GIGAサポ - 考える授業やるキット -

NHK for School

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「やるキット」で子どもの考えがどんどん可視化!
“気付き”が次々に生まれる授業づくりの工夫とは!?

授業者
ノートルダム学院小学校 教諭 梅下博道
使用した学習支援ツール
ロイロノート

今回は、数々の「やるキット」の授業案の作成を手がけてきた、梅下先生の実践授業をお届けします!先生から子どもへの一方的な授業ではなく、子ども同士で考えが自然と広がっていく授業づくりのコツも伺って来ました!

「考える授業」の流れ

4時間目

ステップ(1) 問題の前提を確認 「物が水にとける量は、とける物によってちがうこと」を知ろう

梅下先生は今回の授業の流れを説明したあと、記入シート①(ピラミッドチャート)を子どもに共有しました。先生はシートの一部を穴埋めにアレンジしていて、「動画を見た後に埋めていく」「動画の実験で分かったことを右側に書いていく」と伝え、動画を見るときの視点を与えていました。まず見せたのは「番組シーン①」(0’00~1’13)。子どもからは「塩ってそんなにとけないんだ」と、塩のとけ方に興味を持つつぶやきがありました。


▲先生がアレンジしたシート
一部穴埋めにすることで番組を見るときの視点を子どもに与えていた。

ステップ(2) 問題を把握する 実験結果を整理することを通して生まれた新たな問題をつかもう

動画の視聴後、シートに記入していきます。個人で書く時間を設けた後、グループで見せ合ってもよいと先生が言うと、どう書いたらいいかわからずにいた子どもも、友達が書いたものを参考に、記入することができていました。書けた子どもに発表してもらい「水の温度・量が変わらない場合、水にとける食塩の量には限度がある」ということを共有しました。

実際に水200mlに対して80gを溶かした食塩水を見せて、「このとけ残りをどうしたい?」と、子どもたちに問うと、「全部とかしたい!」「水の量を増やす!」など実験の見通しを持ち始めていきました。全体で「とけ残った食塩をもっととかすためにはどうすればいいか」という課題をつかんで、実験の準備に入っていきます。

ステップ(3) 検証する予想を決める 複数の予想を立てて、その中から確かめたい予想を決めよう

予想を立てるために、記入シート②(フィッシュボーン)を配布。先生は、記入のしかたを説明して「予想は一つでも構わない」と伝えました。まずは個人で記入する時間を設け、その後子どものタブレット上で友達の記入シートが見えるように共有し、「どんな意見があったか、あとで教えてね」と声がけをしました。

友達の記入シートを見て、「そうか!」とつぶやく子どもに話を聞いてみると、「「水の温度」の条件を変えて「水の量と塩の量」の条件は変えないようにしようと思っていた。けど「水の温度」を高くしすぎると蒸発して「水の量」も変わってきてしまうから気をつけなくちゃいけないと気付いた」とのこと。友達のシートに「蒸発しない程度に温める」と記入されているのを見て気付いたそうです。

そしてクラス全体で、とけ残った食塩をとかすためには、「水を温める」「水の量を増やす」という2つの予想が多かったことを確認しました。なぜそう思ったのか先生がきくと、子どもたちは「熱のエネルギーがとかすのを手伝ってくれそう」「200mlの水に40gの食塩がとけることを基準として、80gの食塩をとかすためにはもう200ml足せばいいのではないか」と、根拠を持って予想を立てていることがわかりました。

ステップ(4) 実験計画を立てる 関係する要素(条件)を把握し、結果を見通した実験を計画しよう

ここからは共有ノートを使ってグループで活動していきます。2つの予想のうち、どちらを実験したいかグループごとに決めてもらい、記入シート③(実験計画シート)を配布。実験の道具としてどんなものが使えそうかを子どもと確認して、さらに、「誰が見てもわかるような実験計画書にしてください」と伝えて、具体的に記入するように意識づけをしました。

グループで記入しながら子どもたちは、「どれくらいまで温める?」「水が沸騰して蒸発しないくらいまで温めるのは?」「いきなり温度を高くすると何度でとけたかわからないから10℃ずつ上げるのはどう?」と、話しながら実験の計画を立てていきました。中には、絵や図を使ってわかりやすくまとめている子もいました。

5時間目

ステップ(5) 実験と結果の整理 予想を確かめる実験を行い、その結果を整理しよう

作成した計画書をもとにグループで実験をしていきます。先生が「タブレットをうまく使って記録するように」と伝えると、子どもたちは、塩のとけ残りがよくわかるように黒い板の前で実験をして撮影したり、カメラを固定して動画で撮影したり、それぞれ工夫していました。

「水を温めたらとける」と予想したグループは、予想に反して「60℃いってもとけない」と驚きながらも、「水の量を増やすととける」と予想したグループの実験の様子とくらべながら、「温度より水の量を変えるほうがとけるんだな」と分析していました。

ステップ(6) 結論をまとめる 複数の実験結果を多面的に考察して、より妥当な結論をまとめよう

記録をもとに、実験結果を実験計画シートの下部にまとめていきます。「水を温めたらとける」と予想したグループのなかには、「実験する前と後の写真を見比べたら、とけ残った塩の量が少しだけ変わっていた。温めても少しはとけることがわった」と、写真をもとに、わずかな差に気付く子どももいました。

子どもたちがシートを記入できたところで、「水の量を増やすととけた」「温めると少しはとけた」という実験結果を全体で確認すると、動画クリップ「水の温度と食塩がとける量の関係は…」を見せました。動画を見て子どもたちは「やっぱり温度が上がったからといって、食塩のとける量がすごく増えるわけではない」と確信しました。これが「塩」ではなく「ミョウバン」だったらどうか、次の時間に確かめることを伝えて、授業を終えました。

実践した先生から

「やるキット」の授業案を作成している梅下先生に、実際に自分で使ってみた感想と活用術を伺いました。

「やるキット」を活用した梅下先生の感想

「やるキット」のよいところは、子どもの考えが可視化されていくことだと思います。ピラミッドチャートやフィッシュボーンのように体系的になっていると、子どもも考えやすいですし、友達と見せ合ったときにもどんな考えなのかわかりやすい。実際に、友達のシートを見て、自分では気付かなかったこと、新たな考えを発見するという場面もありました。思考ツールのような、子どもがアウトプットしたくなるしかけは、とても大事だと思います。また、共有することで子どもたち同士の学びを深めています。

また、「やるキット」にはどの場面でどの動画が使えるかのアイデアが書いてあります。実際に授業で動画を見せると、子どもたちが映像からの情報で実験のイメージをしやすくなると感じました。どんな器具でどのように行っているかを参考にして、自分たちはどんな実験にしたいか発想していくことができます。今回のように2つの予想に分かれて実験を行う場合にも、自分がやっていない実験の様子が動画だとスムーズにわかるので、押さえることができます。

理科の授業は準備が多いですが、キットに授業の流れが載っているので、1から準備をしなければならないということがないし、必要なところだけ使って、あとは自分でアレンジするという自由性もあります。ぜひ「この通りにやらなければならない」と思わずに、子どもの実態に合わせてオリジナルの形にしてほしいです。

ノートルダム学院小学校の実践からアレンジのアイデア

●動画を見る前にシートを配布

やるキットの授業案にはビデオを見たあとにシートを配布とありましたが、今回の授業では動画を見る前に配布するようにしました。「動画で何を押さえたほうがいいのか」、子どもが見通しをもつことができると思ったからです。ポイントだけ押さえたいところは穴埋めにしたり、一部記入しておいたりすると、時間を短縮することもできます。また、他のクラスで動画を見たときに「塩よりも砂糖がとけやすい」ということに意識がいってしまう子が多かったので、「今回は食塩の実験をする」ということを強調するためにもシートの「食塩」という文字にマーカーを入れました。そうすることで子どもがより、考えやすくなっていたように思います。

●実験器具を自分で選択できるようにする

実験に使う器具について、「基本のセット」として食塩80gと200mlの水が入ったビーカー、空のビーカー、ガラス棒、雑巾を用意しました。そして「子どもが選んで使えるもの」として、メスシリンダー、ピペット、温度計、コンロ、空のビーカーなどを別に用意しました。
その意図としては、実験で何が必要かも、自分たちで考えて計画してほしいというねらいがありました。自分たちで実験器具を選ぶと「温度を確かめるには温度計が必要だね」「正確に水の量を測るにはメスシリンダーのほうがいいんじゃない?」など、子ども同士の対話も自然と生まれますし、実験の納得感も上がります。

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