実験計画シート)をTeamsと紙の両方で配布。このクラスには学習全般を紙のノートで記録する子、PCで記録する子が混在しており、記録の仕方は児童に任されています。そのため、今回も児童が記入しやすい方を選べるようにしました。


(※写真A)
思考ツールになれていない児童のために、やるキットにあったキャンディーチャートは今回あえて渡さず、クラスの意見を先生が黒板上で整理して見せた。

実験方法の記入が終わったところで、発表です。「白い粉を導線につなげる。アルミニウムなら、豆電球がつくはず」「もう一度塩酸に入れてみる。もしアルミニウムじゃないものだったら、泡を出して溶けないはず」などの意見が。先生は、予想の理由についても問いかけ、黒板に記入していきました。

児童の考えを丁寧に聞きとり、板書で構造化して見せながらの実験計画づくり。当初1時間の予定だった授業は2時間に拡大しました。次の時間には、発表で出た3種類の実験【①水に入れる】【②電気を通す】【③塩酸に入れる】を行うことを伝え、この時間は終了しました。

13時間目

ステップ(5) 複数の実験を行い結果を記録する

実験に移る前に、先生は実験後にやることを説明します。「記入シート③(実験計画シート)に実験の結果を記入すること」と、「記入シート①(ピラミッドチャート①)を振り返り、予想の根拠を修正すること」です。各班が前時で考えた3種類の実験を行ったところで、クラス全体で結果を確認します。すると、【電気を通す】実験では「電気を通さない」という共通の結果が出たものの、【水に入れる】【塩酸に入れる】の実験では、「溶けた・溶けなかった」と2通りの結果が出たことが判明。「多数決で決めて良い?どうする?」と問いかけると、「もうちょっと(白い粉を)入れてみる」の声があがり、もう一度2種類の実験をやり直すことに。再実験の結果を確認すると、今度は全ての班で「白い粉は水に溶けない・塩酸にも溶けない」という同じ結果となりました。

※本来、白い粉(塩化アルミニウム)は水にも塩酸にも溶ける性質を持ちますが、今回の実験では一度に溶かす粉の量が多く、時間も短かったことから異なる結果が出てしまいました。ただ、子どもたちは白い粉を塩酸に入れたときに泡が出ないことで「アルミニウムではない」と判断していたので、この段階ではよしとし、後日、塩化アルミニウムが水と塩酸に溶ける様子を動画で確認し、情報を補完。より良い実験方法について検討しました。

ステップ(6) ピラミッドチャートを見返しながら、結果の整理と考察を行う

「白い粉は、磁石につかない・水に溶けない・電気を通さない・塩酸に溶けない」という結果を得たところで、「この結果から言えることは何?白い粉はアルミニウムなのか、そうではないのか?」と問いかけた先生。新しい記入シート④(ピラミッドチャート②)を配布することはせず、記入シート①(ピラミッドチャート①)を見直しながら、どちらなのか話し合い、なぜそう言えるのかも考えるように伝えました。最終的には、「アルミニウムではないことは確か」という結論にたどりつきました。
さらに、今回の結果「塩酸にアルミニウムを入れたら別の物が出てきた」を踏まえて、「水溶液は、ものを入れるとどんなはたらきがある?」と問いかけます。「アルミニウムを分解する」「違うものに変える」といった意見が出ました。この問いについてノートにまとめたところで、授業は終わりました。

実践した先生から

今回初めてやるキットと思考ツールを使ったという三井先生。授業を実践してみたことで、思考ツールに対する考え方が変わったそうです。

「やるキット」を活用した三井先生の感想

授業を先取りして結果を知っている子もいる中、ふだんは早く授業を進め実験時間を長くとるようにしていたので、実験までに時間を割くスタイルは新鮮でした。子どもたちもそれを感じていたと思います。これまでは自分の考えを文章で書かせることを大事にしてきたためピラミッドチャートは使ってきませんでしたが、今回のように「なぞのものを解き明かす」ときには、ピラミッドチャートを使って順序だてて考えるのもありだと感じました。子どもは文で書き、それを先生がチャートにまとめて、思考を構造化して見せても良いかもしれません。下段の“事実”を出させるのが大変だったので、そこは番組の力も使いました。班でチャートに記入することで、考えが及ばない子にとっては考える手立てとなり、考えられる子も頭を整理することができます。子どもたちも初めて使ったのですが、書きやすそうにしていたので、今後も使ってみたいと思いました。
また、番組を見せることで授業の補完ができたようにも感じました。例えば、番組で紹介されていた「塩酸を蒸発させる」実験は、危険を伴うので授業では行いませんでした。そういった学校も多いと思うので、番組で確認できるのはメリットだと感じました。

○東京学芸大学附属小金井小学校の実践から「やるキット」アレンジのアイデア

・時間配分をアレンジ!ピラミッドチャート①の記入に重きを置く

たくさんの記入シートや思考ツールが紹介されていましたが、今回は記入シート①(ピラミッドチャート①)に重きを置きました。1つのチャートに集約したほうが、考え方を変えずに最後まで通せるのでやりやすく、考察により深みが増すのではないかと考えたためです。中でも下段の“事実”を充実させたいと思っていたので、5年生の既習内容や、これまでの活動を思い出すことに加え、新たに番組の内容も見て書いてもらいました。最後はピラミッドチャート②③は配布せず、①をもとに振り返ってもらいました。子どもたちも、この1枚の存在を意識して進められていたように思います。実験結果をもとに、もっと丁寧に下段を書く時間を作っても良かったかもしれません。

・児童の思考を板書で構造化する

子どもたちがピラミッドチャートに記入したことを板書することで、彼らの思考を「構造化」し整理しました。「アルミニウムである・ではない」2とおりの意見が出たため、中段は縦に分割して書くことで整理しました。また、ピラミッドチャートに加えて子どもたちが記入シート②(キャンディーチャート)を書くのは時間がかかると考えました。一方で、「アルミニウムならこうなるはず」というのをきちんと示したかったので、私の方で板書してまとめました。

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